Chikyu Report
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京都・北山の姿を想いながら2012年09月16日

ロギングスペシャリストとして乗船中の山田です。と言われても何の担当だか分かりませんよね?ちょっとややこしい係なので、その話は後で・・。

私が「ちきゅう」に乗るのは今回が2回目です。前回は「ちきゅう」の最初の研究航海のとき(2007年)でした。このときは船の人たちにも私たち研究者にも経験したことのないことがいろいろと起こりました。今回乗船してみますと、船の人たちは皆さんすでにベテランそのものでして、言葉通り「大船に乗った」気持ちです。実際「ちきゅう」は6万トンもある大きな船ですからね。前回「ちきゅう」に乗ったときに台風が直撃したのですが、実験室にいた私はそれに気がつかなかったくらいなのです。もちろん船ですから、いつもゆらゆら揺れますが、まるでゆりかごの中にいるようで毎晩ぐっすり眠れます。ご飯もおいしいし、船上生活は快適そのものです。

さてさて、実は私は大学を普通に4年間で卒業してからずっと会社員生活を送っていました。大学では地球科学を学んだのですが、学生だった私には大学で学んだことが社会でどう役に立っているのか分からなかったのですね。そこで石油会社に入って、油田・ガス田を探すという仕事に就きました。そこで初めて「おお地球科学ってこんなに世の中の役に立っているのだなあ」と分かりました。資源とかエネルギーって元々はほとんど地下にあって、それを探すために地球科学が役立っていることを皆さん知っていました?会社には優秀な方々がたくさんいて、私はいろいろなことを教えてもらいました。そうしてもっと地球科学を知りたい、それを使ってもっといろいろなことがしたい、と思うようになり、今の私がいるのです。大学や会社で学んだことを、今は研究室の学生たちと一緒にもっと磨きをかけて、新しいことを見つけ、それを使って何かの役に立てようということに取り組んでいます。この船に乗って海底に井戸を掘り、最先端科学に貢献することも、これまで私を応援してくれた多くの方々への大切な恩返しと思っています。

そろそろロギングのこともお話しないといけませんね。ロギングの元々の意味はログ(記録)をとることなのですが、この航海でのログとはデータのことです。今回掘った井戸の中に特殊な計測器を入れて、地下の地層に関するいろいろなデータや地下水を取ってくるということをしました。それをロギングと呼んでいます。私の担当は、このデータを使って今回掘った地層について詳しく調査することです。このロギングという調査の方法は、地下エネルギー資源を探すために普通に使われていますので、私は会社員時代の経験をここで役立てていることになります。


ロギングデータ観測ユニットにて。12時間連続計測が無事終了してほっと一息


今回の航海では、ロギングで海底の地層から地下水を取ってくるということを行いましたが、さすがに数千万年前の地層は百戦錬磨。そう簡単には水を取らせてくれません。ロギングのデータを解析して水を取らせてくれそうな地層に目星をつけておいてから、採水装置を井戸の中に入れて狙った地層から吸い出そうとしたのです。しかし海底下2000mの地層は予想していたよりもずっと柔らかく、吸い出そうとすると崩れて採水装置が詰まってしまうのです。そこで、地層を装置で押したり引いたり・・。皆さんは私たちが太平洋上で海底地層を相手にこんな駆け引きをしていたなんて想像できますか?私たちの粘り強い努力に折れたのか、最後には地層は水を取らせてくれました。この水を分析することで、これまで知られていなかった地球の姿がまたひとつ明らかになりそうです。


ロギングデータ解析中のスタッフサイエンティストの素敵な面々
(真田さん、中村さん、Moeさん:左から)と私(右端)


ロギングのログには「丸太」という意味もあります。ログハウス(丸太の家)って聞いたことありますよね。私は京都に住んでいるのですが、京都御所の南側に丸太町通りという名前の大通りがあります。この通りが鴨川を渡る橋の上から眺める北山の姿は、私の好きなもののひとつなのですが、その光景を思い出して頭の中をリフレッシュしながら、データが語る数千万年前の物語に耳を傾けています。


ロギング計測器の一つが井戸の中に入れられ、これからデータを取るところです

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