「人•自然•地球共生プロジェクト」課題2第19回研究連絡会議議事録

日時:日時:平成16年6月14日(月) 14:00−16:00
場所:場所:海洋研究開発機構横浜研究所(横浜市金沢区昭和町 3173-25)
地球情報館4階 大会議室

議事次第:

1. 開会挨拶

2.進捗状況報告

(1)中解像度版気候モデルのパフォーマンスについて(野沢 徹)

共生第1課題(K-1)で開発した中解像度版の大気海洋結合モデル MIROC3.2 を用いて、IPCC AR4 に向けた各種実験を開始した。現在までに行っている実験は、コントロール実験(全ての外部境界条件を産業革命以前(1850年)の気候条件に固定)、CO2漸増実験(二酸化炭素濃度を年率1%複利で漸増させる実験)、20世紀の気候再現実験である。
コントロール実験は700年程度まで積分を行っており、大気上端での正味放射フラックスは 1W/m2 ほど入り過ぎ、全球年平均した地上気温は13.4℃程度とやや低めであるが、いずれも大きくドリフトすることなく、安定に推移している。しかし、全海洋平均した海水温は緩やかな昇温傾向を示しているため、更に積分を延長した場合には、地上気温の長期的な昇温ドリフトは避けられないと考えられる。北大西洋深層水(NADW)流量の最大値は 19Sv 前後を維持しており、安定したパフォーマンスを示している。南半球の海氷面積はやや少なめであり、特にウェッデル海およびその東側で顕著である。
CO2漸増実験は二酸化炭素濃度がコントロール(産業革命以前:1850年)の4倍になるまで行っている。CO2倍増時の地上気温上昇度は2.07K、降水量変化率は3.43%であり、いずれもやや高めではあるものの、概ね世界の他機関のモデルと同等の結果を示している。また、4倍増時における地上気温上昇度は5.03K、降水量変化率は8.92%である。地上気温上昇度および降水量変化率の地理的分布は、従来のモデル結果とほぼ同等の結果を示している。
20世紀の気候再現実験では、以下のような外部強制の変化を考慮している:太陽定数変動、大規模火山噴火に伴う成層圏エアロゾルの変化(ここまで自然起源)、各種GHGの増加、対流圏オゾンの増加、成層圏オゾンの減少、人為起源のSO2およびBC(Black Carbon:黒色炭素)排出量増加、土地利用変化(ここまで人為起源)。これら全ての気候影響を考慮した場合、モデルで再現された全球年平均地上気温の変化は、観測値と非常によく一致している。同時に行った自然起源のみ、人為起源のみの気候影響を考慮した実験の結果と比較した場合、19世紀末から20世紀初頭にかけては自然起源の気候影響が大きく、20世紀中盤以降は人為起源の気候影響による寄与が大きいことが示唆された。しかし、モデルの内部変動も比較的大きいため、アンサンブル実験を行うことにより、シグナルの有意性について検討する必要がある。


(2)炭素循環モデル進捗状況について(河宮 未知生)

昨年暮れにいわゆる「旧マル中」への炭素循環モデル移植を行った。現在CVS最新版のマル中に移植を継続中で、未だに不具合はあるものの作業のメドはついた状態である。旧マル中からの拡張として、(1)SPRINTARSが入っている、(2)Sim-CYCLEのコード整備がされた、(3)陸域炭素循環に関する土地利用変化の効果が入った、(4)coupler周り(mediator)のコード整備がされ、SPMDでのモデルランも比較的容易になった、という点が挙げられる。炭素循環グループの今後の予定として、GCMに移植したSim-CYCLEの生物季節の調整(加藤)、初期値•駆動力データの作成(吉川)、結合炭素循環モデルコード開発継続(河宮•吉川)といった作業を並行して行っていくことを考えている。7月中には細部調整まで終え「プロダクト•ラン」と呼べる実権を開始して、9月後半のIPCC LA 会議や10月後半のIGBP/AIMES-WCRP/WGCM ワークショップまでに外に見せられるような結果を出すことを目標にしている。

