2019年度成果

1. 後方散乱計・水中ビデオカメラによる粒子の時系列光学的観測開始

1.1 後方散乱計の性能試験と長期時系列観測開始

(1) 性能試験

みらいMR19-02航海中、後方散乱計を搭載したカルーセル採水器を投入、様々な場所、水深において収集した後方散乱計データと採水・濾過・化学分析で得られた粒状態有機炭素(POC)濃度を比較し、後方散乱データから海中POCを換算する方法に関する推定を開始した。

各後方散乱計(7台)における700nm波長の粒子後方散乱 vs POC(括弧内は長期設置地点と水深)
(2) 長期時系列観測開始

K2のハイブリッド係留系およびKEOのNOAA表層ブイ係留系の複数層(左図参照)に後方散乱系を搭載し、粒子の光学的長期時系列観測を開始した。

K2 200m自動採水装置(RAS)に搭載された後方散乱計(矢印)

1.2 水中ビデオカメラ(マリンスノー観察カメラ)の開発と時系列観測開始

水中を沈降するマリンスノーの季節変化を捉えるため、観測機器に取り付けて、一年近い連続観測を行うためのカメラ(Underwater Video Camera; UVC)を開発した。UVCは浅海用と深海用の計二台で、前者はアクリル製の、後者はステンレス製の耐圧容器にそれぞれ組み込まれているが、内部はいずれも共通の設計である。UVCはLinuxボード、Raspberry Piおよび同ボードの専用カメラモジュールV2と自作の超低消費電力タイマーを組み合わせたもので、週に一度の動画・静止画撮影を50回以上行えるよう設計した。カメラは太陽光の届かない水深に設置するため、LEDを実装したプリント基板をエポキシ樹脂で固定した照明を開発し、カメラと照明を連動させた。バッテリーには、自己放電が少なく、電力容量も大きい小型リチウムイオン電池を採用した。耐圧容器の材質は、浅海用にはアクリルを、深海用には耐蝕ステンレス(SUS316)をそれぞれ採用した。カメラと照明は、別途製作した台座に固定し、これを係留系の観測機器に取り付けた。
浅海用のカメラは「みらい」MR19-02 航海において船上で試験運転を行った後、西部北太平洋Station K2(設置水深175m; 2019/6/10 0:00LSTより、3分の動画撮影を9日間隔で行う。)に設置した。また、深海用のカメラは「白鳳丸」KH-19-04航海において、西部中緯度太平洋Station KEO(設置水深1750m; 2019/7/27 0:00LSTより、3分の動画撮影を9日間隔で行う。)に設置した。これらのUVCによって撮影された動画・静止画はRaspberry PiのSDカードに記録されるため、2020年度航海の回収後にパソコンで読み出し、画像解析によってマリンスノーの時系列変動を数値化する予定である。

Station K2 175mに設置したCTDに取り付けたカメラ
Station KEO1750mに設置したセジメントトラップに取り付けたカメラ

2. 亜熱帯観測定点の海洋構造

2.1 亜熱帯ブルーム形成過程の把握

西部北太平洋亜熱帯域において、亜熱帯ブルーム期の水柱内の特徴を観測で捉え、モデルでも再現された。冬季~春季に生物ポンプによる鉛直輸送を高める亜熱帯ブルームの形成過程の把握と形成要因の理解が進められた。

A:冬季混合前期(栄養塩律速)
B:冬季混合発達期(光律速)
C:成層期(ブルーム形成)
D:成層・再混合期(ブルーム形成)
E:成層発達期(栄養塩律速)

上段:
船舶観測で捉えられた冬季~春季ブルーム期の典型的な硝酸塩、クロロフィル鉛直分布。
点線は成層している深度、実線は混合していた深度を表す。

下段:
モデル計算による硝酸塩、クロロフィル鉛直分布。
船舶観測で捉えた特徴的な分布期間が再現された。

2.2 衛星データとセジメントトラップデータの比較

衛星データ解析の使命の一つは表層域の有機炭素量変動と海洋中層部(トワイライトゾーン)における有機炭素フラックスの変動との関係を明らかにすることである。観測定点KEO (32.5°N / 144.5°E) における有機炭素フラックスの時系列観測は、2014年から同地点でのセジメントトラップ 実験で行われてきた。本研究の一環として、2014-2019年の間、MODIS海色センサーで得られた粒状態無機炭素濃度(PIC: 右図A)、粒状態有機炭素濃度(POC: 右図B)、クロロフィル濃度(CHL: 右図C)が解析された。さらに海面高度(SSHA、右図C)、海洋表層流向流速(右図D)も合わせて解析された。POC濃度とCHL濃度は春(夏)に高い(低い)値が観測されたが、特に2015年と2018年の春の値が高かった。一方、水深5000mのセジメントトラップ で捕集された全粒子フラックスも2015年と2018年の晩春もしくは初夏に高い値が観測された(右図E)。今後は、同地点の海洋物理学特性や気象の季節変動、経年変動も考慮しながら、これらの関連性について定量的に評価し、POCの鉛直変化過程について解明していく予定である。

3. アルゴフロートによる粒子の光学的時系列観測

2017年7月に西部北太平洋亜寒帯観測定点K2において生物地球化学データ観測用センサー付アルゴフロート(BIO-ARGO)を投入し同海域の後方散乱の鉛直分布の時系列観測を開始し、約330日間の時系列観測に成功した。100m以浅の後方散乱の多くは植物プランクトン現存量を反映していると考えられるが、それ以深でクロロフィル濃度が増加せず後方散乱データのみが増加している場合は動物プランクトンあるいは海中の懸濁・沈降粒子が増加していると推察された。現在、これらのデータを解析し、粒状態有機炭素(POC)の鉛直変化を解析する方法を検討中である。2019年には亜熱帯観測定点KEOにもBIO-ARGOを投入し、K2と後方散乱鉛直分布の時系列変化の比較を開始した。