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2009年5月29日
独立行政法人海洋研究開発機構

沈み込んだ海洋プレートがマントル遷移層に滞留するときに生じる亀裂を
世界で初めて発見

1.
概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球内部ダイナミクス領域地球深部構造研究チームの大林政行主任研究員らは、日本海溝と伊豆小笠原海溝から沈み込んだ海洋プレート(スラブ)が日本海溝−伊豆小笠原海溝会合点(図1)の下、約300kmより深い部分で裂けていることを世界で初めて発見しました。またこの裂け目が何故できたかを明らかにしました。

従来、プレートが割れたり裂けたりすることは知られていましたが、今回の発見は、この性質が地下深くの高温高圧の世界でも保たれることを示した画期的なものです。

この成果は、5月29日(米国東部時間)に米国科学誌Scienceに掲載されます。

タイトル Tearing of Stagnant Slab
著者名 大林政行、吉光淳子、深尾良夫

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金特定領域研究 領域名:「スタグナントスラブ:マントルダイナミクスの新展開」(16075208)の助成を得て行われたものです。

2.
背景

大林主任研究員らは、マントルに沈み込んだスラブは、上部・下部マントル遷移層(※1)内に一旦滞留する(スタグナントスラブ)傾向があることを明らかにしてきました(図2)。日本海溝や伊豆小笠原海溝から沈み込んだスラブもこうした傾向にあり深さ660kmの上部−下部マントル境界の上でほぼ水平に滞留しています。スラブの滞留とそれに続く下部マントルへの崩落の過程は表層プレートの運動史を理解する鍵であると考えられますが、スタグナントスラブ自体の力学的性質やスラブが滞留するときどんなことが起こるのかはこれまで分かっていませんでした。

3.
研究方法の概要

スタグナントスラブの実態と周囲のマントル環境を明らかにするため、海底における地震・電磁波観測、西太平洋海洋島を中心とした広帯域地震観測網(当機構、防災科学技術研究所、東京大学地震研研究所)や国内の高密度な高感度地震観測網HI-NET(防災科学技術研究所)などの地震観測網によるデータを組み合わせて、西南日本のマントル遷移層に焦点を当てた地震波解析を行いました。

4.
結果

西太平洋域の地震観測網のデータを解析する等で地震波トモグラフィー(※2)の分解能を向上させたところ、日本海溝−伊豆小笠原海溝会合点下でスラブを示す地震波高速異常(※3)に鮮明な間隙があることを見出しました(図3(B) 矢印(a)、図4)。間隙は近畿地方下深さおよそ300kmから黄海下深さおよそ700kmにわたり見られます。この間隙はスラブの中で発生するはずの深発地震の空白域と一致し、スラブの裂け目を意味しています。

日本海溝と伊豆小笠原海溝は「く」の字型に曲がってつながっており(図1)、スラブもまた「く」の字型に沈み込んでいます。そのようなスラブがマントル遷移層に突入して水平に曲がるためには、会合点でスラブは裂けて隙間を作る(図3(A))か、液体のように流れて遷移層に溜まるかのどちらかです。今回のスラブの亀裂の発見は、マントル遷移層内でスラブは流れたりせず、地表のプレートと同じように割れたり裂けたりすることを示したもので、スタグナントスラブの力学的性質を観測から明らかにしたものです。

また地震波形の解析から、深さ350km亀裂の先端付近ではスラブ内の応力場が沈み込む方向に平行な圧縮場である周囲と異なり、水平方向の張力場であることが示され(図3(B)矢印(b))、これは現在でもスラブの亀裂が進行していることを表しています。

5.
今後の展望

地球の表層の挙動は、硬くて割れたり裂けたりする性質を持つプレートの運動によって説明されてきましたが、マントル深くまで沈み込んだスラブの性質について観測からわかることはごく限られていました。今回の画期的な発見をきっかけに、スラブの性質とその挙動についての理解が大きく進み、表層プレートの運動史ひいては地球進化の解読へとつながることが期待されます。

※1 マントル遷移層

深さおよそ400km−1000kmの地震波速度が急激に速くなる領域。狭義には上部マントル最下部の深さ410kmと660kmにある地震波速度不連続面の間を指す。

※2 地震波トモグラフィー

地震波の到達時間や波形から、地球内部の3次元速度構造を求める手法

※3 地震波高速異常

ある深さでの平均地震波速度より速い領域。地表で冷やされたスラブは高速度異常として表れる。

図1 
日本付近の地形図。日本海溝と伊豆小笠原海溝は「く」の字に曲がってつながっている。
図2 
日本海溝、伊豆小笠原海溝から沈み込んだ海洋プレートはマントル遷移層でほぼ水平に折れ曲がり滞留している。
図3 
スラブの亀裂の模式図
図4 
日本付近下のP波速度異常。暖色は低速異常、寒色は高速異常を表す。地表で冷やされたプレートは高速異常として表れる。紫点は震源を示す。矢印が今回発見したスラブの裂け目。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球内部ダイナミクス領域 地球深部構造研究チーム
 主任研究員 大林 政行 TEL:046-867-9744
(報道担当)
経営企画室 報道室長 村田 範之 TEL:046-867-9193