平成17年4月26日
海洋研究開発機構
地球シミュレータを用いた社団法人日本自動車工業会との
共同研究の平成16年度成果について

 独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)の地球シミュレータセンター(センター長 佐藤 哲也)は、地球シミュレータの産業利用可能性の実証とシミュレーション科学の産業界への普及、高度化を進めています。
 このたび、社団法人日本自動車工業会(会長 小枝 至)との共同研究「車まるごとリアルタイム高精度シミュレーションの検討」において、平成16年度の共同研究成果として、より高精度で、短期間に衝突解析を行うシミュレーション手法の開発の目処がたちましたので、お知らせいたします。

1. これまでの経緯
 本共同研究では、平成16年6月16日から平成18年3月31日までの期間で、地球シミュレータを用いた車まるごとのシミュレーションに関する検討及びそれに関する基盤技術についての研究を共同で実施しています。
 現在、自動車の開発において、各種シミュレーションが、スーパーコンピュータを利用して実施されています。車まるごとシミュレーションを目指すためにはひとつひとつのシミュレーションを高精度化し、より現実に近い結果をだせるようにしておく必要があります。地球シミュレータにより、これまでにない高精度のシミュレーションが可能となり、自動車開発における未来のコンピュータ利用のあり方・開発のあり方への指針となるとともに、実現された場合には、開発時間の短縮だけでなく、大幅なコスト削減が可能となることも予想されています。
 平成16年度については、自動車設計・開発においてもっとも基本となる衝突解析プログラムを地球シミュレータへ移植し、車体形状を忠実に再現した高精度解析モデルを使用した解析を実施しました。

2. 成果
(1) シミュレーションの高精度化(資料1、資料2添付)
 従来、基本の衝突解析プログラムでは、自動車の車体を100万メッシュの格子で表現し、衝突の際、100ミリ秒あたりどれだけ車体が変化するのかをシミュレーションしていました。これに対して、今回、車体をより精緻にシミュレーションするための高精度化したモデルを開発し、世界で初めて車体の解像度を500万メッシュ、1000万メッシュと上げた場合の影響度を調査しました。このシミュレーション結果を分析したところ、100万メッシュモデルでは再現することができなかった部品の変形が500万メッシュモデル、1000万メッシュモデルでは再現されると同時に、衝突時の加速度変化なども、より実際の衝突実験の結果に近くなり、高精度シミュレーションの威力が確認されました。
 この結果、従来のシミュレーションより、精度が良くなることが確認されるとともに、形状を忠実に再現することにより、従来必要であったメッシュ作成のノウハウを用いなくとも、解析モデル作成が自動化でき、より短期間で解析が出来る可能性があることが分かりました。

(2) シミュレーションの高速化
 今回、シミュレーションモデルの高精度化を行うとともに、計算時間の短縮を実現いたしました。
 その結果、自動車の車体を100万メッシュの格子で表現し、衝突の際、100ミリ秒あたりどれだけ車体が変化するのかをシミュレーションするために、地球シミュレータの16CPUを使って、38時間かけて計算していたところを、500万メッシュ、1000万メッシュに高精度化したモデルでは、メッシュ数の増加に伴う計算量の大幅な増加(最大100倍)にもかかわらず、512CPUを使って、それぞれ、12時間、35時間で計算することが出来ました。この計算時間の短縮により、より詳細なシミュレーションの実施や、自動車開発の時間短縮などにつながる事が見込まれます。

3 .今後の計画
 引き続き衝突解析の高精度化を行うとともに、車体の振動・騒音・空力特性やエンジンの燃焼シミュレーションで使用している現行のプログラムを地球シミュレータに移植し動作の検証や精度の確認を行います。さらに、これらの結果を基に衝突時や走行時を想定し、その時の車体各部のリアルタイムかつ高精度な解析など、今後、車まるごとシミュレーションに必要な技術課題の検討を行う予定です。

以上
海洋研究開発機構
地球シミュレータセンター企画調整室長 山田 康夫
 TEL 045-778-5751 FAX 045-778-5490
総務部普及・広報課長 高橋 賢一
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