「人・自然・地球共生プロジェクト」課題2 第12回運営委員会議事録
1. 日時
平成18年5月11日(木) 14:00-16:30
2. 会場
海洋研究開発機構横浜研究所(横浜市金沢区昭和町3173-25)
地球情報館 4F 大会議室
3.議事次第
1) 委員長挨拶
2) 文部科学省挨拶
3) 進捗状況報告
発表者:河宮 未知生
PPT File (kawamiya_06.05.11.ppt 5311KB)
統合モデルの開発は、本年度前半に成層圏化学過程を導入し、さらに可能であれば植生動態モデルを導入することで一段落が着く。年度後半で統合モデルによる20世紀気候再現・温暖化実験を行うことを目標とする。 他に炭素循環グループの目標としては、21世紀の炭素収支予測(土地利用変化入り)、大気海洋結合炭素循環モデルや植生動態モデルによる実験結果に基づいた論文執筆がある。 また、NICAM 開発グループの協力として、NICAM へのエアロゾル輸送モデル( SPRINTARS )導入をすすめている。本年度中に導入を終えて、現実地形を入れた実験を行うことが目標である。
(1)大気化学現状報告(須藤 健悟)
PPT File (sudo_06.05.11.ppt 3714KB)
温暖化・大気組成変化相互作用(大気化学)班の平成18年度研究目標
●2003−2005年度のまとめ:
- 化学モデルCHASERとエアロゾルモデルSPRINTARSを結合する作業を完了。
- 化学・エアロゾル結合コンポーネントの統合モデル(KISSME)への組み込み。
- CHASER化学スキームの成層圏化学への対応・拡張。
(気相化学追加・光解離定数計算手法の改良など)
- IPCC-AR4大気化学関連プロジェクトへの日本モデルとしての貢献。
- CHASERによる過去・将来の対流圏オゾン化学変動の再現・予測。
エミッション・気候・成層圏オゾンのそれぞれの影響を分離して評価。
--> 気候変動や成層圏オゾン変動の影響もそれぞれ重要。
(--> 成層圏化学も対流圏化学も同時にシミュレートする必要がある)
●2006(平成18)年度目標:
(2)寒冷圏モデル (阿部 彩子)
PPT File (abe_06.05.11.ppt 3838KB)
温暖化に対する氷床の21世紀中およびそのごの長期影響などについて調べた。
1.大気海洋結合モデルの温暖化実験(IPCC に提出済み)から21世紀中の氷床 変化傾向と海面上昇はグリーンランド氷床は上昇、南極は下降させるセンスだ が、いづれも数十センチにとどまる。内陸標高変化などは観測の傾向と一致しているが、定量的には予想より早い氷河流出やそれによる高度低下を説明して いくことが今後の課題である。
2. 温暖化安定化シナリオにおける氷床や海水準の長期記憶の評価として、大気海洋結合モデルの長期積分とそれを用いた氷床モデル実験を行ない、シナリオによっては、グリーンランド氷床は数千年後に消失に近く海面を数メートル上昇する結果になる。
3. 氷床ー気候結合モデルの検討、作成、結合モデル実験実施中である。これにより、氷床後退によるアルベドフィードバックや氷床の融解水が海洋に与える影響についても調べることが期待される。.氷床ー気候ー炭素循環結合モデルによる長期変動計算を予定している。また、南極氷床の計算も残されているが、グリーンランド氷床とGCMとの結合を優先させたい。
(3)物理気候コアモデル改良サブグループ (渡辺 真吾)
PPT File (wnabe_06.05.11.ppt 275KB)
平成18年度の物理気候コア改良サブグループの研究計画を発表した。
昨年度に引き続き、対流圏気候のチューニングを行い、気候感度等が従来の中解像度MIROCと同程度となるようにした上で、成層圏気候のチューニングを行う。成層圏化学過程の導入を行い、オゾンホールの再現などが、従来の成層圏化学のみを導入したモデルと比較して遜色ないものになるように、物理気候(重力波抵抗パラメタリゼーション)の改良も行っていくこととする。
4)総合討論
[河宮氏の報告に対して]
