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東海スロースリップの原因となる地下構造の発見 − スロースリップ発生メカニズムと東海地震発生との関連 − |
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1.概要 独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)固体地球統合フロンティア研究システム(IFREE:システム長 久城育夫)と国立大学法人東京大学地震研究所(所長 山下輝夫)は、共同研究により2001年に実施した中部日本横断海陸統合地殻構造探査の結果から、中部日本下に沈み込んだ海嶺群のイメージングに成功し、その一部が高間隙水圧帯(用語説明参照)を形成することを明らかにした。また、この高間隙水圧帯が、東海地域で観測されているスロースリップ(用語説明参照)の原因となることを示し、東海スロースリップの発生メカニズムと東海地震との関連を議論した。この結果は、28日(米国:日本時間29日)に発行される米国科学誌、サイエンス誌に掲載される。 2.目的と背景 フィリピン海プレートの沈み込み帯である南海トラフ周辺域では、これまでおよそ100年から150年といった間隔でマグニチュード(Mj)8クラスの巨大地震が繰り返し発生しており、最近では1944年の東南海地震(Mj=7.9)、1946年の南海地震(Mj=8.0)が発生している。一方、東海沖では1854年の安政東海地震以来巨大地震が発生しておらず、次の東海地震の発生が警戒されている。また国土地理院では、GPSによる観測から、東海地方では2000年後半から年間約1cm程度(定常的なプレート運動を除く)の局所的なゆっくりとしたプレート境界間の滑り(スロースリップ)が生じていること、及び、そのスロースリップが加速・減速を繰り返しながら現在まで続いていることが確認されている。 海溝型地震とは、プレート境界で滑りが生じる現象である。そこで本研究では、想定東海地震震源域における地震やスロースリップなどの「プレート境界間の滑り」の原因となる構造要因を明らかにするため、2001年夏に海陸統合地殻構造探査を実施した。 なお、固体地球統合フロンティア研究システム・プレート挙動解析研究領域の地殻構造解析グループでは、これまでに四国沖の南海地震破壊域において沈み込んだ海山のイメージングに成功しており、この海山が南海地震の破壊伝播に大きく関係していたことを明らかにしている(参考資料1参照)。また、東南海地震震源域にあたる紀伊半島沖熊野灘における分岐断層のイメージングに成功し、この断層が東南海地震震源域の破壊域を規定している可能性を示している(参考資料2参照)。 これらの研究成果はいずれも米国のサイエンス誌に掲載されている。 3.海陸統合地殻構造探査の概要 海陸統合地殻構造探査は、海洋研究開発機構(旧海洋科学技術センタ−)と東京大学地震研究所が、全国の大学など研究機関の協力を受けて2001年7月から8月にかけて実施した。観測は、東海沖から中部日本を横断し日本海に至る全長約480kmの測線上で行われ、陸上地震計約330台、海底地震計約70台を設置し、陸上発破及び海域大容量エアガンにより発生させた人工地震波を観測した(図1)。 4. 成果 1) 中部日本下に沈み込む海嶺群の発見 観測された地震波の解析から、東海沖南海トラフから中部日本下にかけてフィリピン海プレート上の海嶺が繰り返し沈み込んでいる構造のイメージングに成功した(図2a,b)。これにより、南海トラフから海岸線にかけて2列(深さ約10km, 15km)、さらに東海地方下に1列(深さ約30km)の海嶺が沈みこんでいることがわかる。このうち海岸線付近の海嶺は、GPSデータから見積もられたプレート間強固着域(用語説明参照)と一致し、海嶺の沈み込みが強固着域を作っていることがわかり、1944年の東南海地震が東海沖まで及ばなかったのは、この強固着域が地震波の伝播を妨げたことが原因であることが示された(図1)。 2)中部日本下に沈み込んだ海嶺域に存在する高間隙水圧帯の発見 一方、中部日本下では以前の研究から高ポアソン比帯(用語説明参照)が存在することが示されていたが、今回の研究結果からそれが沈み込んだ海嶺であることが明らかになった。また、この海嶺域は非常に強い反射面を形成していることも明らかになった。この高ポアソン比・強反射は沈み込んだ海嶺域に高間隙水圧帯が作られていることを示している(図2c)。 3) スロースリップの原因となる地殻構造要因 岩石の摩擦実験や数値実験の結果から、スロースリップは断層面が高間隙水圧帯などによってある一定範囲の摩擦状態を示したときのみに発生することが予測されていた。今回の発見は、この実験的予測を実際の地殻構造に基づき立証した(図2d)。 4) 地殻構造から推定されるスロースリップと東海地震の関係 さらに、数値実験の結果から、強固着域とスロースリップ域が隣接している構造では、スロースリップが繰り返し起こった後、強固着域で急激なプレート境界間のすべりが生じ、その結果として地震が発生することが示されており、この研究で発見した南海トラフから中部日本の地殻構造がその構造と酷似していることから、東海地方でもスロースリップが繰り返し発生した後、東海地震にいたる可能性が考えられる。 【用語の説明】
【参考資料】
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