平成18年11月2日
独立行政法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京大学地震研究所

南海トラフ東南海地震震源域における海陸統合構造調査の実施について

   海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)は文部科学省による地震研究プロジェクト「東南海・南海地震調査研究」の一環として「プレート形状等を把握するための構造調査研究」を平成15年度より実施しています。このたび、本調査研究として東南海地震震源域である紀伊半島沖東部から陸域に至る海陸統合構造調査を実施します。なお、海域での構造調査は海洋研究開発機構が、陸域での構造調査は当機構からの委託研究として国立大学法人東京大学地震研究所(所長 大久保 修平)がそれぞれ実施します。

(1)背景
    地震調査委員会によれば、今後の30年以内の東南海地震および南海地震の発生確率は、それぞれ60%および50%とされており、その再来が危惧されています。 このため、平成14年7月に「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が成立し、これを受けて平成15年度より文部科学省は地震研究プロジェクト「東南海地震・南海地震調査研究」(研究代表者:東京大学地震研究所 金沢敏彦)を開始しました。当機構は、この研究課題の一つである「プレート形状等を把握するための構造調査研究」(総括責任者:海洋研究開発機構 金田義行)として、これまで東南海地震および南海地震震源域で多くの地殻構造調査を実施しています。

(2) 調査内容
    本調査では、過去の東南海地震破壊域でのプレートの沈み込みに関する詳細な構造を画像化し、アスペリティ※1、破壊域の下限※2に関する構造を明らかにするためのデータの取得を目的としています。具体的には、1944年の東南海地震の際にプレート境界の固着が剥がれ大きく滑ったと推定されている領域の海底に存在する地形の高まり周辺における地下構造、およびマントルウェッジ※3周辺の構造を明らかにすることをねらいとしています。調査は海洋調査船「かいよう」で行われ、航海中は、主として人工震源(エアガン)と海底地震計(OBS)を用いて地下深部構造の調査(広角反射・屈折法調査)を行うほか、副次的に12chマルチチャンネル反射法(MCS)探査※4による地下浅層部の調査及び海底地形観測も実施します。(参考1
    なお、東京大学地震研究所においても、海域調査とほぼ同時期に紀伊半島東部(三重県・滋賀県)に地震計を設置して、火薬による発振を行い、陸域下の構造も明らかにします。さらに、海陸境界周辺の深部構造解明のため、海洋調査船「かいよう」で行われるMCSのエアガン信号、および陸上爆破信号(発振)を海底地震計(OBS)と陸上地震計(DAT)で記録することで、海陸統合深部構造探査を実施します(図1)。

(3) 主な調査実施内容
(3- 1)海域構造調査:平成18年11月7日(火)〜12月2日(土)(予定)
・ 調査方法(参考1):広角反射・屈折法調査
・ 使用船舶(参考2):海洋調査船「かいよう」(海洋研究開発機構所属)
・ 使用機器(参考3)等:海底地震計50台(補完調査として海底地震計40台を用いた構造調査も実施する)ならびに人工震源(エアガン)による地殻構造調査(12日間予定)
(3−2)陸域調査:平成18年11月7日〜12月2日
・ 火薬による発振を用いた地殻構造調査:陸上発振(5点)は11月20日予定
(薬量400kg:2点、200kg:1点、100kg:2点)
・ 陸上地震計約450台設置を滋賀県甲賀市から三重県度会郡南伊勢町までの測線に展開

(4)期待される成果
    本調査研究によって得られた観測結果から東南海地震震源域の特徴的な構造を抽出し、南海トラフ域の地下構造を詳細に把握できることが期待され、今後の東南海地震の発生メカニズムの解明に大きく貢献できるものと考えています。     また、これにより本年度より構築される紀伊半島沖における海底地震・津波観測ケーブルネットワークシステムの処理解析能力の高精度化が図れます。

<お問い合わせ先>
独立行政法人海洋研究開発機構
海底地震・津波ネットワーク開発部長 金田義行(地球内部変動研究センター 兼務)
電話:046-867-9448 FAX:046-867-9343
経営企画室 報道室長 大嶋 真司
電話:046-867-9193 FAX:046-867-9199
国立大学法人東京大学地震研究所
地震地殻変動観測センター 教授 岩崎貴哉
電話:03-5841-5708 FAX : 03-5689-7234
アウトリーチ推進室 助教授 辻 宏道
電話:03-5841-2498 FAX : 03-5841-5643

(注記説明)
※ 1 アスペリティ:地震時に大きなすべりが生じた箇所
※ 2 破壊域の下限:地震を起こす深さの下限 (南海トラフの海溝型地震では深さ約30km程度)
※ 3 マントルウェッジ:沈み込んだプレートとその上のモホ面に挟まれたクサビ状の部分
※ 4 12chマルチチャンネル反射法(MCS)探査:浅層を対象とした小規模な反射法探査