「人・自然・地球共生プロジェクト」課題2第12回研究連絡会議議事録

日時:平成15年8月27日(水) 14:00−18:00
場所:海洋科学技術センター横浜研究所 (横浜市金沢区昭和町 3173-25)
交流棟2階小会議室

議事次第:

1. 開会挨拶

2.進捗状況報告

1)共生課題2:温暖化・大気組成変化相互モデル開発グループ
温暖化−雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価サブグループ進捗状況報告 (久芳 奈遠美)

1. 土壌粒子の雲核としての振る舞いについて

エアロゾル輸送モデルSPRINTARSとGCMから得られるエアロゾル分布をGCMの放射収支計算に反映させる際に、土壌粒子を雲核として扱うかどうかが問題になる。
透過型電子顕微鏡により個々のエアロゾル粒子に含まれる水溶性と非水溶性物質の割合を推定している東京理科大学の新村典子氏から研究成果についての講演をしてもらった。
  • 半径1から2ミクロンの土壌粒子を対象として、粒子採集後、シャドウイングし形態観察・元素組成分析する。水透析しさらにシャドウイングし、形態観察と元素組成分析をする。

  • 昨年秋の黄砂に付着していた水溶性物質の割合を測定

  • 土壌粒子がCCNとして働くことは確か

  • 長距離輸送中、化学的変質(ガス反応により硫酸塩付着)および物理的変質(衝突により海塩粒子付着)すると推定される。

  • 鉱物の半分以上が海塩を付着していた。

  • 海塩の多くが変質海塩(黄砂時には硫酸塩により、非黄砂時は硝酸塩による変質) になっている。

  • 付着している海塩成分はNaCl, Na2SO4, NaNO3

  • 黄砂の土壌粒子に付着している水溶性物質(海塩)の体積割合は半径によらず、10〜90%。

  • 黄砂粒子がCaSO4 を含んでいて凝結核となったものと海塩粒子が凝結核となってそれぞれ雲粒(数ミクロンと数十ミクロン)になって衝突確率が大きくなる。乾燥状態では1ミクロン程度同士では確率が低すぎる。

    これらを踏まえた上での方針:本来の土壌粒子は凝結核としての能力は無視でき、海塩および硫酸塩が付着する事により凝結核として機能するようになると考えると、土壌粒子は凝結核数に含めなくてもいいかもしれない。海塩粒子を核とする雲粒が土壌粒子を核とする雲粒を捕獲してその後乾燥して凝結核となると考える事ができれば、土壌粒子により凝結核としての海塩粒子の総質量、数密度は変わらない。複数の海塩粒子を核とする雲粒が併合して粒径分布が変わる効果は土壌粒子の存在とは関係なく検討されるべき課題である。

    2. NICAMの現状報告

    • 水平格子 5km、鉛直格子 100m。

    • 完全圧縮非静力学方程式系。有限体積法。

    • 修正型正20面体格子。格子は三角形。

    • 水物質のトレーサーと飽和調節過程は実装済み。

    • 力学過程のみのテスト実験(波の伝播実験・温帯低気圧ライフサイクル実験)

    • スペクトル法との計算時間の比較(T1000以上、 すなわち30〜40km以下の解像度の場合、格子法が有利)

    • 物理過程実装の開発戦略:
      全球3.5km格子での試行錯誤は無理なので、一部集中格子の使用(Schmidt 変換によるstretched grid)
      トレーサー移流の実装
      飽和調節の実装(水蒸気から雲粒への相変化のみ)
      stretched grid 上で簡単なテストを行う
      格子平均の上昇流から雲が作れるのは解像度が4kmくらいまでか。
      雲物理パラメタリゼーションをいれてみる

    • 予定 冷たい雨を含めた雲物理バルクで(8,9月)
      積雲パラメタリゼーションの実装(中解像度用)(9・10月)
      乱流モデル、地表面過程の実装(9,10月)
      放射過程の実装(10、11月) Nakajima scheme

