近年の北極海海氷減少にとって長期自然変動の重要性を確認

平成12年12月15日
海洋科学後術センター 
宇宙開発事業団    

  宇宙開発事業団(理事長 山之内秀一郎)及び海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)の共同プロジェクトである「地球フロンティア研究システム」の国際北極圏研究センターにおいて池田元美プログラムディレクターの下、ポリアコフ博士らは、北極の海氷面積が最近30年続いて減少していることが、一般に広く知られている温暖化の影響だけではなく、北極圏に存在する反時計まわりの風(極渦)の強化によって減少していることを、数学モデルを用いて再現しました。
 この成果は、平成12年12月15日発行の学会誌Geophysical Research Lettersに掲載される予定です。

背景

 北極の海氷面積の減少に関する従来の説明は、炭酸ガス増加による地球温暖化にともない北極圏の気温が上昇し、いったん海氷が減少すると、夏に太陽放射を反射しにくくなることによって、さらに温暖化し海氷が減少するというものでしたが(参考1)今回の結果はそれ以外の要因の重要性を示すものです。

成果および考察

 本研究では、数十年周期の自然現象によって極渦や気温が変動し、その結果として海氷も変動することを、数学モデルを用いて再現しました。これにより、繰り返し起きている自然変動を取り除くことによって、炭酸ガス増加にともなう温暖化のためにどのくらい海氷が減少しているか見積もることが可能となります。 今後の課題として北極海海氷面積を温暖化の指標として用いるためには、今後も大気モデル、海氷・海洋モデル、気候データ解析などの研究を進めていく必要があります。

問合せ先
 海洋科学技術センター/宇宙開発事業団
 地球フロンティア研究システム合同推進事務局 担当:菱田・川崎
          TEL 03-5404-7852(菱田)、03-5765-7100(川崎)
   ホームページ http://www.frontier.esto.or.jp
 海洋科学技術センター 総務部 普及 ・広報課 TEL 0468-67-5547
   ホームページ http://www.jamstec.go.jp (海洋科学技術センター)
 宇宙開発事業団  広報室 TEL 03-3438-6111
   ホームページ http://yyy.tksc.nasda.go.jp(宇宙開発事業団)


(参考資料)

1.国際北極圏研究センターにおける北極域の気候変動の研究
 ’97年3月「地球的展望に立った協力のための共通課題(コモン・アジェンダ)」に関して橋本総理とゴア米国副大統領との会談が行われ、日米が協力して地球変動およびその予測の分野における研究を推進することが重要であるとの合意が得られた。
 国際北極圏研究センター(IARC (所長 赤祖父俊一))は上記の日米コモンアジェンダに基づいてアラスカに設置された研究所である。IARCにおいては平成10年初頭より、池田元美プログラム・ディレクターのもとで、温暖化の指標とされている海氷の減少、それと関連している大気や海洋の変動について研究を進めている。

2.海氷減少のメカニズム参考2
 人間活動に起因する炭酸ガスの増加は気温を上昇させ、海氷を減少させる。海氷は太陽放射を反射するので、それが減少すると夏季の海水温は上昇する。そのためさらに海氷が減少し、翌年まで影響が残ると、正のフィードバックとしてはたらく。  極渦とは北極上空の反時計まわりの大気循環である。極渦が強化するとシベリア沿岸で形成された海氷はすばやくカナダ側に押しやられ、シベリア側で海氷面積が減少し、北極海中央での海氷も減少する。
 北極は低層雲に覆われることが多く、雲は上空への放射熱を遮断するので、海氷を減少させる効果をもっているが、海氷減少のメカニズムが雲の変動によるものか、その他の原因によるものかなどは、まだ研究中である。
 気温、極渦、海氷、雲のあいだで相互作用があると考えられるが、そのメカニズムはまだ不明である。

3.観測事実
 長期的な変動を見ると単調に減少したのではなく、増加した期間もあるものの、近年、北極海の海氷面積及び厚さは年々減少している。
 極渦は10年、数十年など、短長種々の周期をもって変動しているが最近30年では極渦強化が観測されている。

4.モデル結果
 最近50年について、大気条件をあたえて海氷海洋数値モデルの計算を行ったところ、最近30年間の極渦強化に伴なって、海氷面積はシベリア側で減少し、海氷の厚さも北極海中央で減少し、観測の結果と一致して、一方、海氷が押し寄せたカナダ側は海氷が厚くなった。しかしながら海氷厚さは観測されていないので、この部分についてモデル結果の検証は今後の課題である。

5.今後の研究課題
 
北極海における海氷減少のメカニズムとして重要な要素である極渦、低層雲にくわえて、北極海よりは高温の大西洋水の流入も大事だと思われる。さらにこれらの相互作用が正のフィードバックをもつと、わずかな個別因子の変化が海氷減少という大きな変化に結びつく可能性もあるため、その解明が待たれている。
 このように北極海海氷の変動は温暖化の指標といわれているが、海氷面積の減少がどのようなメカニズムでおきているかを究明しないと、炭酸ガス増加による地球温暖化を示す証拠とはならないことから本研究は今後とも重要であると考えられる。