「人・自然・地球共生プロジェクト」課題2第1回研究運営委員会議事録1. 日時 平成14年12月18日(水) 15:00―18:00 2. 会場 海洋科学技術センター横浜研究所 (横浜市金沢区昭和町3173-25) 交流棟2階小会議室 3. 議事次第 1) 開会挨拶 2) 研究実施年次計画説明 松野 太郎システム長(共生課題2代表)
研究開発2年目:サブ課題ごとに部分統合モデルの開発。 研究開発3年目:各サブ課題において部分統合モデルを作りあげる。 この段階において地球温暖化にかかわる数値実験着手。次年(2005年)にかけ実験を終了し成果をできるだけIPCC-FARに間に合うようまとめる。 研究開発4年目:部分統合モデルによる実験を終了し同時に並行して全体を統合した「地球システム・モデル」の開発に着手。 研究開発5年目:地球システム・モデル完成。それを用いた温暖化に伴う全地球環境変化予測の試行。 3)各サブテーマの研究計画説明・ 炭素循環・気候変化結合モデル「共生第二課題における陸域生態系炭素循環モデルの研究計画」(発表者:市井 和仁)現在のところ、陸域生態系においては、特に熱帯地域の炭素収支のメカニズムが不明確となっている。衛星からの観測・モデルの結果ともに、大きな幅があることが問題である。また、炭素循環とGCMのカップリングモデルの結果においては、植生・土壌への炭素配分比や、GCMの気候変動シミュレーションの結果によっても大きなばらつきがある。生態系モデルにおいては、衛星データや大気観測等からの炭素収支の見積もり等の比較を通して、モデルの精度を向上させることを第一の目標とする予定である。
共生第2課題統合モデルの海洋コンポーネントについて(発表者:河宮 未知生)海洋中の全炭酸鉛直分布は表層付近で濃度が低くなる特徴的な分布をしている。二酸化炭素の大気海洋交換にとって大きな意味を持つこうした分布は生物ポンプ・アルカリポンプ・物理ポンプといった過程によって決定されており、中でも表層生態系における有機物の形成とそれに続く沈降に起因する生物ポンプが最も重要な寄与をなしている。その生物ポンプの効率は、海洋混合層の深さやエクマン湧昇、大気による鉄分の輸送など様々な物理過程から影響を受けている。したがって人為起源二酸化炭素に起因する気候変動が生物ポンプを変化させ、さらに海洋の二酸化炭素吸収に正または負のフィードバックをもたらす可能性は十分にある。統合モデル海洋炭素循環コンポーネントの開発計画としては、4コンパートメント表層生態系モデルの大循環モデルへの組み込みとそれによる実験を3年目までに行い、最終年度までには鉄の大気輸送の効果も考慮した最先端のモデルを構築していくことを考えている。
温暖化に伴う植生移動をいかにモデル化するか?(発表者:佐藤 永)気候変動に伴う植生帯移動を予測するためには、種子分散やギャップ動態といった、森林内の個体群動態を考慮しなければならない。このような過程を考慮し、かつ全球レベルでの植生帯移動予測を行うためには、「サイズ構造動態モデル」が適している。
既存のサイズ構造動態モデルを、全球レベル予測を行う形式に拡張することは簡単な作業である。問題は、実際の植生帯変動には様々な因子が複雑に関与すること、そして環境 vs 各樹種の生理活性の対応についてのパラメーター推定が難しいことである。
そこで、「考慮する変動環境因子は温度と降水量だけ」等の単純化を行い、モデルに導入するパラメーターは複数の推定方法で同じ値が得られたデータのみから算出する。
得られた予測の信頼性を概算するため、無視した因子の影響を変動分析にかける。さらに、より信頼性の高い予測を得るため、各バイオームにおいて実際に個体群動態を強く規定している因子を、様々なバイオームの長期森林プロットデータから個体群ベースモデルを用いて抽出し、そのような因子をモデルに取り込むことを検討する。
