「人•自然•地球共生プロジェクト」課題2第20回研究連絡会議議事録
1.日時:平成16年7月28日(水) 14:00−16:00
2.場所:海洋研究開発機構横浜研究所(横浜市金沢区昭和町 3173-25)
交流棟2階 小会議室
議事次第:
1. 開会挨拶
2.進捗状況報告
(1) DGVMの開発状況について (佐藤 永)
これまでの作業により、草本の成長に関与する全ての部分について、コード作成・パラメーター推定が完了した。そこで、木本を含まないバイオームについて、予備的なシミュレーションを行い、各種生態パラメーターの実測値と計算値とを比較した。その結果、個々の地点で測定された値(純生産量など)については、説明できない分散が多く残ったものの、地域スケールでの傾向(年間降雨量と純生産量との関係など)については、ほぼ適切な結果が得られることが分かった。
木本の成長に関しては、樹冠への入光量を算出する手法などに改善点があり、現在、コードの変更を進めている。このコード変更と、木本に固有なパラメーターの推定を経て、全ての生態系におけるシミュレーションが可能となる。以上の作業を来月一杯までに終え、その後、全球グリッドでのシミュレーションを可能とするためのコード変更、および並列化への作業へ移行する予定である。
(2) 温暖化・大気組成変化相互作用サブモデル エアロゾル計算導入・将来予測実験(K1関連) (須藤 健悟)
温暖化大気組成変化相互作用サブモデルでは統合モデルKISSME への化学・エアロゾル計算の導入作業を行っている。現状では化学モデルCHASER とエアロゾルモデルSPRINTARS の結合作業を終了し、ES上でのテスト実験および計算コスト評価を行っている。構築を行った。CHASER- SPRINTARS モデルでは CHASER の化学過程でオゾンを含む対流圏化学に関連する過程(前駆気体emission、沈着、化学反応)を考慮し、液相反応ルーチンでは雲水中の SO2 の酸化による硫酸塩エアロゾル(SO4--)の生成過程を計算する。この SO4-- 生成過程では気相化学反応過程で計算しているオゾン、過酸化水素(H2O2)、 OH(ラジカル) をオンラインで使用し "SO2 --> SO4(--)" の反応計算を行う。
また、有機炭素エアロゾル(OC)の内、植物起源炭化水素類 (VOCs) から生成されるものについても CHASER で考慮しているテルペン類(>=C10)のオゾンによる酸化反応(Terpns + O3 -->...) 中で一定のファクターを用いることで試験的に表現を行っている。
その他の炭素系エアロゾル(EC)、土壌粒子(dust)、海塩粒子のシミュレーションに関しては SPRINTARS に準ずる形式で表現を行っている。しかしながら、降水によるエアロゾルの除去過程(wet deposition)については気相化学種の deposition と整合性を持たせるためCHASER の wet deposition ルーチンの内部で計算を行うようにした(オプションで変更可能)。CHASER 内で考慮しているような SO2 からの SO4(--) の生成過程としてはとりわけ雲水中における SO2 の O3, H2O2 による酸化反応が重要であるが、これらの反応(とくにオゾンとの反応)および SO2 の雲水への溶け込み量は雲水の水素イオン濃度に強く依存するので雲水の酸性度(pH)を出来るだけ妥当に表現する必要がある。今回の結合作業では化学過程で計算されている酸性成分 (硝酸:NO3-、硫酸:SO4--) に土壌粒子中の Ca(2+)、Mg(2+)、Fe(3+)やアンモニウム(NH4+)などの塩基性物質による中和過程を考慮することで雲水の酸性度も計算できるようにし、硫酸エアロゾルシミュレーションの高度化を図った。(アンモニアのシミュレーションのためにエアロゾル熱力学平衡モデルの導入が必要であるが、導入作業自体は終了している;...が、かなり怪しい) エアロゾル表面でき起る不均一反応についてもここで考慮しているすべてのエアロゾルに関して考慮してる。構築を行った化学・エアロゾルモデルによる結果評価に関しては現在進行中であり特にエアロゾルのシミュレーションに絞って、光学パラメータや CCNs 等のチェックを行っている。今後は CHASER-SPRINTARS を早々に統合モデルへ移植する作業を行うが、この際には地表における植物起源 emission や dry-deposition について植生モデルなどと結合する。また、ハイブリッド鉛直座標化および新放射スキームの導入も今年度中に予定している。
また、化学・エアロゾルモデル構築とは別に、K1 長期実験へのinput として、オゾン、メタン(全球平均)、H2O2, OH 分布に関してIPCC SRESシナリオによる将来予測実験も行った。今回の K1 実験のため、SRES の A2・A1・B1 の三つのシナリオについて 1990-2100年まで 10 年おきのタイムスライス実験を行った。前回行った実験同様すべてのシナリオについてメタンやオゾンの時間発展に気候変動の影響が確認された。せっかくなのでこの結果についてもまとめる予定である。
