地球シミュレータによる最新の地球温暖化予測計算が完了
− 温暖化により日本の猛暑と豪雨は増加 −

(環境省記者クラブ・文部科学省記者クラブ・筑波学園都市記者会同時発表)
平成16年9月16日
  国立大学法人東京大学
  気候システム研究センター
   教授 住 明正
   教授 木本 昌秀
  独立行政法人国立環境研究所
   主任研究員 江守 正多
   主任研究員 野沢 徹
  独立行政法人海洋研究開発機構
  地球環境フロンティア研究センター
   グループリーダー 江守 正多(兼任)
要旨
  国立大学法人東京大学気候システム研究センター(CCSR)、独立行政法人国立環境研究所(NIES)、独立行政法人海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センター(FRCGC)の合同研究チームは、世界最大規模のスーパーコンピュータである地球シミュレータを用いて、2100年までの地球温暖化の見通し計算を行った。この計算は、地球全体の大気・海洋を計算するものとしては現時点で世界最高の解像度(細かさ)を持つ。地球規模の結果は、従来より得られている見通しと同様の結果が得られた。今回は、2100年までの日本の夏の気候予測について、これまでよりも詳細な解析を行った。この結果、気温、降水量とも平均的に増加した他、真夏日の日数、豪雨の頻度とも温暖化が進むにつれて平均的に増加することが示唆される結果が得られた。今後の解析により、地域的な気候変化についてさらなる知見が得られることが期待される。
  なお、本研究は文部科学省の人・自然・地球共生プロジェクトにより実施されたものであり、予測実験に使用されたモデルは、CCSR、NIES、FRCGCで開発された、高解像度大気海洋結合気候モデル(K-1モデル)である。

1.背景
  大気中の二酸化炭素など温室効果気体の増加による地球の温暖化について、かねてより世界の各研究機関でコンピュータによる将来の気候変化見通し計算が行われている。このような計算では、大気・海洋を格子に分割し、その上で物理法則を近似して解く。この格子の細かさを解像度といい、解像度を高くするほど大規模なコンピュータ資源が必要となる。従来は、大気が300km、海洋が100km程度の解像度の計算しか行えなかったが、今回、世界最大規模のスーパーコンピュータである地球シミュレータを利用することにより、大気が100km程度、海洋が20km程度の、世界で最高解像度の地球温暖化の計算を行うことに成功し、空間的により詳細な気候変化の検討が可能となった。

2.計算の概要
  1900〜2000年については観測された温室効果気体濃度等の変化を与えて計算を行い、2001〜2100年についてはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)により作成された将来のシナリオのうち2つについて計算を行った。1つは将来の世界が経済重視で国際化が進むと仮定したシナリオ「A1B」(2100年の二酸化炭素濃度が720ppm)、もう一つは環境重視で国際化が進むと仮定したシナリオ「B1」(2100年の二酸化炭素濃度が550ppm)である。

3.地球規模の結果
  地球規模の結果は、従来より得られている見通しと概ね同様であった。2071〜2100年で平均した全地球平均の気温は1971〜2000年の平均に比較して、B1で3.0℃、A1Bで4.0℃上昇、同じく降水量はB1で5.2%、A1Bで6.4%の増加となった(注1)。気温上昇の地理分布は、北半球高緯度で大きく、海上に比べ陸上で大きい(図1)。

(注1) 気温上昇量の絶対値の予測には大きな不確実性があることが知られているので注意が必要である。現在の世界のモデルの結果を総合すると、大気中二酸化炭素濃度を現在の2倍に固定した場合の気温上昇量は1.5〜4.5℃の幅があると言われている。我々の今回のモデルではこの値は4.2℃となっている。

