JAMSTEC
平成8年12月12日
海洋科学技術センター

世界最深部のマリアナ海溝に生息する微生物の実態を世界で初めて解明

1.概要
 海洋科学技術センター(理事長 石塚 貢)は、本年2月29日〜3月4日、 10,000m級無人探査機「かいこう」 の最大潜航深度操作慣熟訓練をマリアナ海溝 チャレンジャー海淵(水深10,898m)において実施した。この際に世界で初めて 深度10,000m以上の海底から深海微生物を含む海底泥の採取に成功し、この試料 から微生物の分離を行ってきたが、この度この研究の一環として、超高水圧(約1千 気圧)で低温(約2℃)という過酷な環境下にあるマリアナ海溝の微生物の実態の一 端を明らかにすることが出来た。

  
2.成果の概要
(1) マリアナ海溝は微生物にとって増殖、環境適応に厳しい条件下にあるにも かかわらず、約180種もの多くの微生物が分離された。また、海底泥中の微生物生 存数は地上の約1万分の1であった。
(2) 超高水圧(約1000気圧)で生育できる好圧性菌が、栄養、培養時間等の培 養方法の改良により、わずかであるが分離され、このような菌がマリアナ海溝にも存 在することが確認された。
(3) また、生存が確認された微生物中に、マリアナ海溝の環境条件からは予想しが たい微生物である好熱性菌、好アルカリ性菌等も分離された。

3.成果の意義
(1) 超高水圧、低温等の過酷な特殊環境下にある世界最深部のマリアナ海溝に 生育する微生物の分離に成功し、通常の微生物はもちろんのこと、それ以外の好圧性 菌、好熱性菌、好アルカリ性菌など多くの種類の微生物の存在を明らかにした。
(2) マリアナ海溝の環境条件からは予想しがたい微生物が分離されたことから、超 高水圧、低温という環境下で太古の微生物が未だ眠りから覚めず保存されている可能 性があり、今までに分離されていない有用な新しい微生物の分離が予想され、微生物 資源、遺伝子資源として産業分野への応用が期待される。

4.今後の研究方向
(1) 得られた微生物について分類学的な面から、微生物の新規性及び分類学的 位置づけを明らかにするとともに、生理学的な面からは、新しい代謝機能及び酵素生 産等の性質を明らかにしていく。
(2) 専用母船「かいれい」 の建造により、稼働率の飛躍的向上が期待される 「かいこう」 を今後積極的に活用し、未採取の海域の深海底から海底泥を採取し、各深度に おける微生物の実態を明らかにするとともに、有用な微生物の分離を行う。

                            
5.参考資料
(1) マリアナ海溝の位置付け(図-1)

(2) 写真
 ア.マリアナ海溝から分離された微生物の電子顕微鏡写真(走査型) (写真-1,2)
 イ.「かいこう」 に搭載された無菌採泥器(写真-3)
 ウ.マニピュレータによる海底泥試料の採取状況(写真-4)


(用語解説)
 通常の微生物 :常温、常圧下で中性の栄養培地に生育する微生物
 好圧性菌   :常圧下では生育できず、高圧力下を好んで生育する微生物
 好熱性菌   :常温では生育せず、55℃以上を好んで生育する微生物
 好アルカリ性菌:中性以下では生育せず、アルカリ性側(pH10)を好んで生育
             する微生物
 

以上  


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