4-2 大気微量気体・エアロゾル・雲・気候相互作用モデルサブグループ


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4-2a 温暖化・大気組成変化相互作用モデル

4-2b 温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価

大気中のオゾンは、力学的な意味と環境学的な意味で重要な役割を担っている。また、オゾン以外にも水蒸気やOHラジカル、NOxや一酸化炭素といった化学物質はそれ自体が地球温暖化や地球環境問題に重要であるだけでなく、硫酸エアロゾルやメタンなどといった他の温暖化気体にも多大な影響を与えうる。このため、大気化学との相互作用を考慮したモデルを用いて温暖化予測実験を行うことは、予報の精緻化や定量化、また温暖化プロセスの理解の上で重要であると考えられる。

東大気候センター、環境研および地球フロンティア研究システムでは、光化学反応過程と陽に結合した大気大循環モデルを開発し、成層圏オゾンホール将来予測実験(Nagashima et al., 2002)、ピナツボ火山噴火影響評価(滝川,2000)、ENSOの対流圏オゾンへの影響評価(Sudo et al., 2001)などの研究をこれまでに行ってきた。今回の共生プロジェクトにおいては、このうち対流圏光化学モデルを詳細に組み込んだモデル(CHASER)を元に成層圏・対流圏の光化学過程と結合した大気大循環モデルへと拡張し、地球シミュレータを用いていくつかのエミッションシナリオに基づく高解像度time slice simulation を行う。この時点での着目点は対流圏ではおもに気候変動によるOHラジカルの変化と、それがメタンの光化学的寿命に与える影響である。成層圏では同じく気候変動による成層圏水蒸気量の変動と極域成層圏雲およびその表面上での不均一反応によって活性化されるオゾン破壊効果の相互作用である。あわせて気候変動によって積雲対流活動が変動するため、その際に起きる雷NOx生成量の変動についても評価したいと考えている。

次に、東大気候センター・九大応力研で開発された対流圏エアロゾルモデル SPRINTERS に成層圏エアロゾルを組み込み、CHASER と結合したエアロゾル-化学-気候モデルを用い、化学過程のエアロゾルへの影響評価を行う。対流圏エアロゾルのうち、硫酸エアロゾルは化学過程に大きな影響を受けている。これは、地表から放出された二酸化硫黄などの前駆気体が、気相および液相でのオゾン、過酸化水素、OHラジカルとの反応によって硫酸エアロゾルとなるためである。また二酸化硫黄の人為起源エミッションは今後のアジア域、とくに中国の経済発展によって放出量が大きく変動すると考えられており、その気候への影響評価を詳細に検討することは今後の温暖化研究において非常に重要である。

これらの部分統合モデルを用いた各プロセス間の相互作用を評価したうえで、最終的な統合モデルの構築に取り掛かる。先に述べたような相互作用のほかには、陸域生態系モデルからの非メタン炭化水素の放出、また逆に大気化学モデルから予報される酸性雨、オゾン量による生態系への影響などを評価することが考えられる。また海洋上で雲凝結核として硫酸エアロゾルが重要であるといわれているが、その生成源としてのDMSの海洋から大気への放出量を海洋生態系モデル内で予測することも将来的には検討したいと考えている。

図5: 温暖化・大気組成変化相互作用モデル概念図
図5: 温暖化・大気組成変化相互作用モデル概念図。黒矢印は現時点で統合化がなされているもの、赤矢印は今後統合化を予定しているものをそれぞれ示す。

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4-2b 温暖化―雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価

4-2a 温暖化・大気組成変化相互作用モデル

IPCC2001のレポートにもあるように、対流圏エアロゾルの間接放射強制力の見積もりはいまだに不確定性の大きい問題であり、その主な要因はエアロゾルと雲の関係が不確定であることによる。エアロゾルの中で雲粒の凝結核(Cloud Condensation Nuclei:CCN)として働くものの粒径分布や化学組成と雲の中の上昇流速度によって雲粒の粒径分布が決まり、雲の反射率や光学的厚さなどの光学特性や雨の降り易さなどの降水効率が変わり、ひいては気候変動予測の中では放射収支や水循環にきてくる。これらの因果関係を明らかにするためには詳細雲モデルによる数値実験が不可欠である。この共生プロジェクトでは大気大循環モデル(GCM)でエアロゾルが雲の光学特性に及ぼす影響を評価するためのパラメタリゼーションを開発する。