・温暖化・大気組成変化相互作用モデル温暖化・大気組成変化相互作用モデルについて(発表者: 滝川 雅之)対流圏オゾンは二酸化炭素、メタン、硫酸エアロゾルなどに次ぐ放射影響力を持つ。また、オゾン変動の地表気温に与える影響は、上部対流圏から下部成層圏にかけての高度域での変動がもっとも大きな影響を与えうる。その他にも、OH ラジカルは CH4 などの温暖化ガスおよび CO, NOx などのオゾン前駆気体の消滅過程に重要である。
これらの影響を定量的に評価するために、東大気候センターで開発された CHASER を元に成層圏・対流圏の光化学過程と結合した大気大循環モデルを作成し、いくつかのエミッションシナリオに基づきtime slice simulation を行う。
次に、東大気候センター・九大応力研で開発された対流圏エアロゾルモデル SPRINTERS に成層圏エアロゾルを組み込み、CHASER と結合したエアロゾル-化学-気候モデルを用い、硫酸エアロゾル生成に対する化学過程の影響評価を行う予定である。
温暖化ー雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価(発表者:久芳 奈遠美)IPCC2001のレポートにもあるように、対流圏エアロゾルの間接放射強制力の見積もりはいまだに不確定性の大きい問題であり、その主な要因はエアロゾルと雲の関係が不確定であることによる。エアロゾルの中で雲粒の凝結核(Cloud Condensation Nuclei:CCN) として働くものの粒径分布や化学組成と雲の中の上昇流速度によって雲粒の粒径分布が決まり、雲の反射率や光学的厚さなどの光学特性や雨の降り易さなどの降水効率が変わり、ひいては気候変動予測の中では放射収支や水循環にきてくる。これらの因果関係を明らかにするためには詳細雲モデルによる数値実験が不可欠である。
この共生プロジェクトでは光学特性に及ぼす影響を評価する。現状の例をあげると、まずCCSR/NIES の場合は放射計算に用いる雲粒の有効半径を雲粒数密度から計算し、その雲粒数密度はエアロゾル数密度から算出するようになっている。ここで使われる式はエアロゾルが少ない時はエアロゾル数密度に比例して、多くなると一定値に近づくという事を表す式で、おおまかな傾向はあっているが、CCNとならないものも全部含めたエアロゾルの数の関数であるということと、上昇流が考慮されていないことが問題といえる。また、Max Plank Institute の ECHAN GCMの場合は、雲粒数密度はエアロゾル数密度と雲内上昇流速度の関数になっている。雲内上昇流速度はグリッド内平均上昇流速度から求める。格子の中での雲の割合、雲内の上昇流速度の求め方が課題である。
一方、フロンティアでは、GCMよりずっと細かい詳細雲モデルを開発し、数値実験によって雲の光学的性質や雲粒数密度を予測するパラメタリゼーションを開発している。いろいろな条件での数値実験の結果を統合して、CCNの過飽和度スペクトルと雲底での上昇流速度の関数として雲の中の過飽和度の最大値を予測する式を開発した。また雲内の最大過飽和度で活性化することのできるCCNの数と雲底での上昇流速度の関数として雲粒数密度を予測する式を開発した。さらに予測した雲粒数密度と雲の鉛直積算雲水量から雲の光学的厚さを予測する式も開発した。同様に、雲内各層の雲粒の有効半径を雲粒数密度と雲底からの高度の関数で表すことも可能である。また、精度は落ちるが、CCNスペクトルから直接、雲粒数密度を予測する方法も開発した。これを用い、衛星観測などから独立に得られた雲の光学的厚さと鉛直積算雲水量から雲粒数密度を予測して、雲底での上昇流速度とあわせてCCN数密度を逆算する事が可能である。この方法はエアロゾルではなくCCNの情報を全球的に長期的に観測するのに非常に有効である。
研究方針としては、GCMに組み込むための、エアロゾル(CCN)の気候への影響を評価できるパラメタリゼーションを開発するために、まず、すでにGCMで用いられているパラメタリゼーションを検討し、ここで開発した詳細雲モデルによる数値実験の成果と合わせて、より良いパラメタリゼーションを開発していく。
