「人・自然・地球共生プロジェクト」課題2第18回研究連絡会議議事録
1.日時:平成16年4月28日(水) 14:00−16:00
2.場所:海洋研究開発機構横浜研究所(横浜市金沢区昭和町 3173-25)
小会議室
3.議事次第:
1)開会挨拶
2)進捗状況報告
(1) 「これまでの研究とフロンティアでの今後の役割分担について」 (加藤知道)
1. これまでの研究
青海−チベット高原の北東部に位置する、中国青海省海北地区の高山草原生態系(カヤツリグサ科C3草本が優占)を対象とし、渦相関法を用いた大気-生態系間のCO2交換の測定(2001年8月〜2002年12月)と、炭素循環モデルSim-CYCLEを用いた推定(1981-2000)によって、異なる時間スケールでのCO2交換と環境要因の関係を明らかにし、温暖化に伴うCO2交換の変化を予測した。
植物生長期(5月-9月)の日中のCO2吸収量は、LAI(葉面積指数)の季節変化と、光(PPFD)の日々の変化量に依存していた。一方、夜間のCO2放出量(夜間FCO2)、言い換えれば夜間の生態系呼吸量は、土壌温度に対しては正の相関を示し、土壌水分に対しては負の関係を示した。実測値から年間CO2吸収量は78.5 gC m-2となり、他の高山帯とほぼ同等の小さな値であった。世界の様々な生態系における、年平均気温とCO2吸収量の関係から見て、本生態系の制限要因は温度であることが示唆された。
生態系炭素循環モデルSim-CYCLEを用いたCO2交換の変動実験の結果では、総一次生産GPPと生態系純生産NEPの年々推移は同調しており、変化幅は±70 g C m-2yr-1程度であった。一方、生態系呼吸Reは変動幅が小さかった。NEPは、温度の上昇に対して、緩やかな負の関係を示したが、有意ではなかった。気候変化に対する応答ポテンシャルを調べるモデル感度実験では、年平均気温を5℃上昇させたとき、GPPは応答が速く、20年程度で定常に達したが、Reはそれよりも反応が緩やかであった。これによると、ある程度の温暖化は植物生産力を増加させ、現在もその状態が続いている可能性がある。次に、年平均温度を±10℃の間で強制的に変化させたモデル実験では、5℃までの年平均気温の上昇はGPPを増加させるが、それ以上の上昇は逆に現在よりも値を低下させた。
青海-チベット高山草原生態系の炭素動態を現地での実測とモデルによる予測とを行ったところ、かなり良く一致して、本生態系の植物生産力は極めて小さいことが明らかとなった。また、ある程度の温暖化は、光合成を促進し本生態系をCO2の吸収源として維持させるが、温暖化が顕著になると、光合成を低下させ、その結果、本生態系はCO2放出源になる可能性が考えられた。
2. 今後の役割分担
(1)Sim-CYCLEとMATSIRO−AGCMの親和性を高めるため、インタフェースの整備や統合されたモデルの検証
(2)C4MIP対応のためのモデル開発(土地利用変化プロセスの組み込み、インタフェースの整備)とモデルシミュレーション
(2)気候物理コアモデル改良サブグループの進捗状況 (渡辺 真吾)
統合モデルの基礎となる大気海洋結合モデルの並列化構造とテスト実験の結果から試算された統合モデルの100年積分に必要な時間に関して紹介した。
今後SPMD並列化を行った場合、100年積分におよそ4ヶ月間が必要になること、
MPMD並列でノード内自動並列化を行うことにより、それが1~2ヶ月程度に短縮
できる可能性があることを示した。
(3)共生第2解析&ファイルサーバー taro, pochi, hanako, tamaのご紹介 (河原井 裕之)
(4)その他 進捗状況報告
- 陸域炭素循環モデル(佐藤)
C4MIP対応の為のSim-CYCLE改変作業を完了させ、これをGCMやマツシロと結合可能な状態とした。以降のC4MIP関連作業については、加藤さんと大越智さんに全てお任せするつもりである。開発中のDGVMについては、コードチェック、及びベクトル化が完了し、現在各種パラメータを文献より収集している(但し、モデルの仕様の一部を改変する可能性があり、その場合にはコーディングに今暫くの時間が必要となるだろう)。当初は、Sim-CYCLEやLPJ-DGVMのパラメーターを、そのまま流用させるつもりであったが、観測データとシミュレーション結果が合うように推定されたパラメーターも多く、そのようなパラメーターについては改めて推定しなければならない。そのため、当初の見積もりよりも作業時間はかかりそうではあるが、次回の連絡会議までには少なくとも特定1地点における植生動態がシミュレートできる状態にしたい。
- 海洋グループ進捗(河宮)
MIROCへの海洋炭素循環モデルの移植が一段落つき、海氷のあるグリッドにおけるCO2交換の取り扱いやベクトル化率向上など、モデルの細部調整を行った。