現状のGCMの例をあげると、まずCCSR/NIES の場合は放射計算に用いる雲粒の有効半径を雲粒数密度から計算し、その雲粒数密度はエアロゾル数密度から算出するようになっている。ここで使われる式はエアロゾルが少ない時はエアロゾル数密度に比例して、多くなると一定値に近づくという事を表す式で、おおまかな傾向はあっているが、CCNとならないものも全部含めたエアロゾルの数の関数であるということと、上昇流が考慮されていないことが問題といえる。また、Max Plank Institute の ECHAM GCMの場合は、雲粒数密度はエアロゾル数密度と雲内上昇流速度の関数になっている。雲内上昇流速度はグリッド内平均上昇流速度から求める。格子の中での雲の割合、雲内の上昇流速度の求め方が課題である。

一方、フロンティアでは、GCMよりずっと細かい詳細雲モデルを開発し、数値実験によって雲の光学的性質や雲粒数密度を予測するパラメタリゼーションを開発している。いろいろな条件での数値実験の結果を統合して、CCNの過飽和度スペクトルと雲底での上昇流速度の関数として雲の中の過飽和度の最大値を予測する式を開発した。また雲内の最大過飽和度で活性化することのできるCCNの数と雲底での上昇流速度の関数として雲粒数密度を予測する式を開発した。さらに予測した雲粒数密度と雲の鉛直積算雲水量から雲の光学的厚さを予測する式も開発した。同様に、雲内各層の雲粒の有効半径を雲粒数密度と雲底からの高度の関数で表すことも可能である。また、精度は落ちるが、CCNスペクトルから直接、雲粒数密度を予測する方法も開発した。これを用い、衛星観測などから独立に得られた雲の光学的厚さと鉛直積算雲水量から雲粒数密度を予測して、雲底での上昇流速度とあわせてCCN数密度を逆算する事が可能である。この方法はエアロゾルではなくCCNの情報を全球的に長期的に観測するのに非常に有効である。

研究方針としては、GCMに組み込むための、エアロゾル(CCN)の気候への影響を評価できるパラメタリゼーションを開発するために、まず、すでに現時点でGCMで用いられているパラメタリゼーションを検討し、ここで開発した詳細雲モデルによる数値実験の成果と合わせて、より良いパラメタリゼーションを開発していく。この際にはGCMの予報変数からどのようにしてサブグリッドスケールの雲を表すか、即ちグリッド内の雲の占める割合、雲内上昇流速度、雲の鉛直積算雲水量の算出などが問題になるが、この点に関しては他のグループと連携して解決していく。

今年度はCCSR/NIES GCM と ECHAM GCMの検討にとりかかり、その問題点の洗い出しと、それらを使った計算結果の検討をした。問題点としては、グリッド内の雲の割合の算出方法、雲内の上昇流速度の算出方法、雲水量から雨水量への変換時定数のパラメータの計算式などがあがっている。そして方針として、以下のことが合意された.

  • エアロゾルの影響はCCNと上昇流速度のセットで扱う。
  • エアロゾルの情報はCCNの情報に焼き直す(始めは(NH4)2SO4, NaClなどできるところから)
  • 上昇流速度の導出は当初は現状のECHAM-GCMに従い、必要なら改良する。
  • 雲粒数密度の診断式をまず作る。これを発生項として雲粒数密度を予報変数とする事をめざす。タイムステップの長さによっては診断式で充分なこともあり得る。
  • 雲氷量を必要があればカテゴリー分けする(重力落下速度が大きく異なるので)。層の厚さに依っては不要かもしれない。


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