平成16年8月23日
海洋研究開発機構

「しんかい6500」・「よこすか」太平洋大航海(NIRAI-KANAI)により
東太平洋海膨南緯14度海域において世界最大の海底溶岩流を発見


1.概要
 独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)は深海調査研究の一環として実施中の「しんかい6500」・「よこすか」太平洋大航海(NIRAI-KANAI, YK04-07 航海、研究主提案者兼首席研究員 静岡大学理学部・海野進教授)において、現在確実に知られている限りでは海洋底で最大となる巨大な溶岩流(面積340平方キロメートル)を、東太平洋海膨(南緯14度、西経112度海域)にて支援母船「よこすか」による地形の音波探査により発見し、有人潜水調査船「しんかい6500」での潜航調査でその広がりを確定すると共に、詳細な観察と試料採取に成功した。このような巨大な溶岩流は、同じ東太平洋海膨の南緯8度海域やハワイ諸島沖にも知られていたが、南緯8度海域のものよりは遙かに規模が大きく、ハワイ諸島沖のものは給源火口との対比が不明瞭である。

2.調査実施の背景と経過
 現在確立されているプレートテクトニクス[註1]の考えに基づけば、中央海嶺[註2]は地球最大の火山活動帯で、地表面を構成する地殻とその下にあるマントルの一部とで構成されるプレートの生成場であり、地球深部からの熱とガス成分を地表に放出し、地球表層の環境を大きくコントロールしている。古典的なプレートテクトニクスでは、プレート生成はその境界である海嶺軸に限られるとされてきた。一方、1990年代以降の地下構造探査などの進展により、地殻厚の増大の半分以上が海嶺軸から離れた場所で生じていることが指摘されてきたが、その実態は明らかにされていなかった。
 海域調査は深海調査研究の一環である「しんかい6500」・「よこすか」太平洋大航海(NIRAI-KANAI)の最初の行動となるYK04-07行動として、平成16年7月7日仏領ポリネシア、パペーテ港を出港、同13日より調査を開始し、翌8月2日まで実施されたのち、8月8日パペーテ港へ再寄港して終了した。調査は「しんかい6500」の潜航、ならびに、「よこすか」による音波探査を中心とした。
 潜航対象海域は南緯8度ならびに13〜19度にかけての2箇所であり[図1]、このうち、南緯8度海域には面積220平方キロメートル以上にも広がる平坦な地形が知られていた。一方、これまでは南緯14度海域の調査は海嶺軸近傍に限られていたため、同様の平坦地形の存在は知られていたものの、その広がりは明らかにされていなかった。

3.成果
 「よこすか」による音響測深[註3]で海嶺軸から西側へ向かって新たに地形・音響データを取得したところ、南緯14度海域の平坦地形は340平方キロメートル以上の広がりを持ち、音波を強く反射することから、新しい溶岩流であることが推定された[図2]。そこで、「しんかい6500」による潜航で目視観察と試料採取を行い、この音波を強く反射する平坦な地形が確かに溶岩流であって、周囲に比べて格段と堆積物が少なく新しい地形であることを確認した[写真]。地形ならびに目視観察から推定される溶岩流の厚さをもとに体積を推定すると20立方キロメートル近くに及ぶ。有史最大の溶岩噴出はアイスランドのラキ溶岩のもので12立方キロメートル、近年の大規模噴火と比較すると、例えば、雲仙の平成噴火はわずかに0.2立方キロメートルにすぎない。この溶岩流の広がりは、東京23区部の半分、富士山の山体そのものの広がりにも相当する。また、溶岩の総体積は山手線で囲まれる範囲を300メートル以上の厚さで埋め尽くすほどのもので、超高層ビルも完全に埋もれてしまう。東京ドーム10万杯にも相当する量である。
 これは、海底溶岩流としての記録を塗り替えただけでなく、地球上で最も盛んにプレートを生成している東太平洋海膨での火成活動が、確かに、古典的なプレートテクトニクスでは記述できない広がりを持っていることを示した画期的な発見である。このような溶岩流は、地球表層環境を改変する巨大火成活動の重要な要素の一つとして、大いに注目されるべきものである。溶岩流の規模と形態からみて10年程度の短期間に噴出した可能性もあり、その場合は膨大な熱量・火山ガスが短期間に海洋中に放出されることとなる。これはまた、今なお海嶺軸付近に限られがちな世界の中央海嶺研究に一石を投じる成果ともなった。

4.今後の研究計画
 詳細な科学的解析は引き続き陸上で行われ、潜水船にて採取した試料の化学分析、母船で得られた地形等データの解析を通じ、溶岩流がどこからどのようにどれほどの時間を掛けて噴出したのか、その活動の間に溶岩の性質に変化はあったか、海嶺軸で噴出している溶岩とは違いがあるかなどについて、研究を進める。研究成果は各学会などにおいて逐次発表する計画で、10月に静岡大学にて開催される日本火山学会秋季大会において第一段としての速報を、国際的には12月に米国サンフランシスコで開催予定の米国地球物理学連合秋季大会にても報告を行う予定である。

参考資料:「よこすか」/「しんかい6500」の「NIRAI KANAI」航海について

問い合せ先
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   地球内部変動研究センター
   海洋底ダイナミクス研究プログラム
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   総務部普及・広報課 担当:山西・立田
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