「人・自然・地球共生プロジェクト」課題2第2回研究運営委員会議事録1. 日時平成15年3月24日(月) 14:00―18:00 2. 会場 海洋科学技術センター横浜研究所 (横浜市金沢区昭和町3173-25) 交流棟2階小会議室 3. 議事次第 1) 委員長挨拶 (松野 太郎) 2) 文部科学省挨拶 (文部科学省海洋地球課 斎藤 春夫) 3) 進捗状況報告 (1) 他のプロジェクト(特に共生3)との連携及び海洋炭素循環SSGの 進捗状況について (河宮 未知生)共生3との連携に関して、いわゆる「日比谷共生」と共生2とでサブサブグループ(SSG) レベルにおける対応がどの様についているかという点について、プロジェクトの構造を示しながら説明を行った。
SSG レベルでの日比谷共生とのミーティングはこれまで4グループについて行われており、話し合いの内容が簡単に報告された。また、いわゆる「安岡共生」は Sim-CYCLE の高度化をプロジェクトそのものの目標においており、そのアウトプットを共生2で利用することはプロジェクトの構造上比較的容易であると思われる。 海洋炭素循環モデル開発の進捗状況については、炭酸系も含んだ形で海洋生態系モデルの海洋大循環モデルへの組み込みがほぼ完了したことが報告された。赤道太平洋域におけるクロロフィル濃度の過大評価など他のモデルとバイアスは存在するものの、コード開発の段階からチューニングの段階に入ったと言える。
(2) 陸域炭素循環モデルの開発と呼び実験 (伊藤 昭彦)本課題で構築される統合モデルにおいて、陸域炭素循環モデルは、陸域におけるCO2収支を与えて大気中の放射強制力を変化させ、また気候物理コアモデルにおける陸面過程スキームに葉面積指数(LAI)を与えることで水・熱収支を変化させる。
陸域炭素循環SSGでは、Sim-CYCLE(Simulation model of Carbon cYCle in Land Ecosystems)を基本とした上記の機能を持つモデルコンポーネントを開発した。具体的には、もともとC言語で記述されたSim-CYCLEをFORTRANに書き換え、ベクトル化を施すことで気候物理コアモデルとの結合を可能とした。
2002年度は、結合用モデルを開発する一方で、環境変動シナリオをoff-lineで与える予備実験を行った。IPCC-SRESのA2とB2排出シナリオを設定した、CCSR/NIES、HadCM3、CCCmaによる気温・降水量シナリオに基づいて、2099年までの陸上生態系における生産量と炭素貯留量の変化を推定した。その結果を解析し、重要性の高い過程とパラメータについて検討した。
2003年度は、気候物理コアモデルとの結合を完成させる。共生第3課題(生態系)および環境省S1課題によって得られた観測データに基づくモデル検証は2002年度にも部分的に着手されているが、2003年度はさらにそれを押し進め、Sim-CYCLEの改良を実施する。
(3) 「陸域炭素循環モデルにおける植生帯移動予測コンポネントの構築」 (佐藤 永)数百年〜千年オーダーにおける地球環境予測を行うためには、植生帯の分布変化を予測しなければならない。特に高緯度地域における植生分布は、短期間に大規模な変動が生じると考えられており、これを予測することは優先度の高い課題である。
植生変化を予測する既存のモデルにおいて、最も統合的であるのがDynamic Global Vegetation Models (DGVMs)である。DGVMsは「物質循環モデル」と「生物過程モデル」、そして「植生動態モデル」とを結合することで、環境条件が変化した場合の、植生構成変化の方向と速度を予測することを試みている。しかし、既存の全てのDGVMsは、種子拡散を明示的に扱っておらず、種子供給速度が律速となるような急激な気候変動下における植生分布変化を予測できない。また、高緯度地域に特有な動態、つまり、パッチ動態よりも攪乱と遷移が強く植生分布を規定している動態も扱っていない。
共生第2プロジェクトでは、陸域統合モデルの構築が進められている。これは「植生物理過程モデル MATSIRO」と「植生物質循環モデル Sim-CYCLE」、そして「植生分布モデル」とを結合することにより、日本独自のDGVMを構築するという試みである。これら構成要素のうち「植生分布モデル」のみが未構築であるが、さしあたっては、高緯度地域に特化した植生動態モデルを構築し結合することを計画している。この植生動態モデルには、先に述べた理由により、「種子散布」と「高緯度地域に特有の動態」とを明示的に組み込まなくてはならない。このうち前者については、既存の種子散布モデルをスケールアップし取り込むことを計画している。
後者については、高緯度地域における植生移動予測モデル
ALFRESCOをベースに用いることを考えている。
ALFRESCOは、仮定した4つの生態系タイプ間における遷移の方向と速度とを計算するが、その基礎となるデータは野外観測より経験的に得られており、原則として、データの存在する環境変化の範囲内でのみ植生変動を推定する事ができる。他方、今後構築される陸域統合モデルにおいては、ALFRESCOベースの植生動態モデルに物質循環モデルと植物生理モデルとを結合することにより、各植生タイプの相対的生存力を求めることが可能となるため、データの存在しない範囲の環境変動における植生変化についても言及できると期待される。
(4) 温暖化・大気組成変化相互作用モデルグループの現状と課題について (滝川 雅之)大気組成・大気化学サブサブグループでは、複数の移流スキームを用いたトレーサー移流実験の結果を紹介した。現在考慮している化学種は、おもに対流圏での輸送の指標となるラドン222,成層圏での輸送の指標となる SF6, そして Age-of-Air を調べるための仮想的なトレーサーの三種類である。以前の移流スキームと比較して、現在共生第一課題などと共同で開発しつつある FFSL + PPM with steepeningスキームのほうが数値拡散が少なく、上部対流圏でのラドン分布などに顕著な差が見られることが報告された。SF6 は東北大などでも観測が行われており、その結果と比較検証することも予定している。
併せて、統合モデルでの大気化学コンポーネントの雛形となるCHASER の 8並列時での数値計算パフォーマンスを紹介した。現状では計算コストよりも精度に留意したモデル開発を行っているため、大気中での気相反応が全計算時間の 4 割程度を占めている。ただし、ベクトル化については十分検討がなされているため、統合モデルに提供する際には化学種を減らし、より簡略化した大気化学モデルが必要になると思われる。また気相反応過程の次に計算コストが高いのは移流スキームであり、引き続きさらに精度良く高速に計算する移流スキームの開発を進めていく必要がある。
4) 閉会 |