この際にはGCMの予報変数からどのようにしてサブグリッドスケールの雲を表すか、即ちグリッド内の雲の占める割合、雲内上昇流速度、雲の鉛直積算雲水量の算出など
が問題になるが、この点に関しては他のグループと連携して解決していく。
・寒冷圏モデル共生第2:寒冷圏モデル(温暖化に対する応答)(発表者:阿部 彩子)気候センターで開発された大気海洋結合モデルには、ある程度成熟したレベルの海氷モデルが既に組み込まれている。氷床モデルについては固有のタイムスケールが大気のそれとは大幅に違うため直接結合はされていないが、氷床モデル単独での再現実験では現実的な結果が得られている。
今後は観測データや古気候再現実験を通した検証を行いモデルの高精度化に努め、統合モデルの開発に備えていく。
・気候物理コアモデル物理気候コアモデル改良サブグループ 背景と研究計画(発表者:渡辺 真吾)最終的な統合モデルの基礎となる大気モデルの開発を長期的な目標とするとともに、各サブグループのニーズに合わせた大気モデルの開発を目的とする。
共生第一課題の大気モデルを基礎とし、成層圏・中間圏を含むように拡張し、特に上部対流圏-下部成層圏の力学場・温度場と水蒸気分布に関して改良を行う。現在の共生第一課題のモデルには、同領域に顕著な低温・水蒸気過多バイアスが存在する。 この解決は、対流圏界面付近の雲や水蒸気量が無視できない放射強制力をもつこと、冬季-春季の高緯度下部成層圏の水蒸気量がオゾン層破壊の原因となる極成層圏雲の発生に重要であることから、重要な課題である。
この件に関しては、大気内部重力波の表現が重要であると考えられるため、モデルの鉛直解像度を100m〜1500mの間で、いくつか変えて実験を行い、それに対して、シミュレートされる重力波や温度場・水蒸気分の応答を調べる必要がある。現在、モデル・トップ80kmで、水平・鉛直解像度の異なる20セットほどの実験を地球シミュレーター上で行っている。
今後は共生第一課題と協力してモデルの改良を行いながら適切な水平・鉛直解像度のモデルを見定めていく予定である。またサブグリッドスケールの重力波の取り扱いに関しては、共生第三課題とも協力していきたい。
4) 総合討論・住明正氏(東大)から「大変野心的なプロジェクトだが、うまく統率をとっていかないと収拾がつかなくなる可能性がある。性急な結合は避け、各コンポーネントモデルのパフォーマンスは十分吟味しておくべきだ。多様な過程を統合した共通のプラットフォームとして統合モデルの必要性は認めるが、この点には十分留意して欲しい。」という内容のコメントがあった。・日比谷紀之氏(東大、共生3代表者)からは共生3との連携を図るよう要請があった。共生3では、松田佳久氏(東大)のグループが共生2気候物理コアモデル改良グループと、大島慶一郎氏(北大)のグループが同寒冷圏モデルグループと、それぞれ関連の深いテーマをもって研究を行っており、対応するグループ同士で連絡を取り合っていこうとの提案がなされた。 ・また共生プロジェクト以外にも本プロジェクトと関連の深いものとして、「北大21世紀COEプログラム(生態地球圏システム激変の予測と回避)」についての報告が原登志彦(北大、地球フ)・山中康裕(北大、地球フ)両氏から、環境省の「21世紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の統合的炭素収支研究」についての報告が及川武久(筑波大、地球フ)・井上元(環境研)両氏からそれぞれあった。両プロジェクトとも共生2よりはローカルな問題に重点が置かれているが、関連の深いプロジェクトとして交流を推進していく旨確認された。 ・最後に、今年度中にもう一度、おそらく3月後半に運営委員会を開催することで合意がなされた。 5)閉会 |