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プレスリリース

2016年 11月 16日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

マントルと地球中心核の熱対流運動が相互作用し合う様子を
「マントル・コア統合数値シミュレーションモデル」により再現
―地球がゆっくりと冷えるメカニズムを解明―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地球深部ダイナミクス研究分野の吉田晶樹主任研究員らは、実際の地球のマントルと外核を想定し、球殻の外側の層と内側の層の間で粘性率が何桁も大きく異なる二層熱対流システムの高解像度二次元数値シミュレーションを実施することで、激しい熱対流運動が起こっているマントルとコア(地球中心核)の相互作用のダイナミクスに関する基本物理を世界で初めて解明しました。

私たちが住む地球の約46億年の内部変動はマントルと外核の対流運動の相互作用によって担われ、地球内部の最も外側を覆う粘性率が極めて大きなマントルの対流運動が主体的に外核の対流運動を支配していると一般的に考えられてきました。しかしこれまで、この考えを定量的に実証した研究はなく、その物理メカニズムもよく分かっていませんでした。

本研究のシミュレーションによって、マントルと外核の熱対流運動が相互作用し合う様子を再現することに成功しました。これにより、粘性率が桁で大きく異なる実際の地球のマントルと外核の境界(コア・マントル境界)において、熱的な交換が主として行われる「熱カップリング」という効果と、高粘性のマントルの対流がコア・マントル境界直下の外核最上部の流れを遅くする効果が働いていることがわかりました。この両方の効果がある場合、外核の対流が非常に活発であるにも関わらず、コア・マントル境界での外核からマントルへの熱流量が抑制され、マントル対流のパターンが時間的、空間的に安定に保たれることになります。また、地球誕生時から地球深部に蓄えられている熱が、地球の歴史を通じて“適度な効率”で宇宙空間に排出され、地球をゆっくりと冷やしている要因になると考えられます。

今後、地球誕生以降、冷却の一途にあるマントルの熱対流運動がプレート運動や大陸移動の歴史に及ぼす影響など、地球内部物理学上の第一級の未解決問題の解決に貢献することが期待されます。

なお、本研究は、JSPS科研費JP26610144(挑戦的萌芽研究)の助成を受けて実施されたものです。本成果は、米国物理学協会発行の「Physics of Fluids」2016年11月号に掲載されました。

タイトル: Numerical studies on the dynamics of two-layer Rayleigh-Bénard convection with an infinite Prandtl number and large viscosity contrasts
著者:吉田晶樹、浜野洋三
所属:JAMSTEC 地球深部ダイナミクス研究分野

2.背景

地球の内部はマントルとコアからなり、コアは外核と内核からなります。マントルは、コアから加熱され、地表面で大気や海水によって冷却されますが、その上下面の温度差によって熱対流運動(いわゆる、マントル対流)が起こっています。私たちが住む地表のプレートは、対流するマントルが地表で冷やされた薄い領域ですが、その形や大きさが地球上でまちまちであることは、マントル対流のパターンが時間的、空間的に規則的ではなく不規則であることを示唆しています。

地球のマントルとコアとの熱対流運動の実態や基本物理を解明しようとするとき、地球全体を一つの熱対流システムと考える必要があります。それは、例えば、地球環境変動や生命進化にも影響を与える地球磁場の変動はコアの熱対流運動と相互作用し、さらに地球の歴史を通じてマントルの活動とも相関があることが知られているからです。

しかしながら、世界では、吉田主任研究員らがJAMSTECで2003年から実施してきたこれまでの研究も含め、マントル対流と外核対流の数値シミュレーションは異なる研究者が独立に実施してきました。その理由は、(1)岩石からなる固体のマントルの粘性率(※1)と流体鉄合金からなる外核の粘性率が約23桁も異なり、それぞれの流れの代表的な速度も約5桁も異なること、(2)この理由によりマントルと外核の熱対流運動をシミュレートする際の計算手法が全く異なること、さらに(3)構成物質の粘性率と流れの時間スケールが桁で大きく異なるマントルと外核を一つに“統合”したシステムでの熱対流運動をシミュレートするためのモデリング手法のアイデアが存在しなかったためです。

地球46億年の内部変動はマントルと外核の対流運動によって担われ、地球内部の最も外側を覆う粘性率が極めて大きなマントルの対流運動が主体的に外核の対流運動を支配していると一般的に考えられてきました。しかしこれまで、この考えを定量的に実証した研究はなく、その物理メカニズムもよく分かっていませんでした。一般的に、異なる密度を持つ二層の流体があり、それらの粘性率が同じ、あるいはその比の絶対値が小さい熱対流システムのカップリングモード(結合形態)は、二層の界面で力学的な交換が主として行われる「力学カップリング」(あるいは、「粘性カップリング」)(図1a)と呼ばれるモードであることが理論解析や室内実験からすでに分かっています。一方、実際の地球の外核とマントルのように粘性率比が桁で大きく異なる二層間の対流システムでは、二層の界面で熱的な交換が主として行われる「熱カップリング」(図1c)によって地球内部の熱が効率的に宇宙空間に排出されているものと予想されていました。

