JAMSTEC

「ナホトカ号」沈没部調査の結果について

平成9年3月4日
科 学 技 術 庁
海洋科学技術センター


1月23日から2月24日の約1カ月間にわたって行なわれた 「ナホトカ号」沈没部の調査が終了し、以下のとおり報告書がとりまとめられ ましたのでお知らせ致します。

なお、本調査を実施するにあたり、御協力いただいた関係機関の方々には厚く御礼を 申しあげます。

(報告書は以下の通り)


JAMSTEC

「ナホトカ号」沈没部の調査結果について

平成9年3月
科 学 技 術 庁
海洋科学技術センター


1.調査の概要

海洋科学技術センターは、平成9年1月2日(木)に沈没したロシア船籍のタンカー 「ナホトカ号」の沈没した船体の確認並びに船体の概況及び油の漏出状況の把握を 行うとともに、運輸大臣の要請に基づき破断部の詳細な状況の把握を行い、 政府のナホトカ号海難・流出油災害対策本部(本部長:運輸大臣)等関係方面における 検討の基礎資料を得るため、島根県隠岐諸島の北東約140キロメートル沖合の油湧出点 付近の海域において、深海観測装置「ディープ・トウ」及び深海探査機「ドルフィン−3K」 (支援母船「なつしま」(1,553総トン))を用いた「ナホトカ号」の 沈没部の調査を行った。

(1) 調査海域
島根県隠岐諸島の北東約140Km沖合の海域 (北緯37度14.4分、東経 134度24.9分の付近)、水深約2,500m

(2) 使用船舶及び装置
a. 使用船舶: 支援母船「なつしま」(1,553総トン)
b. 使用装置: 深海観測装置「ディープ・トウ」、深海探査機「ドルフィン−3K」

(3)調査の経緯と主な出来事
a. 深海観測装置「ディープ・トウ」による調査
1月23日(木) 「なつしま」神戸港を出港。
  25日(土) ソーナー調査により海底の「高まり」を検出。
  27日(月) カメラ調査により海底に船体を確認。船尾側の居住区付近及び船体の破損箇所を撮影。
  28日(火) ソーナー調査により、確認した船体の長さが100〜150m程度であり、 船首側を北東に左傾して海底に横たわっていることを確認。
2月 2日(日) ソーナー調査により、船体の長さは120〜130m程度であることを確認。
   3日(月) 「なつしま」舞鶴港(京都府舞鶴市)に帰港。

b. 深海探査機「ドルフィン−3K」による調査
2月 7日(金) 「なつしま」舞鶴港を出港。
   9日(日)確認した船体の船尾にある船名により「ナホトカ号」で あることを確認。また、同船体の船首側先端の破断部及び船体全体の状況を観察。
  10日(月)船体中央付近の右舷側の手摺りに油が付着し、 時折海面に向かって上昇している様子を観察。
また、船体中央付近の甲板上右舷側4番タンクのマンホールからも油が漏出し海面に向かって 上昇していく状況を観察。なお、手摺りにからまる油の一部を採取。
一方、同船体の船首側先端の破断部を観察。
  11日(火)「なつしま」舞鶴港に帰港。
  13日(木)運輸大臣より科学技術庁長官に対し、破断部の再調査要請。
  14日(金)「なつしま」舞鶴港を出港。
  18日(火)
  〜19(水)
船首側先端の破断部を詳細に観察。 甲板の一部(中央5番タンクの上) に折損があること等の状況が判明。
  23日(日)油の漏出状況を再度把握するため、甲板上右舷側を可能な限り調査。
右舷側4番タンク後部手摺り下の亀裂及び中央8番タンクのマンホール付近から 油が漏出している様子並びに中央9番タンクの上にある踊り場と手摺りに油が 付着している様子を観察。
  24日(月)「なつしま」舞鶴港に帰港。

2.これまでの調査結果及びその評価

(1) 「ナホトカ号」沈没船体の確認
  • 海上保安庁の測量船「海洋」の調査により沈没船体があると推定されていた 油の湧出点付近の海域において、海底に沈没した船体を確認し、船尾の船名により これが「ナホトカ号」であることを確認(画像1)。

