K2点/S1点観測データサイト

放射能、POC、PONデータ

K2、S1点におけるCTD観測時のニスキンボトルによる採水及び現場濾過観測から得られた放射能データ(210Po, 210Pb)、POC、PONデータを掲載しています。

利用できる航海IDと観測期間

MR12-02 (Leg1:2012年6月4日~2012年6月24日/Leg2:2012年6月24日~2012年7月12日)
MR11-05 (Leg1:2011年6月27日~2011年7月16日/Leg2:2011年7月16日~2011年8月4日)
MR11-03(2011年4月14日~2011年5月5日)
MR11-02(2011年2月11日~2011年3月9日)
MR10-06(2010年10月18日~2010年11月16日)
MR08-05 (2008年10月11日〜2008年11月7日)

上記の航海IDで取得したK2、S1におけるデータを1つのexcelファイルでまとめてあります。

データに関して

はじめに

  大気中の二酸化炭素などの温室効果ガス濃度の上昇によって起きている地球温暖化現象が、世界的な懸案事項となっている。また、ここ十数年、大気−海洋間の二酸化炭素のバランスを明らかにするため、海洋における炭素循環に関する研究が盛んに行われて来ている。海洋は、二酸化炭素の吸収源としての働きをしており、特に、溶け込んだ二酸化炭素が海洋表層付近に存在する植物プランクトンの光合成の働きによって有機炭素粒子(POC)に固定され、それが深海へ沈降する、いわゆる「生物ポンプ」と呼ばれる過程が重要である。海洋表層(約100 m)からのPOC沈降量は、天然放射性核種238Uと234Thをトレーサーとして用いて見積もるのが代表的な測定方法である(例えばBuesseler, 1998)。また、深層(1000 m以深)におけるPOC沈降量の測定は、セジメントトラップを用いるのが一般的である(例えばHonda et al., 2002)。これらの方法によるPOC沈降量の見積りが多くの海域で実施され、全海洋における生物ポンプ能力の評価が行えるようになった。
  一方、表層を通過したPOCは、1000 mに達するまでにバクテリアによる分解作用等により、沈降量が深度増加に対して累乗関数的に減少すると言われている(例えばMartin et al., 1987)。よって、この中層(100–1000 m)におけるPOC沈降量の減少率を定量的に把握しなければ、海洋全体としての炭素循環を解明したことにならない。しかしながら234Thは、100 m以深で238Uと放射平衡に達しているため、234Thを用いる方法では、中層のPOC沈降量を測定することは困難である。また、セジメントトラップを用いる方法でも、設置の困難さから中層での観測は、ほとんど行われていない。
  210Poと210Pbの組合せは、238Uと234Thの組合せと同様に、粒子の沈降量を測定する上で有効なトレーサーである(例えばShimmield et al., 1995; Stewart et al., 2010)。海水中に天然に存在する210Po(半減期138日)は、親核種である210Pb(半減期22.3年)の放射壊変によって生まれる。そして、両者の半減期に大きな差があることから、理論上、放射平衡が成り立つ。210Poの吸着性が210Pbよりも大きいことにより、210Poの210Pbに対する減り分(非平衡分)から粒子の沈降量を見積もることが出来る。また210Poは、234Thと異なり中層(100–1000 m)においても210Pbに対して非平衡に存在するため、中層におけるPOC沈降量を見積もる上で、非常に有効な手段である(Kawakami et al., 2009)。
  これまで我々は、生物ポンプ能力が高いと言われていた北太平洋西部亜寒帯循環域において、234Thを用いて表層でのPOC沈降量を見積もって来た(例えばKawakami & Honda, 2007)。これらの結果から、同海域では、POC沈降量が大きな季節変動を示し、また、生成されたPOCが効率良く表層から中深層へ輸送されていることが明らかとなった。そこで本研究では、北太平洋の亜寒帯域と亜熱帯域において時系列的に観測を行い、表層10 mから1000 mまでの16層において210Po, 210Pb及びPOCの測定を行った。これらのデータから、本研究海域における表層から中層までの生物ポンプ能力の季節変動を捉えることが可能となる。

