2014年 9月16日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)は、文部科学省委託事業「気候変動リスク情報創生プログラム」の第3回公開シンポジウムを下記のとおり開催しますのでお知らせいたします。
「気候変動リスク情報創生プログラム」は、気候変動予測の信頼性を高めるとともに、気候変動リスクの特定や生起確率を評価する技術、気候変動リスクの影響を多角的に評価する技術に関する研究等を推進し、気候変動によって生じる多様なリスクのマネジメントに資する基盤的情報の創出を目的として研究開発を進めています。
今回のシンポジウムでは、「気候変動のリスクを知る~地球の反応、身近な変化~」と題し、地球温暖化が植物やそれを取り巻く生態系とどのように関わっているか、地球温暖化によって将来の洪水の発生の仕方がどのように変わるか、農業がどのように変わるかなどについて、これまでの研究を通じて得られた最新の知見を交えながら御紹介します。加えてパネルディスカッションでは、日本政府が地球温暖化に対する対策として適応計画をまとめようとし、また、国際的にも地球温暖化に関する科学的知見への要請が強まっている中、このような政府や地方自治体の適応計画の立案や実施、国際動向に対して、本プログラムが具体的にどのような役割を果たしていくかという点を含め今後の地球温暖化研究のあり方についての討論を行います。
記
気候変動リスク情報創生プログラム平成26年度公開シンポジウム
「気候変動のリスクを知る~地球の反応、身近な変化~」
1.日時 | : | 平成26年9月30日(火)13:30~17:30(開場13:00) |
2.会場 | : | 一橋大学一橋講堂 (学術総合センター内) 東京都千代田区一ツ橋2-1-2(別紙1参照) |
3.入場料 | : | 無料(事前登録制) |
4.プログラム | : | 別紙2 |
5.講演要旨 | : | 別紙3 (参考資料) ご案内リーフレット |
6.申込 | : | 下記ホームページよりお申し込みください。 http://www.jamstec.go.jp/sousei/jp/event/sympo/2014/regist.html ・報道関係の方については、会場スペースの関係上、事前に 人数、テレビカメラの有無などについて、報道課宛てお知らせください。 なお、社章(腕章)・社員証を忘れずに持参してください。 |
別紙1
一橋大学一橋講堂(学術総合センター 内)
東京都千代田区一ツ橋2-1-2
電車
会場周辺地図
別紙2
時間 | タイトル | スピーカー/所属、役職 |
---|---|---|
13:30-13:35 | 開会挨拶 | 文部科学省 |
13:35-13:50 | 講演の全体説明 | 住 明正 文部科学省技術参与 国立環境研究所 理事長 |
13:50-14:20 | 陸から大気を通して海へと運ばれるミネラル 大気化学は「アイアンシェフ」 |
伊藤 彰記 海洋研究開発機構 主任研究員 |
14:20-14:50 | 生態系からみる気候変動 | 羽島 知洋 海洋研究開発機構 特任研究員 |
14:50-15:00 | 質疑応答(10分) | |
15:00-15:15 | 休憩(15分) | |
15:15-15:45 | 洪水や浸水・氾濫を予測する技術と温暖化による影響評価 | 立川 康人 京都大学大学院 工学研究科 教授 |
15:45-16:15 | 気候変動に灌漑や農業はどの程度耐えられるか | 増本 隆夫 農研機構 農村工学研究所 資源循環工学研究領域 領域長 |
16:15-16:25 | 質疑応答(10分) | |
16:25-16:35 | 休憩(10分) | |
16:35-17:25 | パネルディスカッション: 今後の地球温暖化研究の在り方について |
コーディネーター:
|
17:25-17:30 | 閉会挨拶 | 住 明正 文部科学省技術参与 国立環境研究所 理事長 |
別紙3
陸から大気を通して海へと運ばれるミネラル
大気化学は「アイアンシェフ」
伊藤 彰紀
海洋研究開発機構
主任研究員