    • テスト計算 Squall line 実験(10月〜)warm rain で検討
      水惑星実験(12月〜)
      AMIP実験

    3. CCSR/NIES + SPRINTARSへの雲物理パラメタリゼーションの導入

    • 間接放射強制力の評価には、従来は沼口さんの式からだした有効半径や降水形成率を使っている。
    • 新スキームでは、雲粒数密度の式は Abdul-Razzak et al., 1998により出す。
    • 新スキームにして改善がみられたのか?:はっきりしない
    • 衛星データの信頼性とGCM、SPRINTAERSの入力値が妥当性の問題か? 陸上のエアロゾルを過小評価しているのでは? (オーストラリアと南米の雲粒数密度が過小評価されている:自然起源CCN、土壌粒子のCCN性)
    • 極域が重要だが観測値がないので検討課題

    4. 詳細雲微物理モデルの力学モデルへの搭載

    • 雲物理モデルの分類:粒子法、ビン法(1モーメント・2モーメント)、基底関数展開法、 バルク法(1モーメント・2モーメント)
    • 計算法の分類:Lagrange 法、 Euler 法
    • Euler流格子モデルの力学フレームにLagrange流パーセルモデルを組み込んで雲物理過程を 計算させる方法について。
    • 雲粒の成長に関して、パーセル内でのLagrange流粒子モデルと格子点上のEuler流ビンモデル について。
    • 課題および進行状況
        簡易雲モデルへの1モーメントビン法雲物理モデル装着 :済み 簡易雲モデルへの2モーメントビン法雲物理モデル装着 :進行中 NHMへの2モーメントビン法雲物理モデル装着 :これから NHMへの雲物理パラメタリゼーションの導入 :これから NICAMへの雲物理パラメタリゼーションの導入 :これから NICAMへの基底関数雲物理モデル装着 :進行中
    • 以上の課題からの成果を用いて2モーメントバルクによるGCM用雲物理パラメタリゼーション を開発する。

    2)海洋炭素循環モデルを用いたオフライン温暖化実験について (吉川 知里)

    海洋大循環モデル(COCO)に海洋生態系モデルを導入したモデルを用いて、1890から2045年 までの二酸化炭素漸増実験を行った。その結果、海洋のCO2吸収量は、1890年に約0PgCだったのに対し2045年には約5PgCに増加した。
    一方で、温暖化させているにもかかわらず赤道域で表層水温の減少が見られるなど現在使用している駆動力の与え方になんらかの問題があることも明らかになった。今後、これらの原因追及と温暖化させない二酸化炭素漸増実験を行う予定である。

    3)「AGCM - Sim-CYCLE - MATSIRO 結合作業(助っ人)進捗」要旨

    市井さんが進めてきた、大気大循環モデル CCSR/NIES AGCM と陸域生態系モデル Sim-CYCLE の結合作業を受けて、いくつかのコード修正を行った上で、以下のインタラクティブ化を行った。
      - AGCM の陸面モデルを MATSIRO に差し替え
      - Sim-CYCLE で計算した葉面積指数(LAI)を MATSIRO に渡す
      - Sim-CYCLE で計算した陸域 CO2フラックスを AGCM に渡す
      - AGCM で CO2 をトレーサーとして流す
      - AGCM で計算した地表 CO2 濃度を Sim-CYCLE および MATSIRO に渡す
    これにより一応の大気陸面結合炭素循環モデルの体裁を成すものができた。ただし、現時点では水収支および光合成のモジュールを Sim-CYCLE と MATSIRO の両方で独立に持っているため、今後、これらを MATSIRO のものに一本化し、光合成量、土壌水分量などを Sim-CYCLE に渡すように結合を進める必要がある。
    Sim-CYCLE を300年スピンアップした状態から、AGCM-Sim-CYCLE-MATSIRO 結合モデルを3年間走らせた。スピンアップが足りないこととAGCM のバイアスの影響があるものの、 LAI および大気陸面間の CO2 放出・吸収フラックス等が概ね尤もらしいことを確認した。
    今後、以下の作業を早急に行うべきである。
      - 十分にスピンアップした平衡状態における結果検証>
      - MATSIRO と Sim-CYCLE のモジュール統合に向けたすり合わせ>
      - データ入出力ルーチンの整備>
      - 並列化・ベクトル化>

