「人・自然・地球共生プロジェクト」課題2第15回研究連絡会議議事録
日時:平成15年12月16日(火) 14:00−16:00
場所:海洋科学技術センター横浜研究所 (横浜市金沢区昭和町 3173-25)
三好記念講堂
議事次第:
1. 開会挨拶
2.進捗状況報告
1)「陸域炭素循環モデルを高度化するためのプロジェクト研究について
-共生3-1と環境省S1-」(伊藤 昭彦)
地球システムモデルに含まれる各種コンポーネントのうちでも陸域生態系は不確定要因が大きい部分である。現在、陸域生態系機能を把握・予測するためのプロジェクトが共生第2課題と平行して実施されている。特に、共生第3-1(生態系)と環境省地球環境研究推進費S1課題は、大気-陸域間の熱水収支、炭素収支に注目するプロジェクトであり、そこで得られた観測データやパラメタリゼーションは共生第2課題で使われる陸域モデルの精度向上に寄与するものと期待される。上記2つのプロジェクトは内容的に近接していることから、11月10,11日にわたって合同成果報告会が実施された。
今回は、その内容を踏まえて共生第2課題との関連性について紹介した。具体的には、陸域炭素循環モデルであるSim-CYCLEと他のモデルについてサイトレベル、アジア地域レベルで相互比較を行った結果について概要を説明した。また、Global Carbon Projectで実施される可能性が高い国際モデル相互比較についても言及した。最後に、AGU Fall meetingで行われていた気候-炭素循環結合モデルに関する研究発表について紹介した。
2)炭素循環モデル開発状況 (河宮 未知生)
大気−海洋結合炭素循環モデルが「走る」状態になったが、まだバグが残っているようである。問題点として、陸面CO2フラックスの分布図に不自然な帯状の構造が見られること、植物プランクトン分布があるべき姿になっていないこと、があげられる。おおまかなCO2の収支チェックを行ったところ、大気・海洋中の炭素量の収支はだいたいバランスしていた。厳密なチェックは改めて行う必要がある。上に挙げた問題点解決のほか、全炭酸・アルカリニティの現実的初期値データ作成や、海氷に覆われた部分の日射透過の取り扱いの改善などに取り組んでいく必要がある。
なおこれまで、コード開発のベースとして用いている結合モデルは共生1のいわゆる「CMIPバージョン」であるが、これは少々古いコードで化学モデルの移植まで考えると不都合がある。従って最新版に乗り換えてこの先の開発を進めることにした。これまで開発したコードを最新版に移植する作業をすでに始めている。
なお予定では、炭素循環についてはモデル開発フェーズは今年度で終わり、来年度からは科学的成果を挙げることを念頭に置いたランを行っていくことになっている。現在の開発ペースはこの予定に充分間に合うものと考えている。講演ではさらに、モデルの実験設定や結果解析方法について、参考になると思われる論文(Friedlingstein et al. Tellus, 55B, 692-700, 2003)の内容を簡単に紹介した。
3)その他サブグループ進捗状況
- 陸域生態系変動モデルサブグループ (佐藤 永)
引き続きDGVMを作成している。現時点までに、Sim-CYCLEの主要構成要素との結合を終え、1地点計算版については今月中にプログラムの開発が完了する予定。その後、そのコードを簡単な説明書と共に炭素循環研究メンバーに配布、結合モデルとの整合性をチェックして頂く。結合に際しての問題点が特に見つからなければ、コードの最終チェックを行い、パラメーター推定とチューニングの作業に移る。
- 成層圏化学過程関連の進捗報告 (滝川 雅之)
ES S系にてパッシブトレーサ移流実験を行なった(10年積分、8メンバーアンサンブル)。赤道および中緯度域対流圏界面付近での成層圏への物質の流入量などに関して今後解析を行なう予定。S系にて長期積分するためのノウハウを確立しつつあるが、大量に実験すると各方面に迷惑をかけそうなやりかたなので、t42程度ならばL系で一度にアンサンブル実験できないか検討してみたい。
(須藤 健吾)
