平成15年10月3日
海洋科学技術センター

海溝型巨大地震の直近観測に世界で初めて成功


1.はじめに
  海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、釧路・十勝沖海底地震総合観測システムにより、「平成15年(2003年)十勝沖地震」を観測することに成功した(図1〜4)。海洋プレートの沈み込みによって生じるマグニチュード8クラスの地震データを、震源地の近くで捕らえるのは世界で初めてである。


2.十勝・釧路沖海底地震総合観測システムについて
  海洋科学技術センターは、平成11年に北海道釧路・十勝沖約100km〜140kmの深海底(水深約2,000m〜3,400m)に、海底地震計3台、津波計2台、分岐装置2台、及び各種の環境観測センサを搭載した先端観測ステーションからなる釧路・十勝沖海底地震総合観測システムを設置した。地震計は円筒形容器に納められ、海底から1 m弱の深さに埋設され、津波計は海底に設置されている。観測データは全長約240kmの海底ケーブルによって陸上までリアルタイム伝送され、海洋科学技術センター横浜研究所に伝送されるだけでなく、防災科学技術研究所のHi-Net及び気象庁にも伝送される。また、インターネットを通じたデータ公開も行っている。
   
   

3.得られたデータについて
  北海道釧路・十勝沖では大地震がたびたび発生していることから、陸上及び同システム観測点で釧路・十勝沖に想定された震源域を取り巻く観測ネットワークとなるように整備しており、9月26日に発生した十勝沖地震の地震活動等のデータを欠測やスケールアウト等の障害もなく精度良く観測する事に成功した。今回の地震の震央は同システム観測点の一つから水平距離30km内外にあると推察される。地震の解析では、震源に近い場所のデータで断層運動の詳細(ずれの速度や応力解放量)を解明するため、このデータは貴重である。今後の震源精度の向上への貢献だけではなく、断層直近で得られたデータは、プレート境界で起きた詳細な断層運動解明に結びつく可能性がある。津波計は、海底面に起きた地殻変動を捕らえている。現在震源に最も近い津波計で約40〜50cm、最も釧路に近い津波計で10〜20cmの海底面上昇があったと推測している。正確な変動量は、今後の詳細な解析を待つ必要があるが、プレート境界に起きた巨大地震で、震源直上の地殻変動が捕らえられたのは、今回が世界で初めてである。海洋科学技術センター及び関係する諸研究機関において、今回のデータを用いた津波の波源解析や、陸上の稠密なGPS観測網のデータと合わせた解析が行われることになる。




図1 平成15年十勝沖地震の震央(星印)と釧路・十勝沖海底地震観測システム。KOB1、KOB2、KOB3はそれぞれ地震計、PG1とPG2は津波計。NAとPAはそれぞれ北海道のある北アメリカプレートと沈み込む太平洋プレート。






図2 釧路・十勝沖海底地震総合観測システムで取得された地震波形(KOB1観測点のもの)。スケールアウトもなく完全な波形が得られた。




図3 津波計PG1で得られた圧力変化。時間軸がグリニッジ時間であることに注意されたい。本震及び津波による擾乱が含まれている。地震直後の海面高の擾乱は約40cm、海底の上昇も40〜50cm程度と推察される。(拡大図




図4 PG2で観測された圧力変化。時間がグリニッジであることに注意されたい。変動量は約10〜15cm程度と推察される。(拡大図




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