1.概要
海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球内部変動研究センター(IFREE)は、米国立海洋大気庁(NOAA:National Oceanic & Atmospheric Administration)及びテキサス大学ダラス校との共同研究により、2005年10月、海洋調査船「なつしま」及び無人探査機「ハイパードルフィン」によるマリアナ海底火山調査を実施し、海底火山「NWロタ-1」の噴火(写真1)の映像を撮影することに成功した。また、海底火山の噴火現場において岩石試料を採取し、現在分析を行っている。
この結果は、海底火山の噴火現象を直接観察したNOAAによる2003〜2004年の成果とあわせて英国科学誌「Nature」の5月25日号に掲載される。
2.背景
地球の火山活動の4分の3は海底で起こっている。多くの火山活動は大洋中央海嶺における静かな溶岩の噴出であるが、海洋性の島弧(とうこ)やホットスポットと呼ばれる場所では海底火山の噴火が起こっている。
NOAAは、2003年よりマリアナ海域で50以上の海底火山を調査し、12火山で熱水活動を示すプルーム(※1)を確認した。2004年3月〜4月には、無人探査機「ROPOS」によって、北マリアナ諸島に属するロタ島の沖合北西60kmに位置する海底火山「NW ロタ-1」(図1、図2)が噴火していることを確認した。
3.成果
伊豆半島からグアム以南に至る全長2,800kmを越える典型的な海洋性島弧である伊豆小笠原マリアナ島弧では、未成熟な海洋性島弧の段階から、プレートの沈み込み帯において、大陸地殻の材料物質である安山岩が生産されるという仮説が示されている。
海洋研究開発機構は、伊豆小笠原の海底火山(スミスカルデラ・鳥島カルデラなど)とマリアナ海域の海底火山(西ロタカルデラ・「NW ロタ-1」火山など)を比較することにより、この仮説を検証するため、2005年10月8日〜20日、
「なつしま・ハイパードルフィン NT05-17航海」(首席研究者:IFREE 田村芳彦グループリーダー)を、NOAA及びテキサス大学ダラス校との共同研究チームにより実施した。
その結果、2004年のNOAAによる調査時とは比較にならないほど大規模な海底火山の噴火を直接観察し、その映像を撮影することに成功した。また、海底火山の噴火現場において岩石試料を採取し、現在分析を行っている。
噴火が確認された水深533mにある「NW ロタ-1」噴火口(図3)では、マグマと海水との接触が不連続的な爆発を引き起こし、約50気圧の水圧により抑えられながらも直径約15mの噴火口からは脈動的に火山灰とスコリア(※2)を吹き上げる様子が確認された。また、火口からは火砕流も生じ、斜面を駆け下りる様子が観察された。さらに、噴煙(細粒の火山灰が混濁した海水)とともに液体の二酸化炭素と思われる大量の泡の放出が確認された。噴煙は海流によって移動・拡散し、海面に到達していないため、この海域の海面は平静であり、変色域も報告されていない。この海底火山「NW ロタ-1」は、
2004年3月から19ヶ月間にわたり活発な噴火を続けていたと考えられる。
4.今後の予定
採取された岩石試料の分析により、海底火山のふもとの溶岩と吹き上げられていたスコリアが、それぞれマグマであった頃の含水量に違いがあるなどの成果が得られている。今後は、引き続き溶岩とスコリアの分析を行い、「マグマ生成のメカニズムとその過程」及び「海洋性島弧の成長過程」を明らかにする予定である。
なお、本成果は、本年12月に米国で行われる予定の「アメリカ地球物理学会」(American Geophysical Union)でも発表する予定である。
※ 1 プルーム: |
温度、電気伝導度などが周囲の海水よりも高い海水の上昇流 |
※ 2 スコリア: |
火山噴出物の一種で、塊状で多孔質のもののうち暗色のもの。
岩滓(がんさい)ともいう。 |
|