平成16年12月6日
海洋研究開発機構

過去約30年間に我が国上空の対流圏オゾンが広域で著しく増加

概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)・地球環境フロンティア研究センター大気組成変動予測プログラムの秋元肇プログラムディレクターとマニッシュ・ナジャ研究員は、長期にわたるオゾンゾンデデータの解析から、1970年から2002年の約30年間に我が国上空の対流圏オゾン(注1)が広域にわたって著しく増加していることを明らかにした。この原因として、東アジアの大陸起源の窒素酸化物放出量の上昇が、光化学反応が活発な春から夏に風下側の我が国のオゾンを著しく増加させてきたことが示唆された。



この成果はアメリカ地球物理学会誌「Journal of Geophysical Research」の第109巻11月号に掲載された。

背景

最近我が国における窒素酸化物(注2)や揮発性有機化合物(注3)の濃度が減少しているにも関わらず、日本全国で光化学オキシダント(注4)濃度が増加し(参考1)、環境基準が全国的に全く達成されないのみならず、首都圏などにおけるオキシダント注意報発令日数が増加し続けていることが、大きな問題となっている。その要因の解明を目指して、近年の気象要因の変化や我が国におけるオゾン前駆体物質(注5)の排出量トレンドの解析がなされているが、この間のオキシダント濃度の増加はこれらの要因では説明しきれず、大陸からの長距離越境汚染の影響が懸念されている。地球環境フロンティア研究センターでは、我が国におけるオキシダント濃度増加の原因を探るために、後方流跡線解析(注6参考2)の手法を取り入れて対流圏オゾンに関するオゾンゾンデデータの解析を行ってきた。

成果

1970年から2002年の間に、気象庁のオゾン観測点である札幌、つくば、鹿児島上空の対流圏オゾンが、広域にわたって著しく増加していることが分かった。その増加は中国や韓国などの人間活動の盛んな地域を通過する気塊の影響を最も受け易いつくばと鹿児島において最も大きく、上空に比べ地表付近の方が増加が著しい(図1)。また、後方流跡線解析を用いた結果では、大陸起源の気塊中のオゾンは、この30年間の前半期には春季に濃度が最大であったものが、後半期には夏季に濃度が最大となっていることが分かった(図2)。このことは東アジアの経済発展に伴い、この地域のオゾン前駆体物質の排出量の増加により紫外線の強い夏季にオゾンの生成がより活発に起こるようになったことを示唆している。この期間の東アジアにおける窒素酸化物等の放出量は、我が国ではほぼ横ばいないし減少しているが、中国における放出量は増加し続けている(図3)。これらのことから中国や韓国など大陸起源の窒素酸化物放出量の上昇が、光化学反応が活発な夏季に風下側の我が国のオゾンを著しく増加させてきたことが推定される。この研究結果から、我が国の光化学オキシダント問題の解決のためには、東アジア全域における対策が必要であることが示唆される。

問合せ先
地球環境フロンティア研究センター 担当:太田
Tel:045-778-5687 Fax:045-778-5497 URL:http://www.jamstec.go.jp/frsgc/jp/
海洋研究開発機構 総務部普及・広報課 担当:高橋、五町
Tel:046-867-9066 Fax:046-867-9055 URL:http://www.jamstec.go.jp/