観測及び分析方法

  観測は、独立行政法人海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」を用いて2008年10-11月(MR08-05)、2010年10−11月(MR10-06)、2011年2−3月(MR11-02)、4−5月(MR11-03)、6–8月(MR11-05)、2012年6–7月(MR12-02)に、観測点K2 (47°N, 160°E)及びS1 (30°N, 145°E)において行った。210Pb及び溶存態210Po測定用試料は、CTDロゼッタ採水システムの12Lニスキン採水器を用いて10–1,000 mの範囲で採水を行った。なお2012年においては、10-4,000 mの範囲で採水を行った。溶存態210Po測定用試料は、採水後直ちに孔径0.8 µmのポリプロピレン製のカートリッジフィルターにてろ過を行った。ろ過海水に塩酸を添加してpH 1に調整した後、塩化第二鉄溶液(100 mgFe)を添加し撹拌した。約半日放置後、アンモニア溶液を添加して鉄の沈殿を作成した。共沈した210Poと鉄を遠心分離にて回収した。また懸濁粒子態試料(粒状態210Po,POC及びPON測定用)は、現場ろ過器(MacLane社製WTS-6-1-142LV04)を用いて10–1,000 mの範囲で採取した。現場ろ過には、予め燃焼処理(450°C,4時間)した孔径0.7 µmのグラスファイバーフィルターを用いた。
  フィルター試料は、コルクボーラーを用いて粒状態210Po測定用試料とPOC及びPON測定用試料に分割した。粒状態210Po試料は、フィルターごと混酸(塩酸:硝酸 = 3:1)にて温浸した。海水及びフィルターから分離したPoを約50 mLの1 M HClに溶解し、1–2 gのアスコルビン酸を加えて鉄を還元させた。溶解液を70–90 °Cに加温し、Poを銀ディスクに3時間吸着させた。銀ディスクに吸着された210Poの放射線量をシリコン検出器型のα線測定装置(セイコーEG&G社製 Octéte)にて測定した。
  210Pb測定用試料は、210Poが210Pbとほぼ放射平衡になるまで1年半以上保管し、その平衡になった210Poを上記と同様の方法で測定した。210Pb,溶存態及び粒状態210Poの測定誤差は、それぞれ5%, 4%, 3%である。226Ra濃度は、ケイ酸塩濃度から過去の経験式(226Ra dpm L–1 = 0.0012 x Silicate [μmol kg–1] + 0.084; Ku et al., 1980)を用いて算出した。
  POC及びPON測定用試料は、測定まで冷凍保存した。フィルター試料を、炭酸カルシウムを除去するため塩酸蒸気下で約1日密閉し、その後、50°Cにて3時間乾燥させた。POC及びPONは、元素分析計(Perkin-Elmer model 2400)を用いて測定した。POC及びPON測定における繰り返し精度(1σ)は、約3%である。

データセット

  得られたデータは、エクセルファイル“210Po_data.xlsx”内に納められている。記載データは、水深(depth),ポテンシャル水温(Theta),ポテンシャル密度(Sigma-theta),POC,PON,粒状態210Po (P-210Po),溶存態210Po (D-210Po),全210Pb (T-210Po),226Raである。水深,ポテンシャル水温,ポテンシャル密度は、CTDセンサーの値を用いている。粒状態210Po,溶存態210Po,全210Pbの誤差は、放射線量測定誤差から算出している。

参考文献

  • Buesseler, K.O., 1998. The decoupling of production and particulate export in the surface ocean. Global Biogeochemical Cycles 12, 297–310.
  • Honda, M.C., Imai, K., Nojili, Y., Hoshi, F., Sugawara, T., Kusakabe, M., 2002. The biological pump in the northwestern North Pacific based on fluxes and major components of particulate matter obtained by sediment-trap experiment (1997-2000). Deep-Sea Research II 49, 5595–5625.
  • Kawakami, H., Honda, M. C., 2007. Time-series observation of POC fluxes estimated from 234Th in the northwestern North Pacific. Deep-Sea Research I 54, 1070–1090.
  • Kawakami, H., Yang, Y.-L., Kusakabe, M., 2009. Distributions of 210Po and 210Pb radioactivity in the intermediate layer of the northwestern North Pacific. Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 279, 561–566.
  • Ku, T.L., Huh, C.A., Chen, P.S., 1980. Meridional distribution of 226Ra in the eastern Pacific along GEOSECS cruise tracks. Earth and Planetary Science Letters 49, 293–308.
  • Martin, J.H., Knauer, G.A., Karl, D.M., Broenkow, W.W., 1987. VERTEX: carbon cycling in the northeast Pacific. Deep-Sea Research A 34, 267–285.
  • Shimmield, G.B., Ritchie, G.D., Fileman, T.W., 1995. The impact of marginal ice-zone processes on the distribution of 210Pb, 210Po and 234Th and implications for new production in the Bellingshausen Sea, Antarctica Deep-Sea Research II 42, 1313–1335.
  • Stewart, G.M., Bradley M.S., Lomas, M.W., 2010. Seasonal POC fluxes at BATS estimated from 210Po deficits. Deep-Sea Research I 57, 113–124.