「人・自然・地球共生プロジェクト」課題2第5回運営委員会議事録1. 日時平成16年5月13日(木) 14:00―16:00 2. 会場 海洋研究開発機構横浜研究所(横浜市金沢区昭和町3173-25) 交流棟2階 小会議室 3. 議事次第 1)開会挨拶 2)各サブテーマの進捗状況報告 (1)炭素循環モデル開発:昨年度成果のまとめと今年度計画 (河宮未知生)発表の前半で、昨年度の成果を簡単にまとめた。陸域炭素循環モデル開発グループの成果としては、1) オフライン実験による温暖化影響評価、2)Sim-CYCLE の、陸面モデル MATSIRO との結合・AGCMへの移植、3) 土地利用変化プロトコルへの対応の3つを挙げることができる。海洋生物地球化学モデル開発グループの成果としては 1) 海洋大循環モデルへの炭素循環モデルの組み込みと、それによる温暖化影響評価、2) 大気海洋結合モデルへの炭素循環モデルの組み込みを、また陸域植生動態モデル開発グループについては、個体ベースの植生動態モデルの1地点バージョンが完成したことを主な成果としてあげることができる。発表の後半では今年度の計画について述べた。統合モデルの炭素循環パートの今年度の開発計画としては、1) 大気海洋結合モデル最新バージョンへの海陸炭素循環モデル移植、2) AGCM内での生物季節設定の見直し、3) フォーシングファイル読込などの細部調整を6月いっぱいまでで終え、C4MIPプロトコルに沿った実験を7月には開始する予定である。
11月には論文執筆を開始する。今年度に本プロジェクトの成果を発信する上で重要な行事としては9月の IPCC LA 会議、10月の IGBP/AIMES- WCRP/WGCM 合同ワークショップ、3月のC4MIP実験結果提出締切があるが、上記の計画に沿って開発を進めていけばこれらの場での成果発表が可能である。 <質疑応答> 中沢氏:海洋炭素循環モデルの結果について、海面での二酸化炭素フラックスの分布な どは現実的なものがでるものなのか? 答(河宮):海面二酸化炭素フラックスについては比較的現実的なものが得られる。他のモ デルを見回してみても、大まかには似た分布が得られているようである。 中沢氏:陸域炭素循環モデルについて、同位対比の出力結果などは観測と一致するもの なのか。 答(伊藤):大まかには一致すると言ってよい。 (2) 温暖化‐雲・エアロゾル・放射フィードバック(久芳奈遠美) ・15年度の成果報告 CCSR/NIES/FRSGC AGCM にエアロゾル輸送モデルSPRINTARS を組み合わせ、さらに雲粒数密度のパラメタリゼーション(Abdul-Razzak et al. (1998) とKuba(2004)の2種類)を導入し、衛星データとの比較を行った。Kuba(2004)のパラメタリゼーションについては有機炭素粒子の取り扱いがまだできないので雲粒数密度が過少評価されており、16年度の検討課題とする。NICAM は力学過程、大気境界層乱流過程、地表面フラックス過程、雲物理過程(バルク法)、放射過程の導入が完了している。雲解像領域モデルへの雲微物理過程の導入としてはCReSS に2モーメントビン法を導入することにし、そのための準備が進んでいる。
早坂氏:モデル以外の情報を用いた結果検証が必要ではないか。 答(久芳):観測との付き合わせは行っていく。ただし、上昇流やCCN 数密度のデータが少ないのが問題ではある。 高橋氏:NICAM での実験結果を元に GCM のパラメタリゼーションを改良していく道筋の概略を教えて欲しい。 答(久芳):詳細モデルに基づいたパラメタリゼーションを NICAM に導入し、NICAM 上での 大規模場と雲形成過程との統計的関係を調べて、GCM で使えるパラメタリゼーションに焼き直していく。 鈴木氏:NICAM を用いた実験の具体的イメージは? 答(富田):まずは集中格子を用いて狭い領域について実験を行い、観測との比較を行う。将来的には全球での雲解像実験を行う。 江守氏(コメント):全球的な放射収支に重要であるのは亜熱帯の下層雲だと思うので、全球実験の結果解析を行うときにはそこに注目してもらいたい。 (3)気候物理コアモデル改良(渡辺 真吾) 平成15年度の研究成果と16年度の研究計画に関して発表した。研究成果に関しては15年度の報告書の中身を簡潔に紹介した。16年度の研究計画では、昨年度に引き続き、新放射コードを用いた際の大気モデルの地形性重力波抵抗のチューニングを行うとともに、大気と海洋を結合した上でのチューニングを年度中盤から開始する。また、昨年度行った高解像度モデル による重力波の直接シミュレーション結果とHinesパラメタリゼーションへの導入に関して、 年度前半に論文の執筆を開始する。さらに高解像度のモデルの実験に関しては、地球シミュ レーターのMDPSの容量が増え次第、随時開始することとする。
