令和2年度活動報告

令和2年度の観測航海活動について

西部北太平洋亜寒帯~亜熱帯海域

みらい航海 (MR21-01: 2021/2/13-3/24)
「アジア大気微量物質による海洋生物地球化学への影響評価(“IMPACT-SEA”プロジェクト)」

KEO, K2ほか観測点におけるセジメントトラップ係留系の回収・再設置、ルーチン観測、大気観測、降雨観測、基礎生産観測、色素観測など

観測実施内容(1):KEOにおけるセジメントトラップ観測研究

KEOにおけるセジメントトラップの回収・再設置

3/6回収
3/7設置
水深1800mと4800mにおける沈降粒子フラックスの時系列変化(速報値)

○初めての1800mセジメントトラップデータ
●貧栄養海域における栄養塩のミッシングソース
●陸起源物質の起源(含マイクロプラスチック)
●沈降粒子の経年変化の考察

観測実施内容(2):基礎生産観測実験

冬季の亜寒帯~亜熱帯海域における植物プランクトンの基礎生産測定

植物プランクトン培養実験
降雨に伴うエアロゾルの海洋沈着が基礎生産に及ぼす影響を評価するため、雨雲追跡観測を実施した。
初夏の亜寒帯海域(KNOT:ブルーム期)・亜熱帯海域(KEO:成層期)との冬季混合期の鉛直基礎生産分布の比較(速報値)

トピックス

(1)西部北太平洋亜寒帯循環域におけるCO2の効率的な海洋内輸送

背景

粒状態有機炭素(POC)は大気中で増加する二酸化炭素(CO2)を海洋内へ輸送する重要な働きを持つ。
全球的な炭素循環をより良く理解するためには、POCの鉛直輸送過程すなわち生物炭素ポンプ(BCP)能力を精査する必要がある。

課題

どのようなメカニズムによってBCPの強さが決定するのであろうか?

本研究

亜寒帯観測定点K2と亜熱帯観測定点S1のPOCフラックスの鉛直変化を比較して、POC鉛直変化の違いを生み出す要因について考察した。

Honda MC (2020) Effective Vertical Transport of Particulate Organic Carbon in the Western North Pacific Subarctic Region. Front. Earth Sci. 8:366. doi: 10.3389/feart.2020.00366

(2)水柱の安定性に応じて発生する北西部北太平洋の亜熱帯ブルーム

背景

北西部北太平洋亜熱帯域では冬から春に植物プランクトンブルームの発生が観測される。

課題

中央部北太平洋亜熱帯域で観測される夏季ブルームに比べて観測知見が少なく、ブルームの形成要因が不明瞭。

本研究

冬季ブルームは突発的な成層、早春ブルームは季節成層、晩春ブルームは成層崩壊によって形成され、冬季混合が弱い年はブルームの規模は小さく、冬季混合が強い年は大規模なブルームが発生する。

Matsumoto, K., Y. Sasai, K. Sasaoka, E. Siswanto, M. C. Honda (2021), The formation of subtropical phytoplankton blooms is dictated by water column stability during winter and spring in the oligotrophic northwestern North Pacific. Journal of Geophysical Research: Oceans,126, e2020JC016864. https://doi.org/10.1029/2020JC016864

(3)準リアルタイム衛星観測システム開発

背景

人口密度の高い国々に囲まれているアジアの沿岸海域は気候変動に対して脆弱である。

課題

富栄養化や赤潮の発生は、生態学的、経済的、社会的に悪影響をもたらすアジアの沿岸海域に共通の問題である。

本研究

海色特性のモニタリング、特に赤潮発生の監視を目的として、アジア海域をカバーする準リアルタイム衛星観測システム(NRT-OS)の開発に着手。NRT-OSは、NASA/MODISの中解像度(1000m)および日本のGCOM-C/SGLIの高解像度(250m)のデータ・画像を、日本-アジア沿岸監視システムweb(JASCOMS)を介して中継する。現在、赤潮や富栄養化のアルゴリズムをこのシステムに実装するために開発中。