    4)その他

    その他のグループからも、口頭での簡単な進捗報告があった。

    陸域生態系変動モデルサブグループ(佐藤永)

    前回の連絡会議で発表した新方針に基づき、Sim-CYCLEのDGVM化についての具体的な計画と設計を作成した。仕様については来週の炭素循環グループ小会議で更に討議する予定だが、既にモデル作成の作業は始めており、木本一本の成長モデルのプログラムは大体完成した。

    温暖化・大気組成変化相互作用モデルサブグループ・対流圏(須藤健悟)

    CHASER の ES L 系での RUN を試したが、T42 の状態で 4-node 使用した場合 (JDIM=2)、計算(おそらく力学過程)がおかしくなることが判明した。これに対し滝川さんにより Makedef.ES の -pvctl 中の noverrchk などを除いてコンパイルすると正常に動くことが判明された。この状態で T42、L32 の CHASER を回すと 1 年積分に 2.5 時間程度で、 T42、L60 にした場合 100 年積分に 3 週間程度の予定 (T63 の可能性も少し見えて来たり来なかったり)。

    温暖化・大気組成変化相互作用モデルサブグループ・成層圏(滝川雅之)

    ここ数ヵ月程度、AGCM 5.7b が t42 32PE では走らなくなっていた問題に対応した。
    同様に、1PE での実行時に問題が生じることが判明したため、一部のソースを修正した。
    その他は、CHASER でトレーサの数が多くなるとカプラー回りでパフォーマンスが落ちるため、西村さんにカプラー関係のルーチンの調査をお願いした。成層圏版CHASERはまだ BOX モデルでのテスト段階。
    (河宮注:滝川氏は当日欠席だったが、後からメイルで報告された内容を掲載した。)

    気候物理コアモデルグループ(渡辺真吾)

    1)新放射スキームの導入と重力波抵抗パラメタリゼーションに関して、様々な場で実験結果を発表し議論を行った。
    2)簡略化オゾンパラメタリゼーションを導入したモデルを用いて対流圏界面付近のオゾン分布に関して、低温バイアスの影響をチェックしはじめた。
    3)移流スキームを鉛直高解像度に対応するようにした。
    4)新しい地形性重力波抵抗(Kim & Arakawa)のテストに着手した。

    寒冷圏モデルグループ(阿部彩子)

    氷床―大気結合モデルの開発へ向け、AGCMの出力をフォーシングとした氷床モデル単体でのオフライン実験に着手した。

    3.連絡事項

  • 今後の作業予定をチャート形式にしたものを作成した。(添付文書)。
    修正すべき点は今後改訂していきたいので、気づいたことがあれば河宮まで知らせて欲しい。
  • 今後の国際会議
    International Conference on Earth System Modelling
    (Hamburg, 9/15-19, 参加者:松野、市井、須藤、河宮)

    UK-Japan Workshop on Earth System Modelling
    (Cambridge, 10/1-3, 参加者:阿部、河宮)

    IGBP GAIM Task Force Meeting
    (Cambridge, 10/26-29, 参加者:阿部、河宮)

    来年度中に日本でIGBP関連の国際会議
  • 文部科学省が共生プロジェクト向けのウェブサーバを立ち上げる予定(添付文書)。外部への情報発信と内部での連絡両方に使える。9月に試験運用開始、10月から本稼動。
    現在モデル統合化領域のサーバに置いてある発表資料をそちらに移動することになるかも知れない。

    3.閉会


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