JAMSTEC 2011年 10大トピックス

合成開口ソーナーで熱水の撮影に成功

高精度な動揺補正処理機能をもつ合成開口ソーナーを用いた音響調査を鹿児島湾若尊カルデラで行い、熱水噴出に伴うフィラメント状の反射を確認するなど、海底の音響画像をこれまでにない精度で取得し、海底熱水噴出域や生物群集の分布を明らかにすることに成功しました。(地球内部ダイナミクス領域/海洋工学センター)

温暖化の影響を最小限にとどめるには二酸化炭素の排出量をゼロ以下に

温暖化の影響を安全な水準にとどめるためには、産業革命以降の世界の平均気温上昇を2℃以内に抑えることが重要という欧州連合等の主張があります。そのための二酸化炭素の排出量について新地球システム統合モデルを用いて計算したところ、化石燃料起源による二酸化炭素の排出量を今世紀中に「ゼロ以下」にする必要があることがわかりました。(IPCC貢献地球環境予測プロジェクト)

東北地方太平洋沖地震 海溝軸まで達した海底変動

深海調査研究船「かいれい」による海底地形調査にて、プレート境界に沿った断層破壊が日本海溝の海溝軸まで達し、海底を隆起させたことを明らかにしました。海溝軸付近が最も地震変動が大きく、東北日本側の北米プレートが東南東方向に約50m移動し、約10m隆起したことも示唆されました。(地球内部ダイナミクス領域/地震津波・防災研究プロジェクト)

東北地方太平洋沖地震 震源海域で深海生態系の変動を確認

有人潜水調査船「しんかい6500」にて、震源海域である日本海溝陸側において潜航調査を実施した結果、水深約3,200mから5,350mにおいて海底からのメタンの湧きだしや多数の亀裂を発見し,そこにはバクテリアが多量に繁殖してできるバクテリアマットがみられました。このような変動は地震前の調査では見られなかったことから、2011年3月11日以降の地震の影響で生じたと考えられます。(海洋・極限環境生物圏領域)

北極低気圧の発生の観測に成功

海洋地球研究船「みらい」により、氷縁域で発生・発達する低気圧(北極低気圧)の観測に世界で初めて成功しました。発生場所は、海氷減少域を北上する暖気が海氷上の冷たい空気と接して前線が強化されるところで、温帯低気圧の発生機構と似ています。低気圧に伴う寒気の吹き出しが、北極海での海洋と大気の熱交換に重要な役割を果たしています。(地球環境変動領域)

地震・津波観測監視システム(DONET)本格運用スタート

2011年7月に紀伊半島沖熊野灘の20観測点すべての設置が完了し、2011年8月より地震計データの提供を本格的に開始しました。巨大地震に備えた海底ネットワーク観測システムで、東南海地震の震源域近傍で発生する地震を陸上の観測点よりも最大で十数秒早く検知します。水圧計の観測データについても調整を進めており、津波解析の高度化も期待されます。(地震津波・防災研究プロジェクト)

生命の誕生と地震ガス

地震の断層運動を実験室で再現し、断層面から発生する水素ガスの量と地震のマグニチュードとの間に強い相関があることを見つけました。水素ガスをエネルギー源とする化学合成生態系の生育に十分な環境が地震活動によって形成されうることから、海嶺や沈み込み帯の断層帯に、地下・海底下生物圏が存在する可能性を示しています。(高知コア研究所/プレカンブリアンエコシステムラボユニット/地球内部ダイナミクス領域)

海底下の46万年前の地層に生きている微生物

地球深部探査船「ちきゅう」にて下北半島八戸沖の海底下219mの地層から採取した試料に、様々な栄養源を与え、超高空間分解能二次イオン質量分析計(NanoSIMS)などを用いてその取り込みを細胞ごとに調べました。その結果、8割程度の海底下微生物細胞が栄養源を取り込んでいることがわかり、多くの微生物が生きている証拠を得ることができました。(高知コア研究所)

海底資源研究プロジェクト 設置

2011年4月に、リーディングプロジェクト「海底資源研究プロジェクト」を新設しました。巨大な鉱物資源として有望視されている海底熱水鉱床やコバルトリッチ鉄マンガンクラストの成因解明や探査技術の開発、クリーンなエネルギーとして期待される海底下のメタン生成システムの解明、無人探査機を用いた調査などを進めていきます。(海底資源研究プロジェクト)

神戸サテライト 開設

2011年11月1日に、「JAMSTEC神戸サテライト」を開設しました。理化学研究所(神戸)の京速コンピュータ「京(けい)」が一部稼働開始したのに際し、文部科学省のHPCI戦略プログラムにおける分野3「防災・減災に資する地球変動予測」の研究推進拠点として、また、分野 3全体の研究のサポートや連携を推進する役割を担います。(地球シミュレータセンター/神戸サテライト)

掲載書誌: JAMSTECニュース 「なつしま」 2012年1月号(No.311)(PDF 717KB)