Chikyu Report
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思慮にふけり、測定にふける2012年09月01日

こんにちは、皆さん。本航海IODP Expedition337も後半にさしかかりました。研究者たちは皆「ちきゅう」が掘り出した堆積物試料の処理に忙しく追われています。私もその一人で、毎日の夜シフトの12時間、淡々と測定を続けています。左で測ったものを右へ、右で測ったものをまた左へ。時には、試料を成型したら、あちらで測ったものをまたこちらで測ります。何を測定しているかは次の機会でもあればお話しするとして、私はこの「ちきゅう」による下北半島沖掘削航海に参加することをとても楽しみにしていました。それは、この調査海域が研究対象としてとても興味深いところだからです。

この数年間、私はこの下北半島沖海域の地下構造を調べています。そして、この海域では数100万年前から、大規模な海底地すべりが繰り返し発生してきたことが分かってきました。それはとても不思議なことなのです。なぜなら、海底はとても平坦で、傾斜が1°もない、ほとんど水平な海底が広がっているからです。一見しただけでは、巨大地すべりが起こりそうなところにはまったく見えません。

海底地すべりは、最新の弾性波探査によって世界の各海域で発見が続いています。それにしたがって、津波や海底ケーブルの切断などの原因になることも明らかになってきて、近年とても注目されています。でも、地すべりのパターンは様々で、海底地盤が不安定になる原因はあまりわかっていないのが現状です。陸上だと豪雨のあとに地下水の高さが変わります。そして、それが原因となって地盤の状態が不安定になり、斜面などで地すべりが起こります。しかし、いつも水に満たされている海底の地盤だとどうでしょう?同じ原因を直接当てはめるのが難しいってことは、皆さんにも分かっていただけるでしょう。おまけに、この場所の海底は、ほぼ水平なわけですから。


調査海域の地層について研究チームに解説中


さて、地すべりを研究するのに、なぜこの「海底下深部生命圏と炭素循環システム」の掘削航海に参加しているかって?それはこの海域の地層の特徴がそのカギを握っているからです。

弾性波を使った海底下の構造解析を進めると、海底地すべりにつながる地盤の不安定化の原因には、本掘削調査のテーマの一つでもある「天然ガス」が関わっていることが分かってきたのです。今のところ、資源につながるほどのガスの量は想定されていません。そして、私たち人間が生きている時代は、海底地すべりの起こりやすい時期からは外れているようです。

ここでの研究の一つとして、私は地層中の温度情報を過去にわたって追究しようとしています。ガスや水の状態、また微生物の活動にとっても、温度はとても重要なパラメータです。微生物学の研究によると、この海域の地層では、非常に多くの微生物が活動をしている可能性があります。天然ガスがつくられるには微生物活動が関わっていることも多いので、このような非凡な特徴をもった環境が、海底地すべりにつながる海底地盤の動きと何らかの関係をもっているのかもしれませんね。そんなことを考えながら、今夜もやはり淡々とラボで測定を続けるのです。


マルチセンサーコアロガーという分析装置を前にラボテクニシャンの鈴木さんと。


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