4 .日本の夏について
  2071〜2100年で平均した日本の夏(6・7・8月)の日平均気温は1971〜2000年の平均に比較してシナリオB1で3.0℃、シナリオA1Bで4.2℃上昇、同様に日本の日最高気温はシナリオB1で3.1℃、シナリオA1Bで4.4℃上昇となった。日本の夏の降雨量は温暖化により平均的に増加するという結果となった(2071〜2100年平均で1971〜2000年平均に比較してシナリオB1で17%、シナリオA1Bで19%増加)。これは、熱帯太平洋の昇温と関係して日本の南側が高気圧偏差となり、これが日本付近に低気圧偏差をもたらすと同時に暖かく湿った南西風をもたらすこと、および、大陸の昇温と関係して日本の北側が上空で高気圧偏差となり、これが梅雨前線の北上を妨げることによると見られる(図2)。また、真夏日の日数は平均的に増加するという結果となった(図3)。これは、平均的な気温が上昇することによるもので、気温の年々の振れ幅には大きな変化は無いと見られる(図4)。さらに、豪雨の頻度も平均的に増加するという結果となった(図5)。これは、平均的な降雨量が増加することに加えて、大気中の水蒸気量が増加することにより、一雨あたりの降雨量が平均的に増加することによると見られる(注2)。

(注2) 年々の自然のゆらぎが大きいため、必ずしも真夏日や豪雨が年を追って単調に増加するのではない。また、このことに関連して、特定の年(例えば今年)の異常気象を地球温暖化と関連付けるのは一般に難しい。

図1 計算された年平均地表気温上昇量の地理分布。シナリオ「A1B」の2071〜2100年の平均気温から、1971〜2000年の平均気温を引いたもの。


図2 計算された、将来の日本周辺の夏季(6・7・8月)における降水量(カラー)、500hPa高度(等値線)、850hPa風(矢印)変化の分布。シナリオ「A1B」の2071〜2100年の平均から、1971〜2000年の平均を引いたもの。500hPa高度は対流圏を代表する上空の気圧変化を表す。Hは周囲と相対的に高気圧性、Lは周囲と相対的に低気圧性の変化。850hPa風は、1500m程度の高さの対流圏下層の流れを表す。


図3 計算された、1900年から2100年までの日本の真夏日日数の変化(2001年以降についてはシナリオ「A1B」を用いた結果)。日本列島を覆う格子(100km×100km程度)のうち一つでも最高気温が30℃を超えれば、真夏日1日と数えた。都市化が考慮されていないこと、広い面積の平均を基にしていることから、絶対値は観測データと直接比較できない。相対的な変化のみが重要。


図4 計算された、1900年から2100年までの日本の領域で平均した夏季(6・7・8月)の平均気温(2001年以降についてはシナリオ「A1B」を用いた結果)。黒線が年々の値で、赤線が10年移動平均を施したもの。2071〜2100年の年々のゆらぎの標準偏差は0.52で(黄色)、1971〜2000年の標準偏差(水色)0.54と比較して大きくない。都市化の影響は考慮されていない。


図5 計算された、1900年から2100年までの日本の夏季(6・7・8月)の豪雨日数の変化(2001年以降についてはシナリオ「A1B」を用いた結果)。日本列島を覆う格子(100km×100km程度)のうち一つでも日降水量が100mmを超えれば、豪雨1日と数えた。広い面積の平均を基にしていることから、絶対値は観測データと直接比較できない。相対的な変化のみが重要。


問い合わせ:
国立大学法人東京大学気候システム研究センター
   柏地区駒場事務分室研究協力係 担当:三浦
   Tel:03-5453-3953 Fax:03-5453-3964 URL:http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/
独立行政法人国立環境研究所 
   企画・広報室 担当:田邉
   Tel:029-850-2303 Fax:029-851-2854 URL:http://www.nies.go.jp/
独立行政法人海洋研究開発機構
   地球環境フロンティア研究センター 担当:太田
   Tel:045-778-5687 Fax:045-778-5497 URL:http://www.jamstec.go.jp/frcgc/jp/
   総務部普及・広報課 担当:五町
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