JAMSTEC
平成11年 1月29日
海洋科学技術センター


深海調査研究船「かいれい」によるニューギニア島北岸沖精密地球物理調査の結果
及び深海探査機「ドルフィン-3K」による調査の実施について


 海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、平成11年1月3日から11日にかけて、 深海調査研究船「かいれい」をパプアニューギニア近海に派遣し、南太平洋諸国との国際 協力によって、1998年7月17日に発生した地震・津波の原因の解明のための調査研究を行 いました。以下に成果の概要を報告致します。

[成果の概要]




  1. 概要
    1998年7月17日17時49分(日本時間)にニューギニア島北岸アイタペ・シッサノの沖で M7.1の地震が発生し、またそれに引き続いて大規模な津波が発生しました。特に津波の被 害は甚大であり、被災者2,000人以上とも言われてています。災害発生直後には、我が国 の津波研究者による現地調査隊が組織され、沿岸域の津波被害状況調査と陸地に乗上げた 津波の波高の推定作業が行われましたが、これらの調査の結果により、津波の最大波高は 15 m、また津波の原因は、地震に伴う震源域での地震断層よりはむしろ、地震の発生に誘 発された海底地すべりであると言われていました。以上の点に鑑み、この地域での集中観 測を行い、地震の発生から津波の発生に到る過程、更にはそれらを引き起こす力、背景に ある広域テクトニクスを明らかにすることによって、将来の地震・津波被害の軽減・防止 に役立てることが期待されます。そこで、1999年1月3日から11日にかけて、深海調査研 究船「かいれい」により、海底地形調査を中心とした調査研究を実施しました。 (図1

    なお、本調査航海は、今回被害のあったパプアニューギニアを含む南太平洋諸国の鉱物 資源・地震・津波などの地質現象に関する情報を一括して管理し、各国間の調整を行う使 命を持つ国際機関であるSOPAC(South Pacific Applied Geoscience Commission = 南太平 洋応用地学委員会、本部フィジー国スバ)からの要請を受けて海洋科学技術センターが実 施したものです。従って、日本国内の大学及び国立研究機関に属する津波研究者を中心と した研究チームを主体とし、SOPAC会員国・関係国の研究者も参加しました。ちなみに、 日本国内からは、海洋科学技術センターの他、工業技術院地質調査所、海上保安庁水路部 、東京大学地震研究所、琉球大学、電力中央研究所等が参加し、海外からは、パプアニュ ーギニア、ニューカレドニア、ハワイ、米国、英国、オーストラリアの研究者が参加しま した。


  2. 調査内容
    本調査海域では過去に精密地形調査等の系統的な調査研究は殆ど行われていなかったの で、まずは、平均速度約15ノットで航走しながら、「かいれい」に装備された精密音響測 深装置を用いて、海底地形、海底反射強度等の探査を行いました。航走中にはこれと併せ て、重力及び地磁気のデータも取得しました。また、調査海域の一部でサブボトムプロフ ァイラ(注1)により表層堆積物の厚さや構造を求め、その結果をもとにして、計4箇所 でピストンコア装置(注2)による堆積物採取を行いました。

  3. 調査結果
    今回の調査により得られた海底地形図を図2に示します。

    地形の特徴としては、図2の[1]及び[2]に、それぞれ海底地すべりにより起きたと思われ る、沖に向かって土砂が流出した痕が見られます。

    また、幅30kmにも達する様な扇状地堆積物の浅瀬が20〜30kmも沖に延びており(図2の[3] )、ここでは土砂が陸上から海に向かって活発に面的に供給されていることが推定され、 これにより積もった堆積物の一部が地すべりを起こしたことが考えられます。

    このほか、もっと小さいスケールの地形を見ても、島棚斜面上に海底谷が無数にある様 子で、島棚が浸蝕を受けていると同時に、大小様々な規模の海底地すべりが頻繁に起こっ ていることをうかがわせ、この海底表層が不安定であることが推定されます。

    また、東西に走る断層崖も見られ(図2の[4])、これは地形の形態から判断すると、左 横ずれ断層となっています。

    津波の伝播速度は水深が深いほど大きくなります。従って、周囲に比べて水深の深い凹 地が直線的に延びる地形は、津波を伝播させ易いという性質を持っています。今回極端に 集中した地域で波高が高くなり、津波が陸上に達し、大規模な被害を受けましたが(図2 の[5])、その原因としては、波源域と陸域との間に直線的に延びる凹地地形(図2の[2]) に沿って津波が極度に増幅したことが推定されます。

    なお、津波の発生の原因となる海底変動としては、現段階で特定することは難しいので すが、地震断層、海底地すべりの両方、或いはそれらが複合したイベントを考える必要が あります。いずれの場合も、大規模な津波を発生させる原動力となる可能性が充分にあり 、今後の調査を通じて真の原因を明らかにしていきたいと考えています。

  4. 今後の計画
    (1) 調査内容
    上記結果をもとに、下記の日程により、図2の[1]〜[4]の地点を中心に、深海探査機「ドル フィン-3K」及び支援母船「なつしま」による海底精密調査を行います。なお、具体的 な潜航候補地点については、深海調査研究船「かいれい」の海底地形調査結果等の解析を 進め、海底地すべりにより起きたと思われる新鮮な崩落箇所、或いは断層運動により起き たと思われる断層崖のうち最も勾配が急であり、新鮮な滑り面の露出している箇所を割り 出したうえで決定します。

    ここでは主として、海底地質調査、海底変動状況の確認、物理計測を行います。今回の断 層運動或いは海底地すべりが実際にどの場所で起こったかなど、海底変動の具体的な地点 を特定できると期待されます。

    (2) 調査日程
    2/7 横須賀出港、マダン向け回航
    2/18 マダン入港、研究者乗船
    2/19 マダン出港
    2/21 パプア島北岸アイタペ沖調査海域着、調査開始
    2/27 調査海域発
    3/1 マダン入港
    3/2 マダン出港、那覇向け出港
    3/12 那覇入港


    注1:
    船底から音波を海底に向けて発射して、その反射波を受信することによって海底下数十m までの地層を探査する装置
    注2:
    海底に10mの長さのパイプを突きさし海底に堆積した地層を採取する装置