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プレスリリース

2016年 12月 16日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

タヒチ島周辺で地球深部から上昇するマントルプルームを発見
―マントルダイナミクスの解明に貢献―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地球深部ダイナミクス研究分野の多田訓子技術研究員らは、フランスの西ブルターニュ大学、東京大学地震研究所と共同で、南太平洋のタヒチ島周辺で海底地磁気地電流法(海底magnetotelluric(MT)法)(※1)による電気伝導度構造の探査を行いました。その結果、タヒチ島から東に約200㎞の海底下に電気伝導度の非常に高い領域(高電気伝導度異常領域)を発見しました。タヒチ島を含むソサエティー諸島はホットスポット火山であることがこれまでの研究で分かっていますが、この高電気伝導度異常領域は、ホットスポット火山の形成に関係しているマントルプルームの存在を示していると考えられます。マントルプルームをターゲットとした電気伝導度構造探査はこれまでにも行われていましたが、海底下のマントルプルームの三次元構造を解明し、視覚化したのは世界で初めてです。

地球全体のマントル対流のメカニズムを理解するためには、地表から地球深部へと下降するプレートの沈み込みと共に、地球深部から地表へと上昇するマントルプルームの性質を理解することが不可欠ですが、マントルプルームが上昇するために必要な浮力を生み出す要因については、よく分かっていませんでした。今回、地球内部の電気伝導度に着目した研究により、マントルプルームの温度に関わらず、周囲のマントルに比べてマントルプルーム中には大量の水や二酸化炭素を含むことが明らかになったため、マントルプルームの上昇には物質の違いによる浮力も影響していることが分かりました。

この成果は、マントルプルームの形状や上昇のメカニズムを明らかにすると同時に、地球上のマントル全体の水や二酸化炭素量の量を明らかにする上でも非常に重要な研究成果であるといえます。これらが明らかになることによって、マントルダイナミクスの理解が深まることが期待されます。

本研究は、JSPS科研費JP19253004、JP23740346、JP15H03720の助成を受けて実施されたものです。

なお、本成果は、米国地球物理学連合の科学誌「Geophysical Research Letters」43巻23号に12月16日付けで掲載されるのに先立ち、12月3日付電子版に掲載されました。

タイトル:Electromagnetic evidence for volatile-rich upwelling beneath the Society hotspot, French Polynesia
著者:多田 訓子1、Pascal Tarits2、馬場 聖至3、歌田 久司3、笠谷 貴史4、末次 大輔1
1.JAMSTEC地球深部ダイナミクス研究分野、2.西ブルターニュ大学、3.東京大学地震研究所、4.JAMSTEC地震津波海域観測研究開発センター

2.背景

南太平洋の下部マントルには、広範囲な低速度異常領域が存在することがこれまでの研究から明らかになっており、この低速度異常はコア‐マントル境界から上昇しているスーパープルームだと考えられています。このスーパープルームが地表まで到達することによって、ハワイ島やタヒチ島などのホットスポット火山が形成されました。タヒチ島周辺には多くのホットスポット火山(ソサエティー諸島)が分布していますが、これまでの研究から、ソサエティー・ホットスポットを形成しているマントルプルームがスーパープルームから伸びてきていることが明らかになりました(図1)。そのため、ソサエティー・ホットスポットを形成しているマントルプルームを詳しく研究することは、マントル深部の情報を得るためにも重要になります。また、マントルプルームは、マントル対流を理解する上では、下部マントルから地表まで続く上昇流としての役割もあります。

しかしながら、マントルプルームが上昇するために必要な浮力を生み出す要因については、これまで良く分かっていませんでした。①マントルプルームが周囲のマントルに比べて温度が高いために浮力が生じているのか、②マントルプルームを構成する物質が周囲のマントルに比べて軽いために浮力が生じているのか、もしくは、①と②の両方の要因が組み合わさっているのかわかっていませんでした。

この問題を解決してマントルプルームの物性を解き明かすことは、全地球マントルのダイナミクスを理解するためにも地球科学の第一級の課題です。

3.成果

これらの問題を解明するには、マントルの温度やマントル中に含まれるマグマや水、二酸化炭素の量に感度が高い地球物理探査が必須となります。これまで一般的に実施されている地震波トモグラフィーでは、マントルの温度にしか感度が高くなかったため、温度、マグマ、水や二酸化炭素に感度が高いことがこれまでの研究から明らかになっている電気伝導度に着目し、地球内部の電気伝導度に着目したMT法を用いた地球物理探査を行いました。

