プレスリリース


2011年 3月 7日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)第337次研究航海の開始について
〜下北八戸沖の海底下炭素循環システムと地下生命活動の解明を目指して〜

この度、統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)(※1)および日本学術振興会による最先端研究基盤事業「海底下実環境ラボの整備による地球科学-生命科学融合研究の強化(「ちきゅう」を活用)」の一環として、3月15日から5月21日までの68日間、独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)が運航する地球深部探査船「ちきゅう」を用いた「下北八戸沖石炭層生命圏掘削調査」(別紙参照)が開始されます。

本研究航海は、海底下深部に埋没した石炭層を根源とするメタンハイドレート・天然ガスの炭素循環システムの理解、有機物の分解やエネルギー物質生産に関連する地下微生物活動の実態解明、海底下深部地層への二酸化炭素隔離の可能性等の追究を目的としています。

本研究航海では、科学海洋掘削における世界最高到達深度(海底下2111m以深)からのサンプル採取の他に、地殻内流体の現場化学測定やメタンハイドレート層の保圧コア採取等を行い、「ちきゅう」船上で様々な分野の研究が実施されます。日本から共同首席研究者および若手招聘者を含む12名が乗船するほか、米国、ドイツ、イギリス、フランス、オーストリア、デンマーク、カナダ、中国からも含め、計32名が参加する予定です。

※1 統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

別紙1

下北八戸沖石炭層生命圏掘削調査

1.日程

平成23年3月15日
八戸港を出港
平成23年3月21日
ヘリコプターにて乗船研究者等が乗船
八戸沖約80kmの地点C0019孔にて掘削を実施
平成23年5月21日
八戸港にて下船(掘削航海終了)

なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2.日本から参加する乗船者

氏名 所属/役職 乗船中の役割
稲垣 史生 海洋研究開発機構/上席研究員 共同首席研究者
井尻 暁 東京大学/ポストドクトラル研究員 有機地球化学
井町 寛之 海洋研究開発機構/主任研究員 微生物学
谷川 亘 海洋研究開発機構/研究員 物理特性
星野 辰彦 海洋研究開発機構/研究員 微生物学
村山 雅史 高知大学/教授 堆積学
森田 澄人 産業技術総合研究所/研究員 物理特性
諸野 祐樹 海洋研究開発機構/主任研究員 微生物学
山田 泰広 京都大学/准教授 物理検層
小嶋 孝徳 東京大学/大学院生(修士課程) 物理検層(若手招聘者)
塔ノ上 亮太 大阪大学/大学院生(修士課程) 物理特性(若手招聘者)
安冨 友樹人 筑波大学/大学院生(博士課程) 古生物学(若手招聘者)

3.研究の概要

メタンハイドレートや天然ガスをはじめとする大陸沿岸の炭素循環システムの理解は、海洋国家である我が国のエネルギー資源問題と直結した問題であるばかりでなく、過去の地球環境における温暖化イベントや生態系の変化を理解し、将来の持続的な低炭素社会を構築する上でも大変重要な科学的課題となっています。これまでの地震波による地下構造探査や事前掘削調査等により、下北八戸沖の海底堆積物には、海底下約2000mより深い石炭層に由来する天然ガス(メタン)が含まれており、海底下約365mまでの比較的浅い堆積物中にメタンハイドレートが蓄積するなど、広い範囲で海底下炭素循環システムが広がっていることが明らかになっています。

本研究航海では、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて科学海洋掘削の世界最高到達深度を超える海底下約2200mまで掘削し、古第三紀(約5000万年前)に形成された未成熟の石炭層(褐炭)などの堆積物コア試料や流体試料(地層中に存在する地下水など)を採取します。

4.掘削の概要

本研究航海では、八戸沖約80kmの海底(サイトC0019:水深約1180m)において、2006年の「ちきゅう」慣熟訓練航海期間中に試験掘削された海底下約650mまでの掘削孔を、さらにライザー掘削システムを用いて海底下約1200mまで掘進し、代表的な地層のコア試料を採取します。次に、1200mまでの掘削孔内で検層センサーによる地質構造の調査等を行い、ケーシングパイプを挿入し掘削孔を補強します。

その後、再びライザー掘削システムを用いて海底下2200mの目標深度までの掘削により、海洋性堆積物と陸源堆積物の境界面や、古第三紀褐炭層等の代表的な層準のコア試料を採取します。続いて、掘削孔に各種検層センサーを挿入し、海底下1200mから2200mまでの地質構造の詳細な特徴を測定し、褐炭層付近の流体試料を採取します。

ライザー掘削期間中は、循環泥水に含まれる天然ガスの化学組成や炭素同位体比等を連続的に測定します。また、ライザー掘削終了後は、別孔にて海底表層から約365mまでのノンライザー掘削を行い、「ちきゅう」に新規に導入された保圧コアリングシステムを用い、メタンハイドレート層を含むコア試料を採取します。なお、得られたコア試料は、現場の圧力を維持したまま別の保圧容器に移し、「ちきゅう」船上におけるX線CTスキャンなどの非破壊分析や海洋研究開発機構高知コア研究所における実環境ラボの地球科学-生命科学融合研究等に用います。

図1.IODP第337次研究航海の掘削予定地点。
図1.IODP第337次研究航海の掘削予定地点。

5.期待される成果

本研究航海による掘削調査研究により、(1)石炭層を根源とする炭化水素循環システムの実態解明、(2)有機物の分解プロセスやメタン生成に関わる地下生命活動の機能の解明、および(3)海底下深部堆積物内への二酸化炭素隔離の可能性や生物学的な炭素循環等に関する研究への発展等が期待されます。

6.その他

海洋研究開発機構では、本研究航海に関する特設ウェブページを開設いたしました
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp337/)。このウェブページでは、より詳細な航海概要の紹介や乗船研究者の紹介を行うとともに、航海中の船上からのレポートなどを随時更新いたします。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究航海について)
地球深部探査センターIODP推進・科学支援室 科学計画グループ
グループリーダー 菊田 宏之 TEL:045-778-5644
(IODPについて)
経営企画室 研究企画統括 星野 利彦 TEL:046-867-9207
(最先端研究基盤事業について)
高知コア研究所 地下生命圏研究グループ
グループリーダー 稲垣史生 TEL:088-878-2204
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL:046-867-9193