3.成果

本研究でのシミュレーションモデルは二次元球殻領域とし、その外側を厚さ2891 kmの高粘性層、内側を厚さ2258.5 kmの低粘性層(それぞれ、実際の地球のマントルと外核に相当)の二層モデルとしました。本モデルの熱対流運動を支配する基礎方程式の解法は、これまでのマントル対流のシミュレーションで用いられてきた計算手法が基軸となっています。本モデルでは、マントルと外核の二層間の熱対流システムを実現するため、運動量保存式(※2)の中の温度変化による浮力の働きに関係する項に、マントルと外核が接する界面(実際の地球のコア・マントル境界[CMB]に相当するので、以下CMBという)でピーク値になるような「有効熱膨張係数」(※3)を導入しました。これによって、界面となる固定した深さ(2891 km)に人為的な境界条件を一切設けることなく、計算領域全体で熱的にも力学的にも連続した対流システムを実現することができました。

マントルの上面は大気や海水で一様に冷却され、外核の下面は内核から一様に加熱されていると仮定し、それぞれ固定温度を与えました。マントルと外核の密度差は実際の地球での密度差を、マントルの基準粘性率とそれに基づくレイリー数(※4)は実際の地球のマントルの値を固定して与え、外核とマントルとの粘性率比をモデルパラメーターとして扱いました。本研究では、東京大学地震研究所地震火山情報センターが所有するスーパーコンピュータ「EIC計算機システム」を使用し、外核とマントルとの粘性率比の絶対値を1(つまり粘性率の違いがない)から1桁ずつ上げていき、現在のスーパーコンピュータの限界を考慮して最大103まで計算しました(図2)。その結果、外核とマントルとの粘性率比の絶対値を大きくするにつれて、その値が103という実際の地球の値よりも相当に小さい場合においても、力学カップリングから熱カップリングに遷移する傾向が見られました(図1b)。また、外核とマントルとの粘性率比の絶対値が桁で増加するにつれて、外核の流れの平均速度は増加しますが、マントルの流れの平均速度とその対流運動による熱輸送効率の指標となるヌッセルト数(※5)は一定値に徐々に近付いていくことが分かりました(図3)。このことは、CMBの熱流量(コア側からマントル側に流入する全熱量)が制限されていることを意味しています。この原因は、外核とマントルとの粘性率比の絶対値が桁で増加しても、CMB直下の外核側の熱境界層(※6)がCMB直上のマントル側の高粘性の熱境界層に引きずられ、その厚さが理論上考えられる厚さよりも厚くなる一方で、CMB直上のマントル側の熱境界層の厚さがほとんど変化しないためです(図4)。この現象は粘性率が桁で異なる二層間の対流システムに特徴的な現象と言えます。

本研究の結果は、実際の地球では熱カップリングの効果(図1c)と高粘性のマントルの対流がCMB直下の外核最上部の流れを遅くする効果(図4)によって、低粘性のコアの対流が非常に活発であるにも関わらず、CMBでの外核からマントルへの熱流量が抑制され、マントル対流のパターンを時空間的に安定に保つ役割を果たしていることを定量的に実証したことを意味します(図5)。この両方の効果がある場合、地球誕生時から地球深部に蓄えられている熱が、地球の歴史を通じて“適度な効率”で宇宙空間に排出され、地球をゆっくりと(岩石学的な推定などから10億年で約50~80°C)冷やしていることになります。

マントル対流のパターンが時空間的に安定であることは、マントル対流の低温の熱境界層であるプレートの形や大きさが地球上でまちまちで不規則であるにも関わらず、数千万年かそれよりも長い時間スケールで地表に留まり、それが古地磁気学的・地質学的証拠による過去数億年間のプレート運動の復元や、数値シミュレーションによる現在や未来の大陸移動の再現・予測(2015年2月12日既報2016年8月4日既報)を可能にしているものと考えられます。

4.今後の展望

本研究では、マントル対流の数値シミュレーションに基軸を置いたモデリング手法により、「2.背景」に挙げた(1)から(3)の難問題を克服したシミュレーションを実施しました。これにより、実際の地球のマントル・コアカップリングのシミュレーションとそのダイナミクスのさらなる追究への新しい道が切り開かれたことになります。