<質疑応答>鈴木氏:重力波パラメタリゼーションを改善しいく際の、元になるパラメタリゼーションは何かあるのか。 答(渡辺):Hines のものをベースに改善を行う。 江守氏:他の研究機関でのモデル開発はどのような状況にあるか。 答(渡辺):GFDL の SKYHI がよく知られているが、開発者(K.Hamilton)がGFDLを去ったため開発が止まっているのではないか。そういった意味で我々のモデルは非常に独自性の高いものといえる。 (4)温暖化・大気組成変化相互作用(大気化学)(須藤 健悟) 温暖化・大気組成変化相互作用サブモデルでは大気化学過程(オゾン分布など)やエアロゾルの温暖化および海洋・陸域植生変化との相互作用を表現・予測することを主な目的としており、CCSR/NIES AGCM を土台とした全球化学モデルCHASERやエアロゾルモデルSPRINTARSを用いてエアロゾル・化学のオンライン計算を可能にすることが当面の課題である。今年度は本サブモデルを統合モデルに組み込んだ場合の長期実験を念頭に置いてCHASERモデルの高速化を行い実行性能について地球シミュレーター上で評価を行った。本高速化作業により化学過程に関して大幅な計算コスト削減が実現された。さらに温暖化・大気化学相互作用予測のための前段階的な研究として温暖化を考慮した対流圏化学場の将来予測実験を行った。本年度はこの予測実験について特に温暖化時の成層圏/対流圏間物質交換の変動を重点的に解析し、温暖化による大気循環場の変化により成層圏から対流圏へのオゾン流入量が増加するなどの予測結果を得た。また本年度後半では、CHASER と SPRINTARS 両モデルの結合作業を開始した。昨年度から行っている輸送過程の検証について、本年度は特に成層圏への輸送および成層圏中の輸送の評価として空気の年令分布を計算し、下部成層圏における観測値と比較を行った。今回の計算では赤道域では観測推定値に近い値が得られたが、中・高緯度では空気の平均年令を過小評価する傾向にあることが分かった。
<質疑応答> 高橋氏:酸性雨が植生に与える影響などは、統合モデルでこれから取り扱っていくべき問題であろうか。 答(須藤):地域性が強く、むしろ領域モデルで取り扱うべき問題と考える。 早坂氏:CCN形成に関する科学的プロセスを直接取り扱うようなことはしているか。 答(須藤):微視的な化学現象は取り扱っていない。それをするにはもっと細かなスケールのモデルが必要であろう。 江守氏:モデル中でのpHを可変にした影響はどの程度であるか。 答(須藤):関係する化学種の分布が有意に変わる程度の影響はある。 (5)寒冷圏モデル(阿部 彩子) 温暖化に対する氷床の応答特性や海水準への影響を調べるため、現実をよく表現するよう氷床モデルを開発し、グリーンランドと南極への適応性を調べた(Saito and Abe-Ouchi, 2004)。さらにグリーンランド地域の気候が3〜4度温暖化すると海水準3メートル程度に相当する氷床の融解が起こり、南極地域は気候が7〜8度以上温暖化してようやく氷床の融解による海水準上昇をもたらすことを示した。一方、温暖化の予測の程度について調べるため、地球シミュレータを用いて人工的なフラックス調節のない大気海洋海氷結合モデル(解像度は中程度、大気 200km 、海洋100km 程度)の調整や感度実験を行なった。全球と比較してとくに温暖化感度が高い高緯度の気候や海氷の再現性や温暖化に対する応答特性を調べた結果、グリーンランド氷床周辺の温暖化の程度は、21世紀末頃に温室効果ガスが安定化したとしても、海水準に有意に影響を及ぼす程度に達する。大気中二酸化炭素増加量が年率1%と仮定して、4倍に達する140年間後までの予測を行った。全球に比べて気温増加が極域とくに北半球で大きく、グリーンランド氷床が海水準に有意に影響する程度となる。南極氷床においては降水量増加の方が気温増加の効果よりやや上回る結果となった。今後、モデルの不確定パラメタや感度の異なるバージョンで同様の実験を行なう。数十年変動や不確定性の幅など極域のより詳しい解析が必要である。さらに、同期した大気―氷床結合(部分統合モデル)の計算を可能にするためのプログラム改変をすすめており、現在調整を続けている。
<質疑応答> 松野氏:結合モデルの結果について、現在気候における北太平洋の海氷が張り出しすぎのように見える。 答(阿部):そうかも知れない。新バージョンの結合モデルの結果とも比較して改善していく。 河宮氏:氷床モデルとAGCMの結合作業はまもなく完了し、年度内には具体的な実験に移れるものと考えてよいか。 答(阿部):そうなるよう努力する。 松野氏:温暖化によって降水量が増えることによる氷床への影響はどの程度か。 答(阿部):我々のモデル結果によれば、グリーンランドでは気温上昇の効果が勝り、南極では降水量増加が勝る。 江守氏:氷床モデルを用いた氷期間氷期実験のフォーシングはどのように与えたのか。 答(阿部):いくつかの境界条件のもと行ったAGCMの結果をフォーシングとして与えている。細かな条件設定については統計的関係を使っている。 3)総合討論 溝部氏(連絡):夏頃から中間評価プロセスが始まる見込みである。担当者を研究機関に送る形で評価を行うことになるかも知れない。講評委員からの質問に対する回答の内容なども評価資料になる。日程・形式については、具体的な進展がありしだい研究機関にお知らせする。 早坂氏:統合モデルが完成してそれによる実験を行う際、結果の妥当性の評価をどのように行うのかを考えておくべきだ。 答(河宮):正直言って妙案はない。観測との比較やパラメータ感度実験は地道に行う。 江守氏:生物地球化学の分野でIPCC 報告書の日本人 Lead Author はいない。広報に努力しないと成果が伝わらない可能性がある。 答(松野):成果の広報には努力する。例えば10月には、IGBP/WCRP やIPCC のキーパーソンを招いて国際ワークショップをフロンティアで行う予定である。 近藤氏(コメント):IPCC のスケジューリングについて。来年5月にもLA 会議があり、その時点での結果はなるべくすくい上げる方針で報告書が編集されるようである。ただし遅くとも来年12月には論文の形で文書化されている必要がある。 |