(3)その他サブグループの進捗状況
•陸域炭素循環モデルサブグループ (加藤 知道)
Sim-CYCLEのフェノロジー表現部分の改良&調整は完了し、現在は植物生産力(GPP,NPP)について、衛星画像や他のモデルラン結果と比較しながらそれなりにリーズナブルな全球分布が得られるように各パラメータの調整をしている。8月からc4mip対応のランを行いたいと思っている。
•海洋生物地球化学モデルサブグループ (河宮 未知生)
前回の連絡会議で報告した結合モデルでのバグを駆除し、L系への移植を行った。C4MIP対応のためのスピンアップデータ作成をAGCMを用いて行った。
•成層圏化学サブグループ(滝川 雅之)
統合モデル開発に関しては直接の進展はとくに無し。対流圏化学モデルCHASERとエアロゾルモデルSPRINTARSの統合が完了した時点で成層圏化学過程および成層圏エアロゾルの導入を行なう予定。データ可視化ソフトウェアvis5dの地形データを海洋モデルなどにも適用できるようにしたので、今後、統合モデルデータの可視化などに利用可能と思われる。
•温暖化−雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価 (久芳 奈遠美、竹村)
有機炭素エアロゾルの導入を図った。Ghan et al. (2001, J. Geophys. Res, 106, D6, 5295-5316)のTable 1にorganic carbonのmaterial densityおよびhygroscopicityとして使用可能であるとあげられている値から作った臨界過飽和度と粒子乾燥半径の関係式をもとに、昨年度開発したエアロゾルの情報から雲粒数密度を予測するパラメタリゼーション(これまでは海塩粒子、硫酸粒子のみ扱うことが可能だった)に有機炭素エアロゾルを取り込むことを可能にした。
これをSPRINTARSへ導入し、CCSR/NIES/FRCGC-AGCNと結合したモデルにより雲頂の雲粒の有効半径の年平均値の全球分布を計算した。衛星データに見られる海陸のコントラスト(雲粒半径が海上で大きい)が再現でき定性的に観測データと一致している。定量的にも問題はないものと見られる。これまでは有機炭素エアロゾルを入れずに計算していたため、雲粒数が過少評価され、雲粒半径が過大評価されていたのが改善された。ただし、Ghan et al. (2001)の近似値の有効性については引き続き検討を予定している。
なお、このパラメタリゼーションと初期雲粒粒径分布を求めるパラメタリゼーションをビン法と共に3次元雲モデルに導入する手法について、国際雲モデルワークショップ(Hamburg)と国際雲降水学会(Bologna)で発表した。
•寒冷圏モデルサブグループ (阿部彩子)
大気氷床結合online の前段階として、最新の大循環モデルの入力による offline 実験の準備を行っている。そのためにIPCC-AR4用にフィックスされた 中解像度版および高解像度版の標準実験と温暖化実験についての質量収支を解析した。
•気候物理コアモデルサブグループ (渡辺真吾)
T213L250大気モデルの重力波の解析を行った。そこで得られた下部成層圏のソースをHines重力波抵抗パラメタリゼーションに入力して診断的な計算を行い、その結果である運動量フラックスの鉛直変化を、大気モデル中の重力波のものと比較した結果、Hinesパラメタリゼーションの問題点が明らかになってきた。
3)連絡事項
4)連絡事項
•7月14日に共生プロジェクト中間評価のヒアリング会合があり、松野センター長が共生課題1−4についてのプレゼンテーションを行った。比較的穏やかな様子で会合は終了した。
•9月下旬にIPCCリードオーサー会議、10月下旬にはフロンティアで"Workshop on Climate Change Research"が開催される。(添付書類参照、ただしアジェンダの細部は変更の可能性大)。
これらの会合でよい結果を発表できるようにがんばろう。
•Max-Planck Institute for MeteorologyのGuy Brasseur所長からメイルがあり、国際プロジェクトIGBP/AIMESのサテライト事務局をフロンティアに置けないかという打診があった。IGBP/AIMESは地球システムモデル開発を主眼に置いたプロジェクトであり、こうした申し出があることは共生2やフロンティアの存在が海外にも認識されてきたことを示している。(ただし実際に引き受けるかどうかは予算の都合もあり未定。)
•統合モデルのマイクロタスク化を共生1の大越智さんに手伝ってもらえないかという話を共生1に打診したところ、とりあえずOKの返事をもらった。
4.閉会
添付ファイル
統合モデリング及び地球温暖化研究ワークショップ概要 (workshop.doc)
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