JAMSTEC
海洋科学技術センター


MODE'98の概要
  1. MODE'98の概要

    海洋科学技術センターは、平成10年5月より約7ケ月間、「しんかい6500」/「よ こすか」を大西洋・インド洋に派遣し、日・米・英・仏などの国際協力によって、海 洋プレートの生成域に当たる大洋中央海嶺域での潜航調査航海MODE'98(Mid Oceanic ridge Diving Expedition )を行います。この研究航海は、海洋地殻(海洋プレート )形成の場である大洋中央海嶺における地球物理学・地質学・地球化学・生物学的な 総合研究を行い、その形成と海洋底拡大の過程を解明することを目的とするものです 。今回は、大洋中央海嶺のうち特にマグマ活動の緩やかな、海洋底の拡大速度の遅い 大西洋中央海嶺及び南西インド洋海嶺について、海底観察、底質試料の採取、重力・ 地磁気などの各種物理計測などの精密調査を行います。


    前回のMODE'94では、年間3cm程の拡大速度の遅い海洋底、大西洋中央海嶺を調査し 、その際、ケイン断裂帯(24°N)とその北のTAG(タグ)と呼ばれる巨大熱水マウン トの調査を行いました。調査の結果、遅い海洋底の海洋地殻から上部マントルにかけ ての精密な構造や構成物質が明らかになり、熱水の長期モニターの結果、12時間毎の 規則正しい変動が3,500mの深海底でも観測されました。その結果、セグメントごと に独立したマグマの上昇が起こっているという仮説がたち、今回のMODE'98ではそれ を裏付ける目的があります。独立したマグマの上昇により、地殻を形成する物質及び プレートの強度に相違が見られ、これはつまり地球内部からのエネルギー及び物質の 供給のされ方に違いがあることになり、これを証明するには大洋中央海嶺のさまざま な海域を調査する必要があります。その結果、地球環境変動を解明する手掛かりにな ります。

    また、潜航終了後の夜間及び潜水船整備日には、航走地球物理観測(海底地形・重力 ・地磁気観測)を行い、これら中央海嶺に沿った地殻構造や広域のダイナミクスの特 徴を解明します。

    「よこすか」は既に5月21日に海洋科学技術センター専用岸壁を出港し最初の寄港地 であるサンファンに向かっています。調査航海は4行動に分かれ、第1・第2行動が 大西洋調査に、また第3・第4行動がインド洋調査に充てられます。このあと、東回 りで世界一周して、12月10日に帰港します。また、第1行動終了後、7月18日〜22日 の間には、国際海洋博覧会の開催されているリスボンの博覧会場岸壁に着岸し、「海 の日」に当たる7月20日には「Japan Day」を記念して一般公開等を行う予定です。

  2. 中央海嶺研究の意義

    海底下で起こる様々な大規模地殻活動は、全て地球内部での物質の移動・運動に起 因しています。海洋科学技術センターは、これらグローバルスケールの地殻活動の場 を明らかにし、その原動力である海洋プレートのダイナミクスを解明するための総合 的研究を実施しています。

    プレート運動の原動力やエネルギー源を特定することは、地球上で起こる様々な現 象を正しく理解するために不可欠であるばかりでなく、日本周辺を含む西太平洋域で 多発する海溝型巨大地震の性格を明らかにするために不可欠です。しかしそのために は、海溝沿いのプレート収束域での諸現象の観測だけでは充分ではなく、海洋プレー トが如何なる履歴を経て海溝域に達したかについて、プレート生成時の海嶺軸での形 態や構造、それらの進化、またそれに伴う物性の変化の履歴などを追跡する必要があ ります。

    大洋中央海嶺はまた、活発なマグマ活動、熱水活動の起こるところとしても知られ ています。総延長80,000kmに亘る大洋中央海嶺は、地球上で最大規模の熱・物質の供 給源であり、地球内部と海水・大気との熱・物質の収支を求め、地球環境に対する地 球内部からの寄与を定量的に評価する上で欠くことの出来ない重点調査域です。

  3. これまでの調査研究の経緯

    平成6年には「しんかい6500」/「よこすか」による大西洋中央海嶺及び東太平洋海 膨調査研究航海(MODE'94)を実施しました。この調査研究を通じて、拡大速度の遅い 海洋底の代表格である大西洋中央海嶺で海嶺軸を分断するトランスフォーム断層沿い に海底下深部(下部地殻・上部マントル)を構成する岩石が露出していること、拡大 速度の速い海洋底の代表格である東太平洋海膨で物質の放出量が通常の海嶺の10倍以 上に達するなど、大洋中央海嶺域の諸現象に関して多くの成果と新知見が得られました。

    また、それ以降も米英仏などを中心として大洋中央海嶺域での調査研究航海が組まれ ており、大西洋中央海嶺熱水噴出孔での米潜水船アルビンによる潜航調査、英国の保 有する高精度サイドスキャンソーナーによる大西洋やインド洋の海嶺上での調査航海 が実施されました。しかし、これらの調査航海の成果の蓄積とともに、拡大軸方向の マグマの移動と拡大軸の発達・伝播の関係がどのようなものであるか、トランスフォ ーム断層上に見られるマントル物質の貫入とその根源のマグマの性質との関係など、 新たに解決すべき問題が提起されてきました。以上の点を踏まえ、今般の調査航海が 計画されました。