鉄仮説に基づいて、鉄を海に散布して植物プランクトンの光合成を促進させ、大気から二酸化炭素を取り除く手法が、ジオエンジニアリングの一手法として提案されています。鉄仮説とは「海洋は鉄不足であり、海洋への鉄供給量を増加させると大気中の二酸化炭素濃度を減少させる生物ポンプ(大気中から取り込まれた二酸化炭素が、海洋植物プランクトンの光合成から始まる食物連鎖を通して粒子状物質となり、海洋内へと輸送されるメカニズム)の働きが活発化される。そのことから、二酸化炭素濃度変動と連動した気候変動を制御していた一因として、ダスト(乾燥した土壌粒子が、強風により地面から上空へと巻き上げられた粒子状物質)による南大洋への鉄供給量変動がある」というものです。しかし、この仮説にはいくつかの疑問点が残ります。例えば、海洋生態系にとって砂漠の砂は栄養になるのだろうか?陸から海へと運ばれるミネラルは、大気中の化学反応によって栄養塩に変化するのだろうか?あるいは、そのような鉄は、砂漠起源ではなく別に発生源があるのだろうか?この仮説に関して、最新の大気化学の数値モデル研究から導かれた答えが本講演の中心となります。
生態系からみる気候変動
羽島 知洋
海洋研究開発機構
特任研究員
地球環境に関わる様々な要素を盛り込んだ気候モデルの開発は、気候変動リスク情報創生プログラムにおける大きな研究課題の一つです。例えば植物の活動もそれに含まれます。植物を含む生態系は、我々が暮らす地域規模から全球規模まで、様々なプロセスを経て気候から影響を受け、そして逆に影響を与えています。このような様々な要素を盛り込んだ気候モデルのことを、近年では「地球システムモデル」などと呼び、温暖化予測に活用しています。この地球システムモデルは、特に数十年〜数百年後の地球の有り様を描く際に欠かせないものとなっています。本講演では、我々が身近に感じることも多い植物やそれを取り巻く生態系が、今後進行するであろう温暖化とどのように関わるのかについて、最新の地球システムモデルを用いた研究成果を交えながら紹介します。
洪水や浸水・氾濫を予測する技術と温暖化による影響評価
立川 康人
京都大学大学院 工学研究科
教授
地球温暖化によって雨の降り方が変化すると、洪水の発生の仕方も変化する可能性があります。水害にあわないようにするために、河川を改修するときは、例えば平均的に100年に一回の割合で発生する洪水の大きさを予測し、その大きさの洪水が発生しても被害が出ないことを目標として治水事業が進められます。温暖化に伴いこの洪水の大きさが変化する可能性があります。この変化を予測することが、将来に向けて河川を整備していく上で重要な課題となります。温暖化によって台風が強大化することも指摘されており、最大級の台風による洪水や浸水・氾濫を予測することも重要な課題です。最大級の浸水・氾濫の予測は、避難経路の確保や水害にあいにくい住まい方など、水害に強い町・地域を形成していくための基礎的な情報を与えます。本講演では、これらの予測を実現する最新技術と、洪水の発生の仕方が将来どのように変化する可能性があるかについて紹介します。
気候変動に灌漑や農業はどの程度耐えられるか
増本 隆夫
農研機構 農村工学研究所
資源循環工学研究領域 領域長
現在、政府は気候変動に関する適応策検討のための計画作成を急いでいますが、対象が「農業」、「水環境・水資源」、「自然災害」等に分類され、それぞれ独立する各分野で検討しようとしています。しかし、灌漑や農業に対する気候変動の影響やそれらへの適応策を考える上では、農業と水資源や、農業と自然災害など、両者に跨がる部分についての検討が重要です。しかしながら、農地は中山間地から低平地まで広がり、人為的な管理が行われる農業水利用はそのモデル化が必ずしも簡単ではありません。一方で、極端現象(豪雨、渇水)の発生の懸念や農業生産に利用可能な水資源量も年による変動が大きくなると予測されています。全世界では、低平農地における大氾濫が長期間継続する例も毎年のように見うけられます。そこで本講演では、将来の気候変動に対して、灌漑や農業がどの程度まで耐えうるか、あるいはそれらの将来のあるべき姿はどのようなものかなどについて、これまで明らかになった事実を交えながら紹介します。