その結果、タヒチ島周辺の海洋上部マントルの電気伝導度分布を三次元で求めることに成功しました。2009年2月に実施されたJAMSTECの海洋地球研究船「みらい」のMR08-06研究航海中にタヒチ島の東側で海底電位磁力計を9台設置、2010年11月から12月にかけて、タヒチ島の漁船を使って海底電位磁力計を回収することで、約1年10か月にわたる連続した海底電磁場データを得ることが出来ました。また、同時期同海域に、西ブルターニュ大学のTarits教授らによって、2台の海底電位磁力計の設置・回収も行われました。これら11台分の海底電磁場データと、1990年代にタヒチ島周辺で取られた9か所の海底電磁場データとを合わせて、計20点の観測データが得られました(図2)。これらの電磁場データをMT法に基づいて三次元逆解析することによって、世界で初めて海底下のプルームを三次元で可視化することに成功しました(図3)。

また、これまでの高温・高圧の岩石実験から得られている結果と、研究グループが求めた上部マントルの電気伝導度の値とを比較することによって、マントルプルームと周辺の上部マントルの物性に違いがあることも明らかになりました(図4)。まず、マントルプルームはマントルが溶けた状態(マグマ)であることが確認されました。さらに、周辺の上部マントルに比べて、マントルプルーム中には大量の水と二酸化炭素が存在していることが分かりました(図4)。この大量の水と二酸化炭素の存在は、マントルプルームの温度条件には関わらないことも明らかになったため、マントルプルームの上昇には物質の違いによる浮力も影響していることが分かりました。これらの結果を踏まえて、本研究で提案するソサエティー諸島の地下のモデルが図5です。二酸化炭素はマグマとして地表に噴出する際に空気中に素早く抜けてしまうため、地表で採取することが出来る岩石の研究から噴出前のマントルプルーム中の二酸化炭素量を見積もることは困難です。マントルプルーム中の二酸化炭素量を知ることは、地球内部から空気中に放出される可能性がある二酸化炭素量を推定するためにも不可欠であり、長期的な地球の気候変動を予測する上でも重要です。本研究によって、マントルプルームによって地球深部から運ばれる二酸化炭素の量を定量的に見積もれる可能性も出てきました。

4.今後の展望

今後は、電気伝導度と地震波トモグラフィーの結果と組合せることによって、マントルプルームの温度の制約にも挑戦する予定です。それによって、マントルプルームによって上昇するマグマや水、二酸化炭素の量をより正確に見積もることが可能になると期待しています。そのことによって、マントル対流やプレート運動の計算に必要な入力値の範囲を制約することができ、より正確な過去や未来の地球の姿を知る手助けになればと思っています。

また、今回用いた海底MT法を小笠原諸島の西之島に適用することで、西之島の内部に存在すると考えられるマグマ溜りの規模や位置を推定することができると考えられます。そこで、2016年10月から海底電位磁力計4台とベクトル津波計1台を西之島周辺の海底に設置し、電磁場観測を実施しています。これらの観測機器は、来年度中に回収する予定で、取得したデータを解析することで、西之島の成因や今後もマグマ活動をする可能性があるか、解明が進むと期待されます。

※1地磁気地電流法(Magnetotelluric(MT)法):地表や海底で観測した地球磁場と電場を使って地下構造を推定する物理探査手法の一つ。

図1

図1 これまでの研究によって、ソサエティー諸島を形成しているマントルプルームが下部マントルに存在するスーパープルームから上昇していることが分かった。Suetsugu and Hanyu (2013)の図14を一部改変。

図2

図2 観測点の位置。赤色プラス印は研究グループが2009年から2010年にかけてデータを取得した地点、黄色プラス印は1990年代にデータを取得した地点を示す。赤い四角で囲った範囲は、図3で示す範囲を示している。

図3

図3 ソサエティー・ホットスポットの下に発見された高電気伝導度異常領域。マントルプルームを三次元で視覚化したもの。オレンジ色の面は電気伝導度が0.3S/mの等値面を示す。

図4

図4 本研究で求めたマグマや水、二酸化炭素の量。(a)実線は本研究で仮定したマントルの温度構造を示す。破線は、マントルプルームが周囲のマントルよりも200度高温だと仮定した場合の温度構造を示す。(b)-(f)赤色で塗りつぶした範囲は、温度分布が実線の場合にマントルプルーム中に対して求められたそれぞれの値の範囲を、青で塗りつぶした部分は、周囲のマントルに対して求められたそれぞれの値の範囲を示す。赤枠で示した範囲は、温度分布が破線の場合にマントルプルーム中に対して求められたそれぞれの値の範囲を示す。(b)水の総量の範囲。(c)二酸化炭素の総量の範囲。(d)マグマの量の範囲。(e)マグマ中に存在する水の量の範囲。(f)マグマ中に存在する二酸化炭素の量の範囲。

図5

図5 本研究で提案するモデル。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球深部ダイナミクス研究分野
技術研究員 多田 訓子
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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