JAMSTEC
平成10年3月6日
海洋科学技術センター


今世紀最大のエル・ニーニョ現象の“卵”を世界で初めて観測


海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は1994年よりパプア・ニュー ギニア近海の赤道上にブイを展開し(図ー1)、 海流の測定を2年半に亘り行っ ていたところ、今回、今世紀最大のエル・ニーニョ現象発生時における西太平洋 赤道域の強い海流変動を、世界で初めて観測することに成功いたしました。
具体的には、1996年12月に、今世紀最大といわれる1997年のエル・ ニーニョが生まれた瞬間と考えられる表層での極めて強い東向きの海流、および その海流の垂直方向の構造を観測することに成功いたしました。この流れは観測 海域での西風により引き起こされたものとみられ、海面近くでは3ノット(毎秒 150cm)にも及び、百数十mの深さまで観測されました (図ー2)。この観測 域はエル・ニーニョ現象の発生域にあたり、観測された表層の東向きの強い流れ は今世紀最大といわれる1997年のエル・ニーニョ現象の“卵”に該当し、今 回世界で初めてその垂直構造が詳細に観測されたことになります。この1997 年のエル・ニーニョは4月には東部太平洋での海面温度偏差の上昇として確認さ れ、この海面温度偏差の上昇は1997年8月以降に最大となりましたが、東部 太平洋での海面温度偏差の上昇の4ヶ月ほど前にこのような海流の変化がパプ ア・ニューギニア近海のエル・ニーニョの発生域で観測されたことは、エル・ニ ーニョに予測の可能性に道を開くものと期待されます。

この時期の流速のデータを宇宙開発事業団の地球観測プラットフォーム技術衛 星“みどり”による海上の風のデータ(図ー3) と比較しても、表層の海流の向 きと強さは海上の風とよく一致していました。エル・ニーニョ発生期には西太平 洋赤道海域でしばしば西風バーストと呼ばれる強い西風が観測され、この西風と エル・ニーニョとの関連がこれまで多くの研究者により報告されています。海洋 科学技術センターではこうした西太平洋赤道海域の大気と海洋の相互作用を総合 的に捉えるべく海洋構造の詳しい観測を行っています。さらに、本年2月初めに は同海域に設置されているブイからのデータが回収されており、当該機器に記録 されている1997年2月から1998年1月までの流向流速データが得られれ ば、海洋調査船「かいよう」で観測された気象データと組み合わせ更に詳細な解 析を行うことといたします。
今後、海洋科学技術センターは音響式流向流速計による観測を同海域において 継続して実施するとともに、本年3月より海洋地球研究船「みらい」を用いてト ライトンブイを展開し、更に充実した海洋データの取得を行い、また、熱帯降雨 観測衛星のデータ等も総合的に活用し、海洋科学技術センター、宇宙開発事業団 をはじめ、昨年10月に発足した「地球フロンティア研究システム」等関係研究 機関においてこれらのデータを活用し、グローバルな地球気候変動研究の一環と して、エル・ニーニョ現象の解明、予測に取り組んでいく予定です。

《参考》エル・ニーニョ現象と海流の関係について
西太平洋赤道海域表層は常に28度以上の水温を保つ暖水プールと呼ばれ、冬 にはモンスーンの北西風が吹き込み夏には南東風が卓越するところであり、ま た、エル・ニーニョ発生の原因を形成するところであると考えられています。海 洋科学技術センターは、このような海域では海流や海洋構造の変化が季節によっ て、あるいはエル・ニーニョのような年々変動を示す時にどのような変化が起き ているのかを解明するためにこの海域で観測を継続しています (図ー4)。これ までにも同海域には米国海洋大気庁(NOAA)のブイが展開されていました が、連続して海流を測定したのは初めてであり、エル・ニーニョ現象の発生から 発達に至るしくみの解明に大きく貢献するものと期待されます。



      問い合わせ先:海洋科学技術センター
      海洋観測研究部菱田、宗山、松浦0468-67-3871
      普及・広報室池川0468-67-3807