また昨年度中に行った海洋単体モデルによるデモンストレーション実験結果のデータ整理作業を行った。
- 成層圏化学サブグループ(滝川)
須藤研究員と共同で大気大循環モデルの動作検証を行なっており、二、三の些細な不具合を修正した。今後は須藤氏の対流圏化学-エアロゾルモデル開発が終了次第、成層圏化学過程を導入した、大気化学モデルを開発していく予定。
- (須藤)
CHASER/sSPRINTARS による化学・エアロゾル結合作業に関しては完了している。ただ、AGCM (5.7b)側の問題として地表付近の気温が非現実的な値(T>370K)になることがあることや若干の不具合を確認しており、シミュレーター上での試験を行っている。化学との結合が強いエアロゾル種は硫酸塩・硝酸塩、土壌粒子、および有機炭素エアロゾルであるが、このうち炭化水素の酸化で生成される有機炭素エアロゾル(SOA)について化学過程との結合を検討中。
今後はCHASER/sSPRINTARS をシミュレータ上でのチューニング作業を行うとともに実効性能について評価する。
- ・温暖化−雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価(久芳)
ビン法雲微物理モデルを搭載する雲解像領域モデルとして、気象庁MRI/NPD-NHM 非静力メソスケールモデル(Saito and Kato, 1999)とCReSS (Tsuboki and Sakakibara,2002)を候補に挙げて検討したが、CReSSの開発者の協力が得られることになったため、本課題ではCReSS に搭載することにした。CReSS は現段階では大気放射および雲放射の計算が含まれていないものの、これらの搭載が予定されている。CReSS に2モーメントビン法(Chen and Lamb, 1974)による雲微物理モデルとここで開発されたビン法に与えるべき初期雲粒粒径分布を求めるパラメタリゼーションとを合わせて搭載するための準備をしている。
エアロゾル気候モデルであるSPRINTARSの出力は海塩粒子・硫酸粒子・有機炭素粒子・土壌粒子の4種類の総質量全球分布である。このうちの有機炭素粒子については種類も多く複雑ではあるが、中にはCCNとして十分機能するものもある(堀、2003)ため、取り扱い方を来年度の検討課題とする。北海道大学低温科学研究所や気象研究所との共同研究も計画している。
3)連絡事項
- ESのノード数申請について、新年度の更新手続が必要。
AGCMについては渡辺が、COCOについては河宮がそれぞれ手続を行う。
- 地球フロンティア、JAMSTECそれぞれの報告書に共生2から原稿を提出する必要がある。執筆は加藤氏、佐藤氏、河宮氏、須藤氏、久芳氏、阿部氏、渡辺氏にお願いした。共生2報告書の「要旨」部分を英訳する形でほぼ大丈夫なはず。詳細は添付書類参照。内部締切は5月21日。
- 5月13日(木)に運営委員会が開催される。須藤氏、久芳氏、阿部氏、渡辺氏と、炭素循環から1人が発表予定。主な発表内容は今年度の計画について。昨年度の結果のまとめも多少示す。
- ES計算資源の再分配については、先日(4月2日)に共生2MLに流したメイルに当面従う。過不足が出てきた場合には随時調整を行う。
- 斎藤氏(CCSR) がMIROCの再SPMD化を完了した。化学モデル導入、成層圏への拡張を考えるとSPMDを採用した方が有利になる可能性も高い。海陸の炭素循環モデルをこの新MIROCコードへ移植する方針を決めた。
- 国際地球圏生物圏計画(IGBP)が第1期の成果をまとめて刊行したシリーズのうち一冊(Global Change and the Earth System - A Planet Under Pressure, Spinger Verlag, 2004) で、共生第2課題が「野心的」なプロジェクトとして比較的大きく紹介されている(280-281項)。世界がK-2を見守っている。
- 10月にIGBPとWCRPに関する国際ワークショップをフロンティアで開催する予定。共生2からの発表も行う。このワークショップは共生1,2,4の合同運営委員会も兼ねる。
- 文科省による中間評価プロセスが、夏ごろから始まる可能性もある。いつでも対応できるよう作業を進めておく必要がある。
3.閉会
添付ファイル
Annual Report FY 2003原稿作成について (2003AR_RR.doc)
平成15年度JAMSTEC年報及びアニュアルレポート原稿作成について (2003AR_JAMSTEC_RR.doc)
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