CHASER モデルへのエアロゾルの導入作業を続行しています。 (主に簡略版SPRINTARS を参考にコードを付け加え中です) 12/8 - 12 の AGUFall meetingでは CHASER モデルによる温暖化影響実験を口頭発表しましたが、それほどしっくりこないセッション (Climate: Models)だったため宣伝効果としては?な感じです。
- 温暖化_雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価サブグループ進捗状況報告 (久芳 奈遠美)
(1)雲粒数密度を求めるパラメタリゼーションの利用法(久芳)
Kubaのパラメタリゼーションとガンマ関数で初期雲粒粒径分布を求めるビン法とパーセルモデルで初期雲粒粒径分布を厳密に求めるビン法をそれぞれ簡易力学モデルに入れて結果を比較し、予測される誤差の範囲でおおよそ同じ積算降水量が得られた。
両者の雲粒粒径分布の差とその影響の検討:
- 放射収支には雲粒数密度、雲水量が正しく見積もられているので影響はほとんど無い。
- ガンマ分布はモード半径の周囲で幅が広く、巨大粒子CCNの寄与は表現できない
- この幅の広さが降水量を多めに見積もる
- 巨大粒子CCNが降水に寄与するような場合(CCNが多い場合)は、雲粒「数密度パラメタリゼーション+ガンマ分布」は大きい雨粒を過少評価する。
- 巨大粒子CCNが降水に寄与しない場合(CCNが少ない場合)は「数密度パラメタリゼーション+ガンマ分布」でもほとんど同じ結果。
- 雨滴の粒径がいくらか異なるため落下する場所が多少異なる。
(2)SPRINTARS +海洋混合層GCM(CCSR/NIES)(竹村)
- Ghan et al.(1997) およびAbdul-Razzak et al. (1998)で雲粒数密度を求める式を導入。
- この式で求まった雲粒数密度を用いて有効半径と降水効率を出す
- エアロゾル数密度対雲粒数密度の相関について検討した。
- 雲粒有効半径、雲水量、気温、降水量などを1850年と2000年でのエアロゾル量を入力して計算して比較した。
- エアロゾル排出量を1850年レベルと2000年レベルにした実験の差を見ると、水循環(雲・降水)に関して、エアロゾル直接・間接効果による気温低下の影響が顕著であるが、東アジアや北大西洋等では第2種間接効果(エアロゾル数増加に伴う降水抑制)のシグナルが見られる。
(3)SPRINTARS にKuba のパラメタリゼーションを取り入れた場合の結果。(竹村)
- 南極で有効半径が小さすぎる(理由不明)。
- アフリカ南部とオーストラリア大陸で大きすぎる(炭素粒子を考慮して無いから)
(4)東北大学でNHMにビン法を入れたいという動きがあるので協力することを検討。
(5)NICAM:鈴木さんの基底関数展開法モデルを富田さんに渡した。
- 寒冷圏モデルサブグループ (阿部 彩子)
GCM に組み込む機会に氷床モデルの入出力や構造を根本的に見直しプログラム整理している。年度末までにはGCM と氷床カップルに着手する予定である。
- 気候物理コアモデル改良サブグループ (渡辺 真吾)
今月の進捗:
T106L250モデルの実験は目標の4年間にまで達した。
下部成層圏の重力波に関して;
(1)水平波数スペクトル、鉛直波数スペクトル、周波数スペクトルの各々について、観測との比較を行った結果、水平総波数106のこのモデルが表現しうる範囲内で、良い一致を示した。
(2)GPS/MET衛星観測による下部成層圏のポテンシャル・エネルギー分布とモデルとの比較を行った結果、定性的に良い一致を示した。
(3)重力波パラメタリゼーションへの入力値(今のところ4年中最初の2年間の平均)
が完成した。
3.連絡事項
- 1月10,11日に地球シミュレータ利用報告会があり、発表資料を12月22日までにシミュレータセンターに提出することになっている。シミュレータを利用して得られた結果を示すスライドを5枚程度河宮まで送るよう各グループに依頼した。
- 来年度からは設備投資の必要性が少なくなることもあり、作業支援要員を1人雇える可能性が出てきた。Web page の作成・保守、計算機管理、グラフィック作成、ルーティンワーク的なラン・解析の実行などに関する支援をお願いできる人を念頭にツテをあたっていく。
4.閉会
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