(3)その他サブグループの進捗状況
•陸域炭素循環モデルサブグループ (加藤 知道)
    Sim-CYCLEのフェノロジーは、一ヶ月ステップでの計算に適応するように作られていたが (つまり、月平均気温が、5℃を超えたら萌芽するといったような)、このままだと一日ステップで計算を要求されるAGCMへの結合において不都合が生じる。たとえば、日平均気温が5℃を超えたり、下回ったりするような時期において、日ごとに萌芽、葉の脱落を繰り返すようなことになる。そこで、フェノロジーをスムースに表現できるように、プログラムの一部を改良した。ここでは新たに、Botta et al., 2000. GCB などのグローバルなフェノロジー研究の成果を利用し、積算温度、積算冷温度、積算温度、降水日数などの変数を基準として用いることにした。現在は、ソースコードの変更は終了し、テストラン&バグ取りを繰り返している段階である。6月中には、フェノロジーを含めたさまざまな部分の調整を終わらせ、7月からc4mip対応のランを行いたいと思っている。

•陸域生態系変動モデルサブグループ (佐藤 永)
    DGVMの開発を進めている。現在、モデルの各素過程のパラメーターを文献より収集している。いくつかの素過程については、パラメーターのみならずモデルそのものを変更した。そのような大きな変更を行った素過程には、フェノロジー、土壌水循環、維持呼吸などが含まれる。これら一連の作業終了後、試行シミュレーションを繰り返すことによるモデル出力の調整に移行する予定である。

•成層圏化学サブグループ(滝川 雅之)
    オゾンシンポジウムに参加した際、欧米のグループの統合モデルおよび化学結合モデル開発状況などを調査した。成層圏•対流圏の化学過程を別モジュールで扱うモデルも存在するため、同様のことがk-2 モデルでも可能か検討中。

•温暖化•大気組成変化相互作用サブモデルグループ(須藤 健悟)
    5月の作業としては、化学エアロゾル結合サブモデル(CHASER-SPRINTARS)の構築•デバッギングを継続し、同時に、共生課題1が行っている IPCC 実験各シナリオに必要なオゾンO3)、H2O2、OHなどの全球分布提供のための将来予測実験をCHASERにより行っている。今後は統合モデルKISSMEの開発プラン通り、炭素循環過程が導入された気候モデルを引き継ぎ、化学•エアロゾル過程を結合していく。

•温暖化−雲•エアロゾル•放射フィードバック精密評価(久芳 奈遠美)
    3次元非静力学モデルの CReSS にビン法雲モデルを初期雲粒粒径分布を決めるパラメタリゼーションとともに搭載するためのドキュメントを作成したので、これからコーディングにとりかかる。
    有機炭素エアロゾルについては、Ghan et al. (2001, J. Geophys. Res, 106, D6, 5295-5316)のTable 1に organic carbon としてあげられているデータから作った臨界過飽和度と粒子乾燥半径の関係式をもとに、パラメタリゼーションに有機炭素エアロゾルを取り込むことを可能にした。さらにこのデータの妥当性や有機炭素エアロゾル一般の特性を知るために北大低温研の河村教授、持田博士に協力してもらい、文献収集を行った。

•寒冷圏モデルサブグループ(阿部 彩子)
    進捗は特になし。

•気候物理コアモデルサブグループ(渡辺 真吾)
    重力波抵抗パラメタリゼーションへのt106l250重力波ソースの入力とチューニングを行った。また、t213l250重力波の解析を行っており、今後はそれをソースとして入力する実験も行う。7-8月は、重力波に関する解析と論文執筆を中心に行う。

3)連絡事項

中間評価のプロセスが既に始まっており、手始めに7月14日のヒアリングのための事前資料作成を行っている。この資料自体は作成にそれほど労力の必要なものではないが、このさきプレゼンテーション資料の作成などの依頼がメンバーに行くことがあるかも知れない。

4.閉会


添付ファイル

大気−海洋結合炭素循環モデル開発状況
(kawamiya_04.06.14.ppt)


マル中結合モデルの現状 および IPCC AR4 対応実験結果 - 速報 - 1
(nozawa_04.06.14-1.ppt)

マル中結合モデルの現状 および IPCC AR4 対応実験結果 - 速報 - 2
(nozawa_04.06.14-2.ppt)

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