(2) 船体の概況
  • 船体は、船首側を北東の方向に左舷側を下にして70〜80度の角度で大きく傾いて 横たわっていることを確認。
  • 右舷側5番タンク(空タンク)の船側が潰れている様子を確認 (画像2)。

(3) 油の漏出状況
  • 船体中央付近の右舷側の手摺りに油が付着し、時折海面に向かって上昇している 様子を観察(画像3)。油の一部を採取し、分析のため運輸省にこれを提供。
  • 甲板上右舷側4番タンク及び中央8番タンクのマンホールから、 また、右舷側4番タンクの後部手摺り下の亀裂から油が漏出し、 海面に向かって上昇している様子を観察(画像4)。
  • 中央9番タンクの上にある踊り場と手摺りに油が付着している様子を観察 (画像5)。
  • 上記以外の右舷側の船側及び甲板面については、油の漏出、付着等は観察されなかった。

(4) 破断部の状況
  • 船尾から約110〜120m付近で、船体が長手方向にほぼ垂直に破断されている様子を 観察(画像6)。
  • 甲板の船首側破断部付近の隔壁に沿った一部(中央5番タンクの上部)が折損している 状況を観察(画像7)。
  • 運輸大臣が設置するナホトカ号事故原因調査委員会における詳細な検討における 基礎資料として提供。

(5) 評 価
  • 左舷側の船側及び甲板面については、船体が横たわっていること、 マストなどの突起物による拘束の危険があること等の理由により調査は実施できなかったが、 その他の部分については詳細に調査が実施できたことから、 当初の調査の目的は概ね達成されたものと考えられる。
  • 一連の調査の結果、ナホトカ号沈没部の状況がかなり詳細にわたって観察された。 これらの調査結果は、政府が行う船尾部の残存油対策、事故原因の究明等の検討に当たっての 重要な基礎資料として活用されることが期待される。


(1)「ナホトカ号」沈没船体の確認

画像1 船尾部にある船名及び船籍港名「НАХОДКА」により「ナホトカ号」であることを確認
(2月9日午前10時55分頃「ドルフィン-3K」により撮影)

(2)船体の概況

画像2 右舷側5番タンク(空タンク)の船側がつぶれている様子を確認
(1月27日午前11時44分頃「ディープ・トウ」により撮影)

(3)油の漏出状況

画像3 船体中央付近の右舷側の手摺りに油が付着し時折上昇している様子
(2月10日午前9時45分頃「ドルフィン-3K」により撮影)


画像4 右舷側4番タンク後部手摺り下の亀裂から油が漏出している様子
(2月23日午前10時38分頃「ドルフィン-3K」により撮影)


画像5 中央9番タンクの上にある踊り場と手摺りに油が付着している様子
(2月23日午前10時40分頃「ドルフィン-3K」により撮影)

(4)破断部の状況

画像6 船首側先端の破断部がほぼ垂直に破断されている様子
(2月18日午後3時7分頃「ドルフィン-3K」により撮影)


画像7 中央5番タンクの上部が欠損している様子
(2月19日午後3時21分頃「ドルフィン-3K」により撮影)


船体撮影箇所
ナホトカ号タンク配置図

深海観測装置「ディープ・トウ」
「ディープ・トウ」は、海底の地形調査や海底面の観察等のため、ケーブルの先端に取り付け、 船舶により曳航して使用するものであり、本体自身は動力源を持たない観測機器である。
現在、海洋科学技術センターでは、ソーナー(音波を用いた探査機器)及びカメラを搭載した ものを所有しており、最大4,000mの深度まで調査可能である。

ソーナー曳航体


カメラ曳航体


深海探査機「ドルフィン-3K」

「ドルフィン−3K」は、水深3,300mまで 潜航が可能な深海探査機で、ケーブルをつうじて船上の制御室より 動力、情報の伝達を行うことにより自航能力を有する。 推進装置は6台あり、自由度の高い動きが可能であることから搭載されている 高性能TVカメラにより様々な角度からの映像撮影が可能。



支援母船「なつしま」

深海探査機「ドルフィン3K」や深海観測装置「ディープ・トウ」の 整備補給システムが完備されており、洋上基地の役目を果たす。 (1,553総トン)



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