(宮内) 気候と炭素循環の相互作用を考慮する場合としない場合とで、どちらが過去の観測事実に近いのか。
(河宮) 気温の変化に関しては、相互作用を考慮しない場合は敢えて気候が変化しないようにしており、観測との比較の意味があまりない。CO2濃度に関しては、2000年ころまでの結果では差が小さく、どちらともいえない。
(早坂) マウナロアなどで観測されている時系列との比較は。
(河宮) 行っている。緯度による季節変動振幅などはモデルでよく再現されている。
[須藤氏の報告に対して]
(早坂) Organic Carbon(OC), Black Carbon(BC) はCHSERの中でどのように区別されているか。最近の研究で、Black Carbon として観測されるものの中にも Organic なものが含まれていることが分かってきている。
(須藤) SPRINTARSと同様の扱い。BCとOCは別のものとして取り扱う。
(江守) BCとして認識されるものの中で、実は Organic なもの、というのはどのくらいの割合なのか。
(早坂) 定量的な割合はよく分からない。
(秋元) 実際には1つの粒子の中にBCもOCもあるということ。モデル内でどう取り扱うかは今後の課題。
[阿部氏の報告に対して]
(松野) 氷床の一部で移動速度が非常に速くなる現象があるが、モデルで解像できているのか。
(阿部) モデルの格子間隔は20km。そうした現象は完全には解像できないので、いくぶん平滑化された形で再現される。
(松野) モデルの高解像度化は考えているか。
(阿部) 将来的には考えている。ただし「shallow ice 近似」を取り除いて粘性を3次元的に考慮する改良も考えており、こちらも計算資源を必要とする。
[渡辺氏の報告に対して]
(松野) 50hpaの気温変化の結果は、どの解像度のモデルで出したものか。
(渡辺) T42である。
(松野) 水蒸気量はモデル内で計算しているのか。
(渡辺) メタンの酸化で水蒸気が形成される過程はパラメタリゼーションで表しているがその他はモデルで計算している。
(秋元) PSC上の反応を入れたコードの開発方針は。
(須藤) 環境研の秋吉氏が開発したものをベースにする予定。
[全体を通して]
(松野) 共生2で開発中のモデルは IPCC AR4 以後の温暖化予測に必要なもの。統合モデルタイプのモデルを持っている研究機関は、それを用いて温暖化予測をしていくことになる。
(近藤) 先々週のIPCC総会に出席した。そこでも、気候−炭素循環系のフィードバックは重要な問題として捉えられていた。
(大竹) 共生3(安岡代表)との連携はどのようにとられているか。
(松野) 観測データとの比較などを通した Sim-CYCLE の改良が共生3では行われる。その結果は統合モデルに導入されている Sim-CYCLE にも反映される。
(宮内) 気候−炭素循環系のフィードバックの実験で行ったランは1つだけか。
(河宮) 他にもパラメータを変えた実験を行っている。フィードバックの強度は思ったほどランによって変化しない。
(大竹) IPCC AR5 の作成方針・スケジュールはどのようになっているか。
(近藤) 大まかな方針は AR4 と同じ。先日のIPCC総会では、具体的なスケジュール作成は先送りになった。排出シナリオを複数つくり、そのうちいくつかをベンチマーク的なものとして選ぶことになろう。
(大竹) IPCC AR5 作成の際には、日本が国として課されるミッションがあるのか。
(江守) 今の段階では具体的な形になっていない。AR4 作成の際にも、共生プロジェクトが始まる直前くらいでは具体的なミッションという感じではなかった。「ミッション」に関して言えば、ベンチマーク的なシナリオに基づいた温暖化実験を行うことがミッション、ということになる。
(松野) 共生プロジェクトで充実した温暖化の研究を、今後もぜひ盛り上げいきたい。
以上
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