1. 概要
海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)は、熊野トラフにある泥火山※1の詳細な表層構造を把握することを目的に深海巡航探査機「うらしま」を用いた音響探査を実施しました。この調査により取得したデータを解析した結果、泥火山頂部付近に泥噴出等の痕跡と思われる微細地形を発見することに成功しました。
このような微細地形・構造の発見は、この泥火山の成因、ひいては南海トラフ沿いに繰り返し発生してきた海溝型巨大地震と泥火山との関係や、熊野トラフ下に存在が予想されているメタンガス(ハイドレート化している物も含む)の生成に関わる研究にも大きな影響をもたらすものとして考えられます。
このように音響探査によって深海底の泥火山表面の微細構造を明らかにし、頂上付近の噴出口の状況を詳細に画像化したのは世界で初めてです。
2. 調査内容
(1)調査期間: |
平成18年7月1日〜7日 |
(2)調査海域: |
熊野トラフ第5海丘(三重県沖 約40km)
第5海丘と第6海丘の水深2,060mから1,900mの泥火山(比高150m, 最大傾斜15°)を含む海域(図1)、(総航行距離35km、面積として 3.5平方km)。 |
(3)調査方法: |
「うらしま」(写真1)に計測航路と海底からの高度(今回約80mに設定)を予めプログラムし、搭載のサイドスキャンソーナーによる音響探査(図2) |
(4)調査結果: |
「うらしま」で取得したデータを用いて作成した海底表層の散乱強度分布図からは、泥火山頂上部に周囲の地形とは明らかに異なる散乱強度の弱い噴出口が存在することがわかります。これはごく最近に噴出した噴出口である可能性があり、地震等を原因とする海底下からの噴出物の痕跡を示すものと考えられます(図3、音響微細地形図)。また、これまでこの海域で実施されてきた海底下構造探査や有人潜水調査船による海底調査で得られた堆積物間隙水の化学分析結果と併せて、噴出物にはメタンなどの炭化水素化合物が含まれていたと推定されます。 |
3. 今後の予定
今回取得したデータと、過去の潜航調査の画像などとを合わせて解析し、地形・地質構造との対比などから泥火山の生成過程等を明らかにしていきたいと考えています。今後、「うらしま」の活用により海底資源、断層活動および海底地すべりなどの調査が短時間に高精度で実施できることとなり、このような調査を繰り返すことにより海底下での現象をより正確に、定量的に理解することも可能になります。
※1泥火山とは
海底下の地層には泥質の物質が存在する層があり、それが周囲の地層からの圧力等により海底面上に噴出した結果できた山体を泥火山(どろかざん:mud volcano)といいます。
熊野トラフでの泥火山は、東海沖から東北東-西南西方向に連続する活断層(遠州断層系)にほぼ平行して分布しており、その発達域は1944年の東南海地震の余震域とほぼ一致し、断層活動・地震活動との強く関連すると考えられています。
また、これまで行われてきた海底下構造探査により熊野トラフ下にはガスハイドレートの存在下限を示すBSR(Bottom Simulating Reflector:海底擬似反射面)も確認されています。これらの層が地震等により上昇してきた泥ダイアピル(圧力差や密度差によって下部の流動的な物質が上昇する現象)によって分解され、急激なメタンガス・泥の噴出を促した可能性があります。(参考図参照) |