JAMSTEC
平成11年 3月31日
海洋科学技術センター


「みらい」減揺装置
ケーブルベア損傷の恒久対策について


  1. 経緯
    海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)の海洋地球研究船「みらい」において、平成 9年10月3日、運転中の減揺装置船尾側のプラスティックケーブルベア(減揺装置への 給電用電線支持装置:参考図 図1)が一部破損・脱落し、これに伴って一部の電線が断 線・損傷して非常停止する不具合が発生した。
    この不具合については、運用中にケーブルベアが脱落しても緩停止出来るようセンサーを 組み込むとともに、エンドフランジ部サイドパーツの強度を上げる等の対策を施し試験的 運転を行ったが、平成10年1月26日、プラスティックケーブルベアの中間部において 再び不具合が発生した。
    平成10年2月末、関根浜帰港時にプラスティックケーブルベアの全数を交換するととも に、同年3月から応急措置として、運転時間100時間以内でケーブルベアを交換しなが ら運用するとともに、破損の原因調査と恒久対策を検討してきた。

  2. 原因
    損傷部破断面の顕微鏡観察や、陸上での再現試験、高精度解析による強度計算、「みらい 」本船上での温度・湿度変化と形状変化との関連等について計測を行い原因究明を行った 。
    特に、湿度をパラメータとしてプラスティックケーブルベアに繰り返し荷重を加え、荷重 ー寿命曲線を求めて損傷時のプラスティックケーブルベアの寿命を推定した。その結果、 約400時間でプラスティック部品が疲労破壊に至ったことから、今回の不具合の原因は 、プラスティック部品の疲労であることが判明した。

  3. 恒久対策
    プラスティックでは疲労破壊に至る時間が短いことから、部品の材質に用いることを断念 し、鉄鋼部品を中心とするホイールキャリアケーブルベア方式(参考図2参照)の採用に 向けて検討を行った。
    ホイールキャリアケーブルベア方式の構成要素をフレーム等の鉄鋼部品、ベアリング、ワ イヤー、ケーブル等の消耗部品に分類し、設計条件をマトリックスに整理して各構成要素 の耐久性を評価した。その結果、鉄鋼部品については25年、消耗部品については4年以 上の寿命があることが明らかとなった。
    上記検討で評価データの無かったケーブル自体については、ケーブルしごき試験を実施し 、実機で4年に相当するしごきに耐えることを確認した。
    さらに、システムとしての妥当性を確認すべく、実物大模型によるシステム試験を実施し 、初期故障、異常音、ゆるみ、摩耗等の有無を確認しその寿命を評価した。その結果、初 期故障、異常音、ゆるみ、異常摩耗などは発生せず、ケーブルとワイヤーの垂れ下がり量 も少ないことから、毎年のドック時にそれぞれの張りを調整すれば十分であることも確認 した。
    また、船体のピッチング方向の加速度を受けた時に、異常な挙動をしないこと、サイドロ ーラーに許容応力以上の衝撃荷重が加わらない事を確認するため、実物大模型による動揺 模擬試験を実施したが、いずれも問題ないことを確認した。

    上記の部品類の検討および実物大模型試験による総合的な試験検討結果から、ホイールキ ャリアケーブルベアの鉄鋼構造物は25年、消耗部品は4年以上の寿命があること、1年 相当の走行においても異常な摩耗やゆるみが生じないことを確認したため、ホイールキャ リアケーブルベア方式を、減揺装置給電方式の恒久対策として採用しても問題ないと判断 した。

  4. 今後の予定
    平成11年度の中間検査ドック時に恒久対策工事を実施(4月1日〜)する予定である。 工事施工後は、応急措置であった100時間までの運転時間制限を解除し、当初の運用条 件(有義波高2〜6mで稼働)に戻すこととする。


        問い合わせ先:海洋科学技術センター
               海洋技術研究部    門馬、月岡
               TEL 0468ー67ー3828
               研究業務部船舶工務課 富安、糟谷
               TEL 0468ー67ー3828
               総務部普及・広報課  他谷
               TEL 0468ー67ー3806