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トピックス:コラム

【アルゴ2020】アルゴフロートで世界の海を測って20年

2021年 2月 5日
地球環境部門 海洋観測研究センター
全球海洋環境研究グループ

海洋は地球表面の7割を占め、その熱容量は大気のおよそ1000倍もあるため、海全体が0.01度上昇する熱量は大気全体を10度上昇させることになります。その意味から水温の少しの変化をモニタリングすることが、地球の熱バランスの現状を把握するためにとても重要になります。また、温まりにくく冷めにくい水の特性も相まって、海洋は数年から数十年という長期の気候変動の担い手になっています。日本の気候に影響を及ぼすエルニーニョ現象もその一例といえます。

このような特性を持つ海洋ですが、その全体像はまだまだ知られておりません。地球温暖化をはじめとする様々な気候変動の現状を把握し、その仕組みを解明して予測に繋げるためには、地球規模で海洋表層から深層までに及ぶ観測を行う必要があります。しかし、 これまでの船舶、係留ブイ、人工衛星などの海洋観測システムだけでは、時間、空間的に十分カバーできませんでした。

2000年から本格的に始まった「アルゴ計画」によって新たに地球規模の海洋観測網が整備され、海洋全体の変化が少しずつわかるようになってきました。このような活動を通してこれまで難しかった季節〜10年スケールの気候変動の仕組みの理解や、その予測の精度向上が次第に実現されてきています。

「アルゴ計画」では、海面から水深2000mまでの水温、塩分、圧力を10日間隔に自動で4年間(長いときは7年間)計測できるロボット「アルゴフロート」(以下フロート)を各国協力の下で全世界の海に常時3000台以上稼働させ、常に海洋内部をモニタリングしています。JAMSTECはこの「アルゴ計画」の開始当初から主要メンバーとしてリードしており、およそ20年が経過しました。

図2

フロートの観測サイクル

必要不可欠な観測プラットフォームに成長

JAMSTECでは2000年からこれまで1350台のフロート投入を船から行い、およそ16万プロファイルものデータを取得しています(2021年2月現在)。2014年7月から8月に行われた「みらい」による世界海洋循環実験計画(WOCE: World Ocean Circulation Experiment)の太平洋横断測線(P1)の全測点が150測点であることを考えると、フロートによるデータ量の多さは目を見張るものがあります。既に、現在海洋学でアルゴフロートは欠くことのできない基盤観測網の一つに成長したことは確かです。ただ、フロート観測だけでは、データの精度検証などが不十分であり、より高精度な船舶観測とフロート観測による面的なモニタリングは表裏一体であるといえます。同様に、トライトンブイなどの長期係留型のブイによる定点観測、水中グライダーによる機動的観測など多様な観測プラットフォームから得られる各種観測データを活用、蓄積し、それぞれの長所を生かして地球規模で効率的に海洋観測を進めていくことが今後の地球変動研究には重要です。

アルゴフロートの投入点(黄色:ボランティア船、青色:JAMSTEC船舶)

図1

ボランティア船に支えられたJAMSTECのフロート投入

JAMSTEC所有の船だけでは広範囲にわたるフロートの投入は難しく、世界の海をくまなくフロートでモニタリングするために、官公庁、国内外の研究機関、教育機関、民間が所有している船にボランティアでご協力いただいております。フロート投入を始めた頃は投入方法や操作方法の熟練が必要なため、JAMSTEC所有の船での展開が大半を占めていましたが、今ではJAMSTEC以外の船舶でのフロート投入が累計でおよそ60%を超えています。皆様のご協力がJAMSTECによるフロート投入を支えていただいていることが数字でも明らかです。そこで、2020年より、ご協力いただいている機関に感謝の意を表して、感謝状をお贈りさせていただくことにいたしました。今後も皆様とともに、フロート投入を通してさらなる観測網の充実を進めてまいります。

全球観測を通じた海洋科学の発展に向けて

多くのフロートより取得されたデータの蓄積は、海洋上部の貯熱量や海面水位の実態把握、海水の低塩化をはじめ、海洋の変動の実態把握に大きく貢献しています。また、私たちの生活に身近なところでは季節予報、海洋の状況の監視・予測に利用されています。これからもフロート観測をはじめとした国際協力下での全球海洋観測網(GOOS:Global Ocean Observing System)を充実させることによって、新たな知見を生み出していきたいと考えています。これらの成果は「持続可能な開発目標(SDGs)」13および14へ直接的に貢献し、また、「国連海洋科学の10年」の推進力となります。

図2

白鳳丸KH-08-3航海より