「人•自然•地球共生プロジェクト」課題2第29回研究連絡会議議事録

1.日時:平成17年6月22日(水) 14:00−16:00
2.場所:海洋研究開発機構横浜研究所(横浜市金沢区昭和町 3173-25)
交流棟2階 小会議室

議事次第:

1. 開会挨拶

2. 各グループからの進捗状況報告等

(1) 「植生からの非メタン炭化水素類の放出過程」 (須藤 健悟)

大気化学と地表面過程の関連・相互作用を考える際、植生からの非メタン炭化水素類の放出過程が特に重要である。本発表では非メタン炭化水素類(NMVOCs)の大気化学における役割・重要性を整理し、植生からの NMVOCsハの emission量・分布推定に関する最近の研究例を紹介した。また、統合モデル内で植物からの NMVOCs の emission をオンラインで扱う場合の方法について過去の研究を参考に検討し、気候変動によるインパクトについてもシミュレーションによる例を提示した。

一般に大気中に放出される炭化水素類は (1) オゾン光化学への影響(オゾン生成の強化)、(2)OHラジカル(大気酸化能力)のコントロール(OHラジカルを減らす)、(3)二次有機エアロゾル(SOA)の生成の3つの重要性を持つ。炭化水素類の emission としては イソプレン・テルペン類(植物起源)、脂肪族・芳香族炭化水素(産業+森林火災起源)のものがあり、絶対量としては植物起源1000TgC/yr、森林火災起源 50TgC/yr、産業起源 100-200 TgC/yr と見積もられ、特に植物起源 VOCs の影響が大きい。ハ植物起源 emission の最近の見積もり(インベントリ)ではイソプレンが500TgC/yrで全 VOCsの約半分を占めていて、SOA生成にとって重要なテルペン類も 130 TgC/yr と大きい。これらイソプレンやテルペン類の境界層内での光化学的な寿命は0.5〜数時間と短く、CHASERで計算されているこれらVOCs も地表付近に大きく限定された分布となっている。最近ハーバード大のグループはGOME衛星から得られたホルムアルデヒド(HCHO)のカラム分布からイソプレン emission を導出する研究を行っているが、彼らの研究ではイソプレンemissionの年々変動は地表気温に対して高い(指数関数的)依存性を持つことが示されており、この研究で得られた温度依存性を emission inventory に反映させることも試みている。加えて、UKMOのグループが行った将来予測実験では気候変動に伴う熱帯域陸地上の温度上昇によりイソプレンemission(全球総量) が 2020年までで 9%増加するという結論を示している。このように気候変動による温度変化で植物起源の VOCsハemission が大きく変化するというのは割とあり得る話であるのでKISSME統合モデルでも考慮されることが望ましい。方法としては現在まで広く用いられている Guenther et al. [1995] の方法を基本とし、SimCYCLE中の PAR・LAI と結合した表現が想定できる。


(2)KISSME成層圏版の現状(渡辺 真吾)

PPT File (wnabe_05.06.22.ppt 2,118KB)

KISSME成層圏拡張版(CHASER抜き)の初期チューニングの結果を発表した。マル中L20と比較して、新放射コードの使用による対流圏界面低温バイアスの減少や、McFarlane+Iwasaki-typeB地形性重力波抵抗スキームによる、対流圏西風バイアスの減少、T213L250高解像度AGCMの解析結果をソースとして入力したHines非地形性重力波抵抗パラメタリゼーションによる、中層大気大循環の再現性向上などについて紹介した。また、OLR,OSRに注目して行った大規模凝結過程のチューニング結果に関しても紹介した。最後に、CHASERを結合した予備実験の結果から、1年モデル積分に必要な経過時間を見積もった。


(3)その他サブグループの進捗状況

(1) 大気-陸域結合炭素循環モデル(加藤 知道)

    C4MIPランが終了し、現在は結果の妥当性のチェックと、土地利用変化等の全球炭素収支に与える影響を調べるための解析を行っている。また、KISSMEのオンラインスピンナップ時にSim-CYCLE部分のバイオマスデータが適正値を大きく超えてしまう問題を解決するために、KISSMEの気候データを利用した追加的なオフラインスピンナップを行い、新たにSim-CYCLE部分の初期値を作成し、KISSMEに提供した。


(2)動的全球植生モデルSEIB-DGVM (佐藤 永)

    選択地点におけるパラメーター調整をほぼ終え、全球シミュレーションによる調整に作業段階を移行した。特に以下の2つの問題点について、解決法を模索している。

    i.シベリア北東部の寒帯性落葉針葉樹林帯(カラマツ林帯)が再現されない。この地域は冬の気温が極端に低下し、常緑では生き残れない環境であるのに、常緑針葉樹林帯が発達してしまっている。
    (※なお、この問題点は本日までに解決した)

    ii.ブラジル南東部、インド亜大陸、タイ北部などにおける熱帯性季節林帯が適 切に再現されない。これらの地域は、雨季と乾季の差が大きく、乾期に葉を落とす熱帯性雨緑樹林が発達するが、シミュレーションでは草原やステップが生じてしまっている。この一つの原因としては、展葉期のオン・オフを切り替えさせる基準が、適正でない事によると思われる。

    他の地域の植生分布や、陸面生態系機能の分布にも、まだ多くの問題点が残存している。しかし、そもそも10種類の植物機能型のみを仮定したモデルにおいて、これらが完全に再現されるはずがないので、上記2点の問題点を解決したのちには、そのシミュレーション結果をもって、論文を完成させる予定である。


(3) 寒冷圏モデル

    先月作成した、氷床モデルを用いたグリーンランドの温暖化実験を開始するための、氷床モデル単体を用いた初期条件などの設定に若干の誤りがあることがわかり、予定の温暖化実験を延期し、誤りの修正に対応していた。

(4)海洋生物地球化学モデル (河宮 未知生)

    陸域炭素貯留量が観測の誤差範囲に収まるようにしたバージョンで温暖化実験を改めて行っている。また前回の試運転バージョンの結果を使って海洋炭素循環に対する温暖化の影響を解析中。

3.連絡事項

  • 総合科学技術会議の「地球温暖化イニシアチブ」で、活動報告書の出版を予定している。共生2からの成果もとりあげられる。年内に出版予定で、一般書店で購入可能。

  • 共生1、共生2、NICAMグループで合同ミーティングを予定している。今のところ7月19日、於:フロンティア、が有力。

  • 5月31日−6月1日の日程で、ドイツで地球システムモデリングに関するシンポジウムがあり、松野先生が出席した。参加者は約80名。Max-Planck における関連研究の紹介が主であったが、デンマーク、フィンランド、フランスなどからの出席者もいた。

4.閉会


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