平成18年10月27日
独立行政法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」下北半島東方沖掘削試験について
〜試験実施結果について〜

   海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)所属の地球深部探査船「ちきゅう」は、本年8月6日より82日間にわたる下北半島東方沖(水深約1,200m)におけるシステム総合試験と操作慣熟訓練を実施し、10月26日八戸港に入港しましたので、その結果を報告します。

1.主な試験状況について
(1)システム総合試験について
    システム総合試験として実施を予定していた5項目(※1)については、課題は一部残っているものの、概ね所期の目的が達成されました。特に、水深1,000mを越える大水深において、ライザー掘削に必要な一連の作業(大水深での噴出防止装置(以下BOP)の設置(写真-1)、ライザーパイプ・BOPの切離し・再結合、泥水循環等)を実施し、機能を確認できたことは重要な成果と考えております。また、風速30m/秒に達する暴風が長時間継続する荒天に遭遇した際、自動船位保持装置が当初性能を発揮したことなど、「ちきゅう」の大水深科学掘削船としての基本性能が確認されました。なお、荒天等のため当初予定した作業が変更されたことに伴い、残された課題については、来年9月開始予定の国際運用前までに実施することとしています。
※ 1 システム総合試験項目
    (1) ライザーパイプ及びBOPの降下と海底面への設置(写真-2
    (2) ライザーパイプ・BOPの緊急離脱試験
    (3) ケーシングパイプの設置とセメンチング
    (4) 「ちきゅう」コア採取システムの実海域試験
    (5) 物理検層用ワイヤーラインのシステム検証

(2)掘削作業計画について
   下北半島東方沖における掘削試験は、当該海域は例年11月以降悪天候が続くことが予想され、当初から10月までの掘削試験を予定していたところ、試験中の台風12,13,14号及び急激に発達した低気圧による荒天(写真-3)に伴う作業の中断及び待避、10月7日に荒天待避のために下部BOPからライザーパイプ及び上部BOPを緊急に切り離した際に発生したBOP接合部の損傷、廃泥水処理装置のカッティングス移送システムの不具合等により、当初見込んだ作業計画から遅れが生じたため、予定の深度までの掘削することはできませんでした。しかし、(1)のとおりシステム総合試験については概ね所期の目的を達成しており、ライザー掘削を含む海底下647mまでの掘削を行いました。

(3)採取したコアの科学的意義について
   本掘削試験においては、全長で365m分のコアの採取に成功しました。これらコアのうち、最深部から採取された部分は、コアに含まれていた火山灰と微化石の分析により約65万年前のものと推定され、河川の運んだ粘土、砂、海洋のプランクトン、火山の噴出物等が堆積したものが主体となっています。今回採取したコアには、年代同定の可能な広域火山灰層(例えば阿蘇山起源の約9万年前(海底下約60m)の火山灰層)も複数枚含んでおり、コアの正確な年代決定や、それに基づく東北地方の気候変動記録などをこのコアから解読できる可能性があります。(写真-4

2.今後の予定
   「ちきゅう」は、海外掘削試験のための機器搭載作業が終了後、八戸港を出港、次の行動である海外掘削試験(※2)のケニア沖に回航し、11月末に試験海域到着を予定しています。
   なお、カッティングス移送システムの不具合及びBOP接合部の損傷については、八戸港を出港してから海外掘削試験終了までの間に対応する予定です。    今後は、初めての掘削試験である下北半島東方沖での掘削試験の内容を十分に評価するとともに、今回の試験で発生した機器の故障を含む掘削試験の経験及びこれからの海外掘削試験により蓄積する経験を活用し、必要に応じて「ちきゅう」の運用基準の見直し等を実施し、来年9月に予定される熊野灘におけるIODPでの国際運用を万全に実施できるよう取り組んでいきます。

※ 2 海外掘削試験  国際運用開始前の試験運用期間中に出来る限りの掘削経験を積みつつ、大深度科学掘削技術の構築及び我が国への掘削技術移転を目的として、オーストラリアの資源開発会社(ウッドサイド社)からノルウェーの掘削事業者(シードリル社)を経由して、当機構が受託し、ケニア沖及びオーストラリア沖において「ちきゅう」を用いて掘削作業を実施します。

お問い合わせ先 :
独立行政法人海洋研究開発機構
(「ちきゅう」、運用について)
地球深部探査センター
企画調整室長   田中 武男   TEL:045-778-5640
(報道について)
経営企画室
報道室長   大嶋 真司   TEL:046-867-9193





(写真-1)BOPを海底面に設置するため船上から降下させる様子



(写真2)ライザーパイプ接続の作業状況

 


(写真-3)左側:荒天時のムーンプール※1の状況(6本の黄色いライザーテンショナーが中央のライザーパイプを保持しているところ) 右側:平静時のムーンプール
※1:船体の中央にある海への開口部(幅12m×長さ22m)ここを通過して船上からBOP等が降下される
 
(写真-4)左側:コア試料の船上での搬送作業、右側:研究区画に運び込まれたコア試料