今後の展望の一つとして、「全地球熱対流シミュレーション」への芽生え期研究としての意義が挙げられます。本研究で用いられたシミュレーション手法は、将来、大型計算機の計算速度が増大すれば、外核とマントルとの粘性率比の絶対値をさらに大きくしても計算可能であることが原理的、かつ実際的に証明され、すでに論文発表を行っています。将来的には、実際の地球の外核にできるだけ近付けた物理条件下で、外核のダイナモ作用(地球磁場の生成・維持メカニズム)や内核の成長なども考慮して地球を“丸ごと”シミュレートし、地球誕生以降、冷却の一途にあるマントルの熱対流運動がプレート運動や大陸移動の歴史に及ぼす影響など、地球内部物理学上の第一級の未解決問題の解決に貢献することが大いに期待されます。

※1 粘性率:物質の固さ(変形のしにくさ)の指標となる量。単位はパスカル・秒(Pa s)。岩石からなるマントルの標準的な粘性率は約1021 Pa sで、流体鉄合金からなる外核の標準的な粘性率は約10-2 Pa s。この粘性率の違いにより、それぞれの流れの代表的な速度も約5桁異なる(マントルと外核の代表的な流れの速度をそれぞれ10 cm/yrと106 cm/yrとした場合)。

※2 運動量保存式:熱対流運動を支配する基礎方程式の一つで、計算領域内の任意の微小領域での力の釣り合いを保証する式。

※3 有効熱膨張係数:エネルギーの保存が保証されている流体層内で、負の浮力を持つ下降流に対して、ある深さで正の浮力を与えて対流運動を阻害させるように(上昇流に対しては逆)、物質の温度変化による膨張率(熱膨張係数)をその深さで極端なピーク値になるように与える。

※4 レイリー数:熱対流運動の不安定さ(活発さ)の指標となる次元を持たない量で、熱浮力と粘性抵抗力の比で定義される。流体の他の物性値が同じ場合、粘性率が小さな流体ほどレイリー数は大きくなる。

※5 ヌッセルト数:対流運動による熱輸送効率(地表面での熱の逃げやすさ)の指標となる次元を持たない量。熱輸送が熱伝導のみで行われる場合はヌッセルト数が1であり、これに熱対流運動が加わると1より大きな値になる。

※6 熱境界層:下面から加熱され、上面から冷却される容器内で熱対流する流体層の上下の境界面付近に形成される、温度が急激に変化する薄い層。

図1

図1. 二層対流のカップリングモード(結合形態)の違いを表す模式図。矢印は流れの方向。青色と赤色の楕円はそれぞれ、二層が接する界面近傍が低温(下降域)と高温(上昇域)であることを示す。図の簡略化のため、二層間での流れの水平スケールの大きさは同じにしている。力学カップリングは粘性カップリングともいう。

図2

図2. 外核(球殻内側の低粘性層)とマントル(球殻外側の高粘性層)との粘性率比が(a)10-1の場合と(b)10-3の場合での各層の対流パターンのスナップショット。それぞれの図の右のパネルは外核だけを拡大した図。矢印は流れの向きと大きさ、カラーコンターは温度を表し、青色が低温、赤色が高温を示す。

図3

図3. 外核とマントルとの粘性率比の違いによる各層の(a)有効レイリー数(シミュレーション結果から後験的に見積もられるレイリー数)と(b)ヌッセルト数の時間平均値。(b)の黒色と赤色の矢印はそれぞれ、粘性率比の絶対値が増加するにつれて、外核のヌッセルト数が増加していることと、マントルのヌッセルト数が一定値に近付くことを示す。

図4

図4. 熱カップリングが働く二層流体の流れの模式図。太い矢印は低粘性のために流れが速く、細い矢印は高粘性のために流れが遅いことを示す。上層の粘性率が大きい場合、二層の界面直下の熱境界層は上層の流体の流れに引きずられて厚くなる。図の簡略化のため、二層間での流れの水平スケールの大きさは同じにしている。

図5

図5. 本研究のシミュレーションに基づく、外核とマントルとの粘性率の絶対値が小さい場合と大きい場合におけるそれぞれの対流運動の模式図。青色は低温、赤色は高温を表す。Nuはヌッセルト数を表す。

マントル・コア統合熱対流シミュレーション

外核(球殻内側の低粘性層)とマントル(球殻外側の高粘性層)の粘性率比が10-3の場合。左はマントルと外核、右は外核だけを拡大したもの。矢印は流れの向きと大きさ、カラーコンターは温度を表し、青色が低温、赤色が高温を示す(Yoshida and Hamano, 2016, Phys. Fluids)。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球深部ダイナミクス研究分野 主任研究員 吉田晶樹
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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