背景:
雲は日射を反射することで地球に冷却効果をもたらす。それと同時に雲は下層からやってきたより高温の熱放射を吸収し、より低温な熱放射を射出することで、地球から出てゆく放射を減らし、地球に加熱効果(温室効果)をもたらす。また雲の発生頻度や雲量は、降水と強い関連性がある。
気候の予測において最も大きな不確実性をもたらす要因の一つは、この様な効果をもたらす雲であると認識されており、その長期的な変化を明らかにすることは重要な課題とされている。これまでに個別の雲の種類ごとの出現頻度や雲量(注1)の長期変化について、旧ソビエト連邦とアメリカでは研究が行われていたが、東アジアでは行われていなかった。そこで本研究では、東アジア地域における26年間の低層雲(注2)の気象台職員による目視観測データを解析し、各季節ごとの低層雲の出現頻度と出現時の雲量の長期変化を明らかにした。
成果:
中国、特に華北から内モンゴルでは一年を通して、晴天(注3)の出現頻度が年々増加傾向である(図1)。夏季(6月から8月)には揚子江流域から北側で積雲(注4)の出現頻度が減少し(図2)、中国南部で積乱雲(注5)の出現頻度が減少している(図3左)。つまり大気が安定した状態(注6)である頻度が増加している。しかし、積乱雲が出現したときの雲量は中国南部では増加傾向である(図3右)。
過去に比べ近年は豪雨の出現頻度が世界的に増加傾向である。一般的に豪雨は発達した積乱雲の塊によってもたらされる。揚子江流域では、積乱雲の出現頻度が減少していたが、同時に豪雨の発生頻度が増加しており、一見すると矛盾している。しかし、積乱雲の出現時の雲量の増加と夏季の降水日数の減少をあわせて考えると、積乱雲が出現した際に過去に比べて積乱雲がより発達し、より強い降水を集中的にもたらしていると解釈でき、必ずしも長期的な変化傾向が矛盾しているとは言えない。
アメリカ大陸では豪雨の発生頻度が増加するとともに、豪雨をもたらすと考えられる積乱雲の出現頻度も増加しており、豪雨の発生頻度と積乱雲の出現頻度の間の長期変化の関係が中国とアメリカ大陸では異なる。この違いは積乱雲の発達する環境が中国とアメリカ大陸では異なることによると考えられる 。
今後の予定:
今回得た成果は気候モデルの性能評価を行う際にひとつの指標として利用できる。今後、地上観測データを2005年まで整備し、同時に静止気象衛星による雲のデータも利用し、より長い期間にわたる雲の出現特性の年々変動および十年規模変動を明らかにし、また土地利用の変化と雲の出現特性の長期変化との関連性を明らかにしていく予定である。
注1: | 雲量:空全体の中で雲の占める割合のこと。 |
注2: | 低層雲:地上から2,000m程度までの高さに出現する雲のこと。 |
注3: | 晴天:ここでは空に雲が存在しない、雲量0(ゼロ)のこと。 |
注4: | 積雲:垂直に発達した離ればなれの雲。その上面はドームの形をして隆起している。 |
注5: | 積乱雲:垂直に著しく発達している塊状の雲。その上端は山または塔の形をして立ち上がっている。 |
注6: | 大気が安定した状態:上空に行くほど大気の密度が小さく上昇気流の発生が抑えられる状態。 |
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