Chikyu Report
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オリンピックと「ちきゅう」に共通するもの2012年09月07日

オリンピックと「ちきゅう」の科学掘削研究に共通するもの ― その答えは、「世界記録」ではないでしょうか。

私を含む世界中の多くの人々が、この夏のロンドンオリンピックを観戦しました。オリンピックは、人間がもつ能力の限界に挑み、時に世界記録を破り、新たな記録が生まれる、ワールドクラスのアスリートが集う特別なスポーツイベントです。オリンピック競技を見ていると、私は陸上、水泳、跳躍などのアスリートが、そのスピードや技術を絶えず磨き続け、数ミリメートルもしくは百分の一秒ほど世界記録を更新し続けるのに驚かされます。

オリンピックの閉会式の数日後に、私は下北八戸沖掘削航海に参加し、太平洋の海底下深部に埋もれた石炭層に生息する微生物を研究するために来日しました。私たちが乗っているこの船 ―荘厳たる地球深部探査船「ちきゅう」― は、これまでに科学研究を目的として造られた掘削船の中で最大のものです。私はこれまでジョイデスレゾリューション号という掘削船に2回乗船し、非常に楽しかった思い出があります。しかし、この「ちきゅう」は全くちがうクラスです。単にサイズ、快適さ、実験室の規模のみならず、様々な分野の最先端の研究を行う能力において、世界記録を打ち立てる究極のポテンシャルを持っています。

そして今、まさしく我々は、「海洋科学掘削の歴史における世界最深の掘削孔」を調査しています。昨夜、私たちは1993年にエクアドル沖でジョイデスレゾリューション号が達成した、海底下掘削深度記録2,111mを更新しました。


「コア・オン・デッキ!」世界記録のコアが回収され、
研究者が待つコアカッティングエリアに運ばれていきます。photo: Luc Riolon


9月6日の午前3時頃、海底下2,120mに到達する記録的なコアをドリルフロアから受け取った感動の瞬間でした。未だかつて人類が到達していないような地球内部から採取された科学的サンプルを見て、我々は皆歓喜すると同時に、そのサンプルが、いかに科学にとって貴重で代え難いものであるかについて考えさせられ、そしてそれを調査できる経験を誇りに思いました。仮に「ちきゅう」がドライシップ(禁酒船)でなければ、私たちは間違いなくシャンパンを開けて祝福していたことでしょう。


下北八戸沖石炭層掘削調査航海Expedition 337の共同首席研究者の稲垣史生氏が最深度記録を更新する最初のコアをみてグッドサインを出した瞬間。photo: Luc Riolon


オリンピックのトップアスリート達は、自らのパフォーマンスを少しずつ向上させていきます。しかし、「ちきゅう」は、これまでに(科学目的に)海洋で掘削された最深度記録をすんなりと抜き去ったような感じがします。この探査船は、地球科学に立ちはだかる様々な壁をドラマチックに乗り越えていくに違いありません。近い将来、私たちは「ちきゅう」によって、さらに多くの記録が生まれる瞬間を目にすることでしょう。ここで言う記録は、単に掘削深度の伸長だけではありません ―この探査船は、私たちの暮らす惑星「地球」の理解に必要な、様々な分野の科学におけるブレークスルーに応えることのできる能力を持っています。それらは、海洋科学掘削に携わる多くの国際的な科学者の想像力を刺激し、切望させるものなのです。

私たちは、まだまだ世界記録を更新中です。この「下北八戸沖石炭層生命圏掘削調査(Expedition 337)」では、深海底のさらに奥深く、最も深い海底下に生息する生命を発見するチャンスが残されています。しかし、私たちの科学掘削における世界記録は短命かもしれません ―次の「ちきゅう」の数ヶ月にわたる南海トラフでの調査航海では、実に海底下3.6キロメートルの深度がターゲットなのです。


海底面からのコアサンプル採取深度がホワイトボードにメートル表示されるphoto: Luc Riolon



共同首席研究者の稲垣史生氏(左)とKai-Uwe Hinrichs氏(右)が、
世界記録がマークされたコアを指差しているところ。photo: Luc Riolon



Very happy!(共同首席研究者の稲垣氏とHinrichs氏)photo: Luc Riolon


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