「人・自然・地球共生プロジェクト」課題2第5回連絡会議事録

日時:平成15年1月31日(金) 10:30−12:30
場所:海洋科学技術センター横浜研究所 (横浜市金沢区昭和町 3173-25)
交流棟2階三好記念講堂

議事次第:

1. 開会挨拶

2. 進捗状況

環境変動に伴う植生帯移動の予測に向けて 〜寒冷圏の植物群集〜

(佐藤 永)

地球温暖化は、現在の植生帯分布に大きな変動を与える可能性があるが、実際にそのような変化が生じた場合、固定炭素量の変化、地域の水収支の増減、太陽光反射率への影響を通して、気候条件にフィードバック的な影響を与えると考えられる。従って、数百年〜千年オーダーでの地球環境予測を行うためには、植生帯変動の予測が欠かせない。これまで多くの多くの植生動態モデルが構築されてきたが、それらは既存の植生による定着阻害や種子分散過程を仮定しておらず、植生変化の生じる速度については言及できなかった。

既存植生による定着阻害や種子分散距離を仮定した場合、森林帯間の境界移動は数百年スケールでは生じないと理論的に推定されている。しかし、既存植生による定着阻害の働きにくい環境、例えばツンドラ、ステップ、サバナと森林帯との境界は、短期間に大きな変化が生じる可能性がある。特にタイガ−ツンドラ境界には、木本がまばらに生える移行帯が幅数百kmに渡って存在する為、森林拡大の際の種子供給制限が少なく、従って他のバイオーム境界に比べ速やかな植生変化が生じうる。また、寒帯林は地球の全森林面積の1/3を占めており、この地域の植生変化は全球レベルの気候変動予測の精度に大きな影響を与えうる。そこで植生帯変動予測研究の第一ステップとして、寒帯林の分布変化をモデル化したい。

寒帯林の分布変化を予測する上で鍵となるのが、種子散布と未生の定着の2過程である。このうち種子散布過程では、種子の形態によって散布範囲が大きく規定される。寒帯林を構成する樹種の種子形態を比較すると、カンバやポプラなどの落葉広葉樹の方が、マツやトウヒなどの針葉樹と比べて、より遠くまで種子が拡散されると考えられる。つまり、広葉樹林と接するツンドラ地帯は、針葉樹林と接するツンドラ地帯と比べて、より早く森林化する可能性がある。しかしながら、寒帯林を構成する樹種間で、種子散布距離を直接的に定量・比較した研究は存在しない。そこで、森林火災跡地の植生回復データと、その近傍の森林の樹種構成データから、各樹種の種子散布距離を推定する事を計画している。

寒帯林の定着過程に関しても情報は不足しているが、特に移行帯においては一般的に、齢構成の頻度分布が典型的なL字型カーブとならないことから、実生の定着(または種子生産)は環境条件の整った年にのみ生じていると考えられている。そこで、このような地域レベルでの気象条件と定着の可否との関係について、各地の林分の齢構成と長期気象データとの対応によって推定、モデル化していきたい。但し、僅か1キロメートル程度離れた林分間で齢構成が大きく異なる事例が報告されており、定着の可否には微地理的なヘテロ性も強く影響する。そのようなヘテロ性を生じさせる因子として最も大きな影響を持つのは、地表面のorganic matter(コケなど)の蓄積量である。これら地表面物質は山火事によって取り除かれるため、リッター・地衣類の加入速度と分解速度、及び山火事頻度のサブモデルから、そのような木本の定着確率に地表面状態が与える影響を取り込む事が出来るかもしれない。

寒帯林分布変化のモデル構築は、従来の植生帯動態モデルに幾つかの変更を行う作業となる。主要な変更点は、現在の植生分布から種子が拡散していく過程を含める点である。また、これまでの植生帯動態モデルでは簡略に扱われてきた定着過程を詳細にモデル化する。これらの作業により、従来の植生動態モデルで扱う事の出来なかった植生変化の速度に言及することを試みる。

3. 今後の予定確認

第6回 2月17日(月) 14:00〜16:00
発表者:久芳 奈遠美

第7回 3月13日(木) 14:00〜16:00
発表者:渡辺 真吾

4. 閉会


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