2013年 7月 26日
独立行政法人海洋研究開発機構
この度、統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)(※)の一環として、「日本海・東シナ海掘削による急激なアジアモンスーン変動の発達とヒマラヤ・チベット隆起の関係解明」(別紙参照)を実施するため、米国が提供するジョイデス・レゾリューション号の研究航海が7月29日から開始されます。
本研究航海では、日本海及び東シナ海北部において掘削を行い、過去に起こった造山運動や氷河の形成・発達そして北太平洋及び全球的な気候変動の関連性を解明するため、日本から8名が乗船するほか、米国、欧州、中国、韓国、オーストラリア、インド、ブラジルからも含め、10か国以上計32名が乗船研究者として参加する予定です。
※統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)
日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州(18カ国)、中国、韓国、豪州、インド、NZ 、ブラジルの26ヶ国が参加。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。
別紙
日本海・東シナ海掘削による急激なアジアモンスーン変動の発達と
ヒマラヤ・チベット隆起の関係解明
1.航海概要
なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。
2.日本から参加する研究者
氏名 | 所属/役職 | 乗船中の研究担当 |
---|---|---|
多田隆治 | 東京大学/教授 | 共同首席研究者 |
池原 研 | 産業技術総合研究所地質情報研究部門/副研究部門長 | 堆積学 |
板木拓也 | 産業技術総合研究所地質情報研究部門/主任研究員 | 微古生物学(放散虫化石) |
入野智久 | 北海道大学/助教 | 層序対比 |
烏田明典 | 東京大学/大学院生(博士課程) | 堆積学 |
久保田好美 | 国立科学博物館/研究員 | 微古生物学(有孔虫化石) |
佐川拓也 | 九州大学/学術研究員 | 堆積学 |
杉崎彩子 | 東京大学/ポスドク研究員 | 古地磁気学 |
3.研究の背景
モンスーンとは、日射量の季節変動が原因で、隣接する海と陸の温度コントラストが季節により変化し、それに伴って卓越風の風向が夏と冬で逆転する現象を指します。モンスーンは、各大陸に固有な地域的気象現象ですが、アジアモンスーンはその中でも最大規模のもので、世界の人口のおよそ6割が居住するアジア全域にその影響を及ぼし、これらの地域の水循環を支配しているほか、グローバルな気候へも影響を及ぼします。夏季モンスーンに伴う降水は、これらの地域の人々に恵みの雨をもたらしますが、その勢いが強すぎれば洪水を引き起こし、弱すぎれば干ばつを引き起こします。従って、アジアモンスーンが、何が原因でどのようにして生まれ、どの程度変動してきたのかを知ることは、例えば、地球温暖化に伴う気候変動を予測し、洪水や干ばつに備える上でも重要と考えられます。
こうしたアジアモンスーンの強さや空間分布が、東アジア上空の偏西風の経路とその季節変化によって規定されていることが、近年明らかになってきました。そして、東アジア上空での偏西風の経路は、ヒマラヤ-チベットの地形効果に影響されていることも分かってきました。すなわち、冬季にヒマラヤの南縁を通過していた偏西風の経路が、5月頃にチベットの北縁に移動することに伴って梅雨が開始し、梅雨前線の北上が始まるのです。さらに、日本海の第四紀堆積物や中国の鍾乳石の研究から、アジアモンスーンの強さや空間パターンが、北大西洋やグリーンランドの気候変動と連動して、千年スケールで大きく急激に変動してきたことも明らかにされました。
4.研究の目的・概要
本研究航海では、アジアモンスーンの影響を強く受ける日本海及び東シナ海の海底を掘削し、コア試料の採取・分析を行うことで、本海域付近の古海洋環境・古気候の歴史を千年スケールの高解像度で明らかにし、アジアモンスーンの急激な変動がいつから始まり、その周期や変動の規模が、時代とともにどのように変化してきたのかを解明します。また、偏西風経路の移動やそれに伴う梅雨の始まりや季節内での梅雨前線の移動が、鮮新世から更新世にかけてのヒマラヤや北部チベットの隆起とそれにともなう偏西風の経路の2極化と深く関わっているという仮説を検証するため、アジアモンスーンの変動と先行研究で明らかになっているヒマラヤ-チベットの隆起とがどう関わっているかを明らかにすることも科学目標としています。