地球上南北両極には陸上に氷床、海上に海氷があり、それらの生成変動は地球規模の気候変動と直結している。このため、温暖化に伴い氷床や海氷が敏感に反応して融解したり、さらに広範囲の気候や海面変動に影響を及ぼすことが懸念されている。そこで、このグループでは、最終的には地球シミュレータ上で稼動する大気/海洋/海氷/氷床結合モデルを構築し、地球温暖化や海面変動の予測実験を行なう。まず、部分モデルの改良をしながら様々な感度実験を通じて不確定要素の把握につとめる。さらに、結合されたモデルを用いて現在や過去の再現実験を行ないながら、予測実験の精度を高めることをめざす。
氷床の質量は、降雪や融解と再凍結といった大気との相互作用のほか、内部の氷の流動変形や底滑りなど氷床の力学過程により決まっている。温暖化に影響されると、氷床は融解するばかりでなく、降雪の増加や氷の変形による負のフィードバック(氷床の全体としての質量損失を押さえるメカニズム)を受けたり、逆に面積や高度の低下による気温と融解への正のフィードバックを受けたりする。また融け水の増加、氷温度の変化、流動や底滑りの変化は、氷床変動に正ないし負のフィードバックをもたらす。そこで氷床変動の予測には、降水量や気温や放射などを計算する気候モデルと、融解量などを計算する表面質量収支モデルと、氷床の流動と底滑りや形を予測する氷床力学モデルで構成される必要があり、それらが密接に関係しているので結合する必要がある。今年度までに部分モデルの製作は一通り行なったので、今後は、各部分の改良を行なったり、地球シミュレータ用に氷床モデルプログラムを並列化最適化したり、カップラーの開発を行なって気候モデルと氷床力学モデルの結合の特性を調べる。また、2万年前の最終氷期以降に関して、海洋底堆積物や地形のデータによる過去の気候や氷床変動/海水準の復元がかなり高精度で行なわれるようになってきたので、これを再現する数値実験を試みることを通してモデルの検証をおこなっていく。
海氷についてはより精度高く面積や厚さや密接度等の分布を求めることが必要である。すでに大気/海洋モデルと結合した形で海氷モデルが開発されているので、今後は海氷部分モデルの高精度化とともに、結合系としてのふるまいの把握のための感度実験調査と観測データによる検証を行なう。とくに、海氷は、厚さによって、大気/海洋間の熱交換の効率や塩分除去過程が格段に異なってくるので、海氷熱力学部分の精密化を検討することを予定している。共生3の観測研究とも密接に連絡をとりあってより現実的で本質的な過程のとりこみを行なう。