平成15年7月29日
海洋科学技術センター

沖縄は二つの海流に挟まれていた
−沖縄南東海域における長期係留観測によって確認−

1.概要

海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)地球観測フロンティア研究システム(システム長 杉ノ原伸夫)気候変動観測研究領域(領域長 竹内謙介)日本沿海予測実験グループの市川洋グループリーダ−、朱小華(シュショウカ)研究員らは沖縄南東海域で、北東向きの流れの測定に初めて成功した(図1)。沖縄は東シナ海を流れている黒潮と本研究によって測定された流れの二つの海流に挟まれている事が明らかになった。この結果は、日本南岸における黒潮の解明および気候モデルの向上に大きく役立つものである。今年1月、米国地球物理学会発行の「Geophysical Research Letters(地球物理学研究レター)」に掲載された。


2.背景
黒潮は、カツオ漁や、フェリー、タンカーの海運などの海洋産業に影響を与える。また、赤道付近の熱帯地方から暖かい海水を大量に運ぶことによって日本を含む広い地域の気候に影響を及ぼしている。従来の観測によって、黒潮が運ぶ海水の量は本州南岸と東シナ海とで異なっており、上流側(東シナ海)より下流側(本州南岸)が約2倍多い。このことは、河に例えると、どこかに合流する支流があることを予想させる。奄美大島南東では、流れが北東向きであることが明らかになっていることから、支流が南西諸島の東側を北上していることが考えられる。数値モデル計算等からも同様な結果がでており、多くの研究者によって指摘されてきた。しかし、沖縄南東海域は、中規模渦によって流れが激しく変化するために北東向きの流れの存在が確認されてはいなかった(図2)。このため、実験グループは、圧力計付き転倒音響測深器(PIES)及び係留式音響ドップラー流向流速鉛直分布計(MADCP)を沖縄南東海域に多数設置し、連続係留観測を行った(図3)。


3.観測および成果
沖縄南東海域でPIESを中心とした係留観測(図4)を平成12年11月から平成13年8月まで行い、約9ヶ月間の連続観測資料を得ることに成功した(図5)。PIES資料と過去の観測データをもとに解析した結果、この海域における流れは、平均的には北東向きで毎秒610万m3(東京ドームの5個分に相当、信濃川の流れの1万倍に相当)であることを初めて捉えることに成功した(図6)。東シナ海の黒潮の約4分の1の流れである。この流れが台湾東方から続いている流れであることを確認するために、沖縄のさらに上流側の宮古島の南東海域においても平成14年12月から係留観測を開始している。また、季節や年ごとの変動を捉えるために、長崎海洋気象台、長崎大学水産学部、鹿児島大学水産学部、他と連携して観測を行っている。

今回の成果は、沖縄をはじめとする南西諸島の東側の流れを調べることにより、本州南岸における黒潮および、その流れによって運ばれる暖かい海水の量の変化が調べられることを示している。日本南岸における黒潮の将来、および天気予報などの予測精度の向上、日本沿海におけるアジ、イワシ、カツオなどの水産資源の増減・漁場の移動、海運の効率化、津波・異常潮位予測などの研究に大きく貢献し、極めて貴重である(図7)。


>> 資料 [PDFファイル:956KB]

問い合わせ先:
海洋科学技術センター 
 フロンティア研究推進室 白石
  Tel:045-778-5663
  ホームページ:http://www.jamstec.go.jp/
 総務部普及・広報課 鷲尾 野澤
  Tel:046-867-9066