  4. 参加機関及び国際協力体制

    全行動は、IOC(政府間海洋科学委員会)の学術諮問機関であるSCOR(海洋研究科学 委員会)により認められたインターリッジ計画(InterRidge=国際海嶺研究計画)に 基づく国際共同研究航海として実施します。その中でも第1行動及び第4行動につい ては、海洋科学技術センターとウッズホール海洋研究所との研究協力協定に基づく研 究チームが主体となって計画が立てられました。日本国内からは、海洋科学技術セン ターの他、工業技術院地質調査所、東京大学海洋研究所、富山大学、九州大学、広島 大学、琉球大学、大阪市立大学等が参加し、米国からは、ウッズホール海洋研究所、 ヒューストン大学等が、仏国からはパリ大学等が、また英国からはサザンプトン海洋 研究所等が参加します。

  5. 計画の日程
    各行動の調査海域・日程・目的・内容は以下の通りです。
    (調査海域図及び予定航路) (航海計画)

    第1行動 (Leg1)
    調査海域:大西洋中央海嶺 ケープヴェルデ (15°20'N) 断裂帯
    調査日程:6月17日〜7月17日
    調査目的・内容:
    中央海嶺を構成する海洋地殻の構造・形成過程、断裂帯の発達過 程の解明を目的とします。本行動の調査海域は、大西洋中央海嶺がトランスフォーム 断層であるケープヴェルデ断裂帯により深く切られている地域に当たります。従って 、中央海嶺を構成する地殻、すなわち、形成されたばかりの海洋地殻の切断面が露出 しており、下部地殻・上部マントルを構成する岩石が潜水船により観察され、採取さ れることが期待されます。この海域はまた、本来地中深くにあるべきマントル起源の カンラン岩が直接海底に露出しているところとして知られており、その原因となる特 異なマグマ活動を調べる格好の場所です。さらにこの調査は、将来の深海掘削調査研 究の方針を検討し計画の提案を行うための重要な資料を提供します。

     

    第2行動 (Leg2)
    調査海域:大西洋中央海嶺 レインボー熱水域(36°N),TAG熱水域(26°N)
    調査日程:7月23日〜8月24日
    調査目的・内容:
    中央海嶺沿いの熱水活動の形態・活動様式を解明し、また併せて 、海洋地殻下部〜上部マントル物質の形態と構造を解明することを目的とします。調 査海域は、大西洋の中でも最大級の熱水活動が起こっていることで知られています。 特にTAG熱水域については、MODE'94の際にも詳細なマッピングや長期変動観測を行っ ていることから、その結果との比較によって、これら熱水活動の時間変化、熱水活動 の分布、熱水噴出に伴い放出される物質や熱量などについて、定量的な情報が得られ ることが期待されます。

     

    第3行動 (Leg3)
    調査海域:南西インド洋海嶺 20〜30°S
    調査日程:9月21日〜10月17日
    調査目的・内容:
    中央海嶺沿いの熱水活動及び熱水孔の形態・活動様式・活動度を 解明します。インド洋ではこれまでに海底での熱水活動の現場は確認されていないも のの、海嶺軸に沿った広域の基礎調査の結果には熱水活動の兆候が現れているため、 新たな熱水活動の発見が期待されます。発見後は、この地点での精密調査を行い、他 の海域での熱水活動との比較を行うことによって、地球全体での熱・物質供給量の推 定に重要なデータを提供することが期待されます。

     

    第4行動 (Leg4)
    調査海域:南西インド洋海嶺アトランティス-Ⅱ断裂帯(32〜34°S)
    調査日程:10月23日〜11月18日
    調査目的・内容:
    中央海嶺を構成する海洋地殻の構造・形成過程、断裂帯の発達過 程の解明を目的とします。この場所ではODP(国際深海掘削計画)による掘削調査が 既に行われ、海底下約1,500mまでの岩石試料が得られていることから、その結果と比 較し、併せて断裂帯沿いに露出する岩石を調べることによって、海洋地殻・マントル の境界部(モホ面)付近の様子が明らかになり、地震波速度から推定される岩質と実 際に海底下を構成する岩石との比較を行うことが可能となります。また第1行動での 大西洋の結果と併せて、海洋底の拡大速度が遅い中央海嶺における共通の力学的・物 質科学的性質が明らかとなることが期待されます。

  6. 「よこすか」行動日程

    5月18日〜20日 研究機材搭載
    5月21日 「しんかい6500」搭載・センター岸壁出港
    回航
    6月15日 サンファン入港
    6月17日 サンファン出港
    Leg1
    7月17日 リスボン入港
    リスボン国際海洋博覧会(一般公開等)
    7月23日 リスボン出港
    Leg2
    8月24日 リスボン入港
    9月1日 リスボン出港
    回航
    9月19日 ポートルイス入港
    9月21日 ポートルイス出港
    Leg3
    10月17日 ポートルイス入港
    10月23日 ポートルイス出港
    Leg4
    11月18日 ポートルイス入港
    11月21日 ポートルイス出港
    回航
    12月10日 センター岸壁入港