平成18年2月20日
独立行政法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京大学
独立行政法人産業技術総合研究所

新潟沖における海底下のメタンハイドレート柱状分布の発見
−世界初の深海での曳航式海底電気探査手法によるメタンハイドレート分布状況の把握−

概要
 海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)の地球内部変動研究センター(IFREE、センター 長 深尾 良夫)と高知コア研究所(所長 東 垣)は、東京大学、産業技術総合研究所等との共同研究において日本海新潟沖の海底をカメラ観察した結果、メタンハイドレートと思われる海底変色域を撮影することに成功した。さらにこの変色域に対してピストンコアリング※1を行い、メタンハイドレートの採取に成功した。また、メタンハイドレートが高い電気抵抗を示す性質を利用して、海底に微弱な電気を流して調査したところ、コア採取地域の海底面から海底下100m程度までメタンハイドレートとおもわれる非常に高い電気抵抗を示す物質が広がっていることが分かった。以上の成果は「ブルーアース'06」(2月23、24日 パシフィコ横浜)において報告する。※1

※1:当該報告は、2月23日13:50〜14:50の第22回しんかいシンポジウム セッション3にて行われます。

目的と背景
 メタンハイドレートとはメタン分子が水分子のかご構造に取り込まれた化合物であり、その外観と性質から「燃える氷」と呼ばれている。メタンハイドレートは新たなエネルギー資源の可能性を秘める一方で、メタンガスが温室効果を持っているためにメタンハイドレートと地球環境変動の関係にも注目が集まっている。
 日本海新潟沖では、海底直下にメタンハイドレートが分布していることが、東京大学大学院の研究グループ(松本良教授ら)の最近の調査によって分かっているが、メタンハイドレートが海底にどの程度広く分布しているのか、また海底より下ではどの様に分布しているかは分かっていなかった。
 そこで我々は、海底及び海底下のメタンハイドレートの分布状況把握及び採取を目的として、平成17年8月、海洋調査船「かいよう」KY05-08航海において、日本海新潟沖(図1)で地質学的・地球物理学的な調査を集中的・総合的に実施した(図2)。


成果
 今回は3つの大きな成果をあげることができた。(※1〜3:用語解説を参照のこと)

1) 海底のカメラ観察による変色域の発見
  深海曳航調査システム「ディープ・トウ」※2を用いて、水深約800〜1,000mの海底をカメラ観察した結果、地形的な高まり(マウンド)周辺に非常に局所的ではあるが海底に白っぽい変色域や急崖(写真1、2)を発見した。観察距離は合計約8kmにおよぶ。カメラ映像からは、この変色域はバクテリア、炭酸塩及びメタンハイドレートであると思われる。

2) メタンハイドレート採取に成功
  カメラ観察の結果に基づいて、変色域及びその周辺においてピストンコアリング採泥を行い、メタンハイドレートの採取に成功した。採取されたコアのうち5本でメタンハイドレートが確認され、メタンハイドレートの採取長は最長で約2.6mであったが、より深部にもメタンハイドレートが存在すると思われた。また、コア中には砂などを含まないメタンハイドレートの塊も多数含まれていた(写真34)。これによって、カメラ観察で確認された変色域ではメタンハイドレートが海底に露出していることが確認された。ピストンコアリングに際しては、メタンハイドレートを採取できる位置を音響を用いて精密に調査することにより、半径10m以下の誤差範囲内で目標地点においてピストンコアリングを実施することができた。

3) 海底電気探査による海底下のメタンハイドレート分布の解明
  メタンハイドレートの海底下での分布を調査するために、カメラ観察及びピストンコアリングを実施した地域で海中に微弱な電流を流して電気の流れやすさを調査したところ、通常の堆積物と比べて非常に高い電気抵抗を示す物質が海底下100m程度まで柱状に分布していることが分かった(図3)。これは海底電気探査※3と呼ばれる手法であり、陸上では鉱床探査等に一般的に用いられている手法であるが深海での曳航式探査は世界初である。メタンハイドレートが採取された地域(図3の青矢印部分)で最も高い電気抵抗値が認められていること及びメタンハイドレートは電気抵抗の高い物質として知られていることから、この柱状の高抵抗物質はメタンハイドレートであると考えられる。このことから、本海域の海底下ではメタンハイドレートは地層のように水平方向に分布しているのではなく、”氷の柱”として局所的に存在するように思われる。このことは本地域のメタンハイドレートの形成過程にも大きな知見を与えるものである。

 以上のように、種々の地質学的・地球物理学的調査を集中的に実施したことにより、メタンハイドレートの海底及び海底下での分布の様子が明らかになってきた。今後は採取されたコアの分析を進めて、本海域におけるメタンハイドレートの生成過程や環境に与える影響に関する研究を進めていく。また、海底電気探査のデータをより詳細に解析して、海底下のメタンハイドレート分布をより詳しく求める予定である。

【用語解説】
*1 ピストンコアリング
   直径10cm、長さ6〜12mの金属製の「筒」を海底に突き刺して、地層からコア(地質試料)を採取すること。なお、このコアの採取に用いる装置をピストンコアラーと呼ぶ(写真3はピストンコアラー先端から見える採取されたメタンハイドレート)

*2 深海曳航調査システム「ディープ・トウ」
   調査船から海中に下ろした全長数千メートルのケーブルの先端にビデオカメラ、デジタルカメラ、高度計、深度・温度・塩分計を装備した曳航体を取り付け、海底付近をごく低速で曳航するシステム。今回は海洋研究開発機構所有の水深6000m級ディープ・トウを使用した。

*3 海底電気探査(図4
   「ディープ・トウ」に人工電流発生装置及び曳航ケーブルを装着し、海底付近で微弱な電流を流すことにより、地層の電気抵抗構造を調べる手法。深海曳航方式としては、世界に先駆けて、今回初めて成功。メタンハイドレートのような高い電気抵抗を示すものだけでなく、活断層のように周囲よりも海水を含みやすい構造の調査にも、道を開くとして注目される。
 
問い合わせ先

独立行政法人海洋研究開発機構

地球内部変動研究センターグループリーダー
地球内部変動研究センター研究員
:木下 正高
:後藤 忠徳
 
  電話:046-867-9323、046-867-9335
FAX:046-867-9315


経営企画室 報道室長
経営企画室 報道室長代理
:大嶋 真司
:笠谷 岳郎
 
  電話:046-867-9193、046-867-9194
FAX:046-867-9199

国立大学法人東京大学

大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授
:松本 良
 
  電話:03-5841-4522
FAX:03-5841-4522

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地圏資源環境研究部門 主任研究員
:佐藤 幹夫
 
  電話:029-861-3907
FAX:029-861-3666