《トピック紹介》
現在行っている研究のうち、長周期地震動の影響を受けやすい超高層ビル等のエレベータ障害に着目し、首都圏を対象としたその障害と復旧過程をシミュレーションするための理論モデルの構築に取り組んだ研究についてご紹介します。構築したモデルを用いて復旧シミュレーションを行うことができるようになれば、都市の機能を守るために望ましいエレベータ復旧方針を事前に検討しておくことができ、実際に地震が起こった直後の迅速な災害対応に役立てることができます。
広域災害時のエレベータ復旧は一般的に、保守点検を担当するエレベータ保守会社が独自の対応指針と基準に基づいて復旧対応を行っています。この研究では、エレベータ保守会社へのヒアリング調査結果や収集した関連資料を基に、広域災害時の基本的なエレベータ復旧方針・条件を整理・抽出し、シミュレーションモデルを試作しました。
首都圏での広域災害時を想定していることから、そのような状況下での人的・物的資源及び情報の流れを含めて復旧過程をシミュレーションするため、モデルの構成要素として次の4つを特定しました。
- (1-1) 地理的領域・建物群のモデル化
- (1-2) 入力地震動と建物被害・エレベータ障害関係のモデル化
- (1-3) エレベータ復旧需要供給関係及び復旧コストのモデル化
- (1-4) 専門技術者派遣のモデル化
復旧シミュレーションにおけるモデルの構成要素の位置づけを図1に示します。
(1-1) は、首都圏で長周期地震動被害を考慮すべき地域に対し、今年度は、評価に必要なデータの収集方法や推定手法を整理しました。(1-2) については、地震動の評価結果に基づいて建物が地震後も継続使用できるかを判断し、地震動と建物の揺れの特徴を考慮した上でエレベータの障害発生の有無や程度を判断するモデルを考えました。(1-3)では、対象領域内全体で復旧が必要な建物棟数やエレベータ台数の総数を評価し、それに対してどのくらいの数の専門技術者が対応できるかを推定する方法を考案しました。(1-4) では、広域災害時のエレベータ保守会社による復旧体制を参考に、派遣拠点から復旧を必要とする建物に専門技術者が派遣される過程をシミュレーションするモデルを検討しました。
次に、これらの4つのモデルを用いたシミュレーションで考慮する復旧方針の諸条件として、復旧が必要な建物間の優先順位を定める優先指標を設定し、エレベータの復旧効果・影響度を表現する指標に基づいて、復旧方針の良否を判断する評価体系を整理しました。続いて、シミュレーションモデル試作版の動作検証と、提案した評価手法に基づく復旧戦略の傾向分析を目的に、被害規模や災害シナリオを任意に設定した事例解析を行いました。
具体的な一例を図2 に示します。
ここでは、汐留・品川駅周辺エリアおいて、仮想的に中規模程度の被害を発生させたうえで、「重要施設から復旧し、同じ重要度の建物の場合は延床面積が大きい順に復旧」という復旧方針のもと、復旧シミュレーションを試行的に行いました。この場合、重要施設は1日以内に復旧し、続いて高層建物が2日以内で復旧、その後、一般建物が延床面積の大きい順で徐々に復旧されていき、7日以内に全エレベータの復旧が完了する、という結果になりました。