《トピック紹介》
サブテーマ3では、地域防災を考えた時に、ハザードマップや各種リスク評価の見落としがないか、公表されている各種情報から正しい被災のイメージが描かれているかどうか、災害をしなやかにかわすためには臨時情報を含めてどのような情報を地域に展開すればよいかを検討しています。
その一環として、堤防の強震動による変形を考えてきました。例えば、耐震性照査には粘性土層や長期にわたる圧密変状は対象外となっています。また、地震動の周波数特性と地盤の共振の影響も不十分です。さらに連動発生や地層不整形による表面波などの考慮も必要と考えています。そこで、徳島県那賀川を対象に、強震動波形を低周波成分を含む波形を用いて堤体の変形を検討しました。この地域には、地下深部に粘性土層が分布していることがわかっています。また、堤体の両側で地盤改良が施されています。
使用した波形は、南海トラフ巨大地震モデル検討会(2011)による波形と南海トラフの巨大地震モデル検討会及び首都直下地震モデル検討会(2015)を合成した波形を用いました(図1)。

(上)南海トラフ巨大地震モデル検討会(2011)で使用された強震動波形とスペクトル。
(中)南海トラフの巨大地震モデル検討会及び首都直下地震モデル検討会(2015)で使用された強震動波形とスペクトル。
(下)本取り組みで使用した合成した強震動波形とスペクトル。
前者は振幅が大きく短周期成分が卓越することが特徴で、後者では振幅は小さいが長周期成分が卓越することが特徴です。合成されたハイブリッド波形は、上記の2つの特徴を持つ波形で、大振幅の短周期成分と小振幅の長周期成分の両方を含んでいます。その結果を図2に示します。

(上)液状化対策前、(下)堤防の嵩上げと堤体法尻への静的砂杭圧入による地盤改良による対策後。
上記は地盤改良を施していない場合と現在の地盤改良を施した場合のせん断ひずみ分布です。表層は砂質土層(As1とAs2)で、深部には粘性土層(Ac1とAc2)が分布しています。どちらも、表層に加えて深部Ac2層でのせん断ひずみが大きくなる点は対策前後で共通ですが、対策前は円弧上の滑りが発生したのに対し、改良体が滑りを抑制し、堤体およびその直下以外での変形が大きく抑制されてことがわかります。対策後では、天端高さと照査外水位がほぼ等しい結果となりました。両者の差は地震動の長周期成分による粘性土の乱れの影響であり、従来の耐震性照査では十分に考慮されていない事項です。この評価によると、地震直後は2.22mの天端沈下、地震後10年間では圧密変状によりさらに0.71mの天端沈下、合計で2.93mの天端沈下になりました。
このように、現在の様々な知見を適用して今後も地域防災に関して見落としがないか、正しい被災イメージが描かれているかをテーマに、そのイメージから災害をかわすことができるのか、できないとすれば、発災前にどのような情報をどう使えば被害を抑えられるのか検討を進めていきたいと思います。
- 内閣府,南海トラフ巨大地震モデル検討会:http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/model/index.html
- 内閣府,南海トラフの巨大地震モデル検討会及び首都直下地震モデル検討会:http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/nankaitrough_report.html