平成16年3月10日
長崎県衛生公害研究所
海洋科学技術センター

内湾の持続的浄化実験について


 長崎県衛生公害研究所(所長 渡部 哲郎、長崎市滑石)と海洋科学技術センター(理事長 平野 拓也、神奈川県横須賀市)は共同で大村湾などの閉鎖性内湾を生物の力で持続的に浄化する方法について実海域での実験を行い内湾浄化の見通しを得た。

 この浄化手法は富栄養化しつつある閉鎖性内湾から富栄養化物質である窒素やリンをリサイクルして取り除こうとするもので、漁業や地域産業の振興に貢献しながら同時に海の浄化を推進するものである。

 窒素やリンは生物の成長に必要不可欠な要素で、農業では肥料として使用される。内湾でも河川などから流入した栄養は魚介類の成長を支え、漁業によって再び陸上に上げられリサイクルされている。しかし栄養が多すぎると海は富栄養化して貧酸素や赤潮の原因となり、魚介類の成長を阻害しリサイクルを妨げてしまう。

 富栄養化物質を効率的にリサイクルする方法の一つとして無給餌型養殖(餌を与えないで育てる方式の養殖)があるが、これまでの通常の養殖では貧酸素などの影響で壊滅的な打撃を受けることがあった。今回の一連の実験は養殖場の海底に空気ホースを設置し、水質が最も悪くなる夏の約3ヶ月間にわたり海底から空気を送り込んで(曝気:ばっき)、大村湾の特産であるカキの生残や成長を確保、促進するというものである。曝気だけでは富栄養化物質のリサイクルはできずカキ養殖だけでも浄化は困難であったが、無給餌型養殖と曝気とを組み合わせて初めてリサイクルを可能にした。

 曝気には設備費や若干の電気代がかかるが、それを補って余りある収穫が毎年約束されることで持続的に浄化が進む。即ちこの手法は、カキ養殖事業と海底や水質の浄化を両立できる仕組みである。この浄化手法を実海域で検証するのは世界で初めての試みであり、県と海洋科学技術センターは共同で特許を出願中である(2002年7月出願)。

 海域実験は、琴海町大平郷沖(形上湾北端部)において平成15年1月から開始され、今年2月まで継続的に気象や水質、底質、生物の調査が行われた。
 その結果、実験区では養殖筏が沈むほどにカキが丸々と大きく成長した(写真1写真2)。
 海底近くの溶存酸素濃度を9月初旬に計測した結果では、実験区の溶存酸素濃度は200〜400m離れたところに比べて2mg/lほど高くなっていた(図1)。また実験区の海底近くの溶存酸素濃度を7月初旬から10月初旬にかけて連続して計測した結果、溶存酸素濃度の平均値は6.4mg/l(目標値は4.3mg/l以上)と良好に維持されていた(図2)。一方、形上湾の南端部で行われていた通常のカキ養殖場では今年はほとんどのカキが死滅し収穫には至らなかった。試算によればこのような浄化手法を大村湾で行う場合、湾の面積の5%程の面積でカキ養殖を行えば河川などからの流入負荷がリサイクルできると考えられている。また、この手法は海底の生物の生息環境を改善できるので、海底に溜まった富栄養化物質も徐々に軽減できるねらいがある。

 この実験は生物を相手とするため気象など様々な環境変動によって浄化効果が変化する可能性がある。それを見極めるために、今後平成17年度までの3回の繰り返し実験で浄化効果などを更に定量的に把握し、併せて生態系モデルを構築するなどして将来の実用化に役立てる計画である。

 なお、この研究は、平成15年12月に長崎県において策定された「大村湾環境保全・活性化行動計画」の推進施策「大村湾内の水環境の改善」にもつながる研究である。

 地元では琴海町や大村湾南部漁協長浦支部(支部長 瀬戸脇 勇)が本研究に全面的に協力しているほか、長崎大学水産学部をはじめとする大学や県総合水産試験場からも協力を得